7月9日(土)、10日(日)、宮城県村田町のスポーツランドSUGO(1周3,5865km)で「SUGO スーパー耐久3時間レース」が開催された。オートプルーブが注目しているのは、カーメーカーが次世代燃料を使用して参戦するST-Qクラスだ。中でもカーボンニュートラルな次世代燃料とされる合成燃料を既存の内燃機関に搭載して参戦しているSUBARUのTeam SDA Engineeringの挑戦に注目している。
#61「SUBARU BRZ CNF concept」参戦するSUBARU BRZ CNF conceptマシンは市販車のBRZがベースで、エンジンもノーマルのFA24型を搭載。これにCN燃料を使用し参戦している。
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このST-Qクラスは、カーメーカーが開発目的で参戦するための特別クラスで、改造範囲は広く、レース規則による制約は小さい。そのためさまざまな開発テストを兼ねていると言っていいだろう。とりわけトヨタの水素カローラ、SUBARU同様CN燃料を使うGR86(エンジンはトヨタG16E型のダウンサイジングに換装)、マツダのバイオ由来のディーゼル燃料で走るマツダ2などが参戦し、新型日産Zも参戦してきている。
燃料はカーボンニュートラルな合成燃料を使用する今回のSUGO3時間耐久レースは、グループ1とグループ2に分かれ、それぞれのグループで3時間耐久レースを行なうというもの。注目するSUBARU Team SDA Engineeringはグループ2に振り分けられ、他にマツダ2のバイオディーゼルを使用する#55と、水素を直接燃焼して走行するトヨタの#32 GRカローラの3台がエントリー。ガチンコ勝負として注目された#28 GR86は今回の参戦は見送られていた。
その理由についてGRの佐藤プレジデントは「前回の富士24hでトラブルが発生したことを受け、マシンの総合的なポテンシャルの見直しを部品単位で行なっているため」と説明している。ただし次回第4戦のオートポリスの5時間耐久には参戦する予定ということだった。
もともとマツダ2、水素カローラはBRZ CNF conceptとはラップタイムに差があり、直接のライバルという関係にはならないため、今回の#61 SUBARU BRZ CNF conceptのライバルとして位置付けているのは、ST-4クラスにエントリーするGR86との勝負ということになる。
グループ2に参加するクラスはST-3、ST-4、ST-5クラスとST-Qクラスで、ST-QにはMAX レーシングから日産ZレーシングコンセプトとエンドレスAMG GT4のマシンも参戦したがこの2台はグループ1に振り分けられていた。
参加車種の幅広さもスーパー耐久シリーズの魅力SUBARU BRZ CNF conceptがラバルとするST-4クラスは排気量1501cc~2400ccまでで、前回の富士24hでは#86トムススピリットGR86に、ラップタイムで負けており、また#884シェイドレーシングGR86も速いラップタイプを刻んでいた。ドライバーを見ると#86のトムススピリットは河野俊佑、松井孝充、山下健太という布陣で全員がスーパーGT300、500クラスで走るドライバー達だ。また#884も石川京侍、国本雄資というGTドライバーが走らせている。
実はこのST-4とST-Qでは改造範囲が異なり前述のように改造範囲の制限が広いST-Qのほうが有利。だから本来はラップタイムもST-4よりは速いはずなのだが、Team SDA Engineeringは人材育成の課題にも挑戦しているため、若手エンジニアが中心のチーム。純粋なレーシングチームとは大きく異なっているわけだ。
したがってワークス・レースガレージでもあるトムススピリットには、経験豊富なノウハウがあり、参戦2回目の#61 SUBARU BRZ CNF conceptでは#86を上回ることができなかったといういきさつもあった。そうした事情もありTeam SDA EngineeringとしてはST-4クラスのGR86よりは上位で走行したいというのが今回の目標でもある。
富士24時間から改良を重ねて挑んだSUGO
今回SUBARU BRZ CNF conceptは富士24時間レースが終わってから、次のステップとしてマシンの改良に取り組んでいた。まずはエンジンのパワーアップを狙う。そして軽量化、さらにサスペンションを含めたジオメトリーの見直しを行なっている。
足回りはブッシュ類も含め、ジオメトリーの見直しが行われたエンジンは出力向上に取り込み、空気量を増やして充填効率を高めて出力を上げるという自然吸気エンジのンオーソドックスな手法の見直しをおこなった。その結果、出力向上ができたという。軽量化ではボンネットのカーボン化を行ない、またサスペンションジオメトリーでもブッシュ類の変更や車高、ロールセンターなどの見直しを行なっていた。
ボンネットはフルカーボン製にして軽量化SUBARU BRZ CNF conceptのドライバーはいつも通りのレギュラードライバーでAドライバーが井口卓人、Bドライバーが山内英輝というGT300シリーズチャンピオンコンビ。CドライバーがSDA(スバル・ドライビングアカデミー)の廣田光一エンジニアだ。
予選はA、Bドライバーの合計タイムで順位を決まる方式で、井口は早々に1分33秒100をマークしてアタックをやめている。20分間ある予選だが、井口によればクリアラップを取るのが難しくなったためアタックはやめたということだった。
外気の取り入れ口を正面にレイアウト変更しラム圧を上げて充填効率を上げた続くBドライバーの山内の時はセミウエットで、各チームとも最初はレインタイヤでピットアウトするものの、すぐにスリックに交換という状況の路面。山内は路面が乾いた状況になるまでピットアウトせず、様子を見ていた。
そして山内はタイミングを見計らいピットアウト。部分的にウエット状態が残るものの井口のタイムを0.052秒上回る1分33秒048をマーク。A、Bドライバーの合計タイムは3分6秒148でグループ2の総合7位、ST-Qクラスではトップタイムだ。
ライバルに位置付けた#86は合計3分7秒341で、ST-4クラスではトップであるものの、グループ2総合ではBRZ CNF concept の直後の8位。そして#884は3分8秒333でST-4クラス2位グルプ2総合9位となり、予選タイムではSUBARU BRZ CNF conceptがライバルを上回る結果になった。
ラムエアとするためバンパーデザインを変更し空気の乗り込み方を工夫シナリオ通りに消化できた第3戦
決勝は、真夏の日差しがもどり蒸し暑い中、午前8時45分にローリングスタートが切られた。SUBARU BRZ CNF conceptは山内英輝がスタートドライバーを務めたが、スタート2周目にオイルを吹くマシンがあり、いきなりFCYとなってしまった。FCYはその後SCへと変わりオイル処理が行われ8ラップ目にリスタート。
SUBARU BRZ CNF conceptの山内は#86との差を広げる走りを繰り広げ、55ラップ目に井口卓人と交代する時点で22秒以上の差をつけていた。ライバルには大きなアドバンテージを持ってドライバー交代ができた。さらに#86はSUBARU BRZ CNF conceptの2ラップ後にピットインをしたが56秒ほどの差が生じており、ピット作業、給油量の違いからリードはさらに大きくなっていた。
そうなるとST-Qクラスにはもはやライバルは存在せず、ひたすらラップを重ねる走行になり、Cドライバー廣田光一に交代する時には1分以上のリードをすることができたのだ。
最終スティントでは#86が山下健太のドライブとなり、SUBARU BRZ CNF conceptとの差を縮めるかに思われたが、廣田も好調で差を詰められることなくチェッカーを受けた。
結果を見れば、マシンの性能もレース戦略もすべてシナリオ通りに消化できた第3戦となった。それでも本井監督からは「さらなる課題も明確になりました。ただオートポリスまでには2週間しかないので、小変更になると思いますが、その先は思い切った改良にも取り組んで行きたいと思います」というコメントがあった。
「意志ある情熱と行動」の文字が刻まれている一方で次世代燃料とされるCNFを使用することでの課題を耳にすることがない。ここで使用している燃料は市販車にも使えるのか?というテストも兼ねているのだが、ここまでトラブルが出ていないとなれば、量産化をして価格を抑えた市販燃料への期待も膨らんでくる。が、反面ターボ車だと課題があるという噂も耳にする。このあたりにも今後、注目していきたい。
そしてSUBARUが取り組む人財育成に関し、ドライバーの山内からは「開幕戦の鈴鹿の時と、今回のエンジニアが同じ人たちとは思えないほど進歩しています。いまではレースエンジニアと話しているのと遜色なく、会話のやり取りが深い領域でできるようになりました」と話す。
それだけレースという特殊環境のなかでは量産とは異なる技術、知見が必要であり、早くもエンジニアたちは自身の中に取り込んでいることが伺える。こうした経験、知見はいずれ量産車にもフィードバックされるのは間違いない。
次戦の第4戦オートポリスには#28 GR86がさらなる改良モデルとして参戦してくると想像でき、SUBARU BRZ CNF conceptとのガチ対決も楽しみになる。
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