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過去の名車の現代化――それは実現しなかった夢でありながら、叶えられた祈りでもあった…【アメリカンカープラモ・クロニクル】第24回

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過去の名車の現代化――それは実現しなかった夢でありながら、叶えられた祈りでもあった…【アメリカンカープラモ・クロニクル】第24回

1966年 ヴァージル・エクスナー・プロフェシー

1966年、アメリカンカープラモ市場に謎めいたキットの一群が突如あらわれた。模型メーカーの名はレンウォールといい、1/25スケールの表示があるそのキット群はいずれもスタッツ、デューセンバーグ、パッカード、マーサー(・レースアバウト)といったすでに失われて久しい名ブランドの看板ばかりを背負っていた。

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車のデザインはすべて、かつてクライスラーにおいて前衛的ともいえる大胆なカーデザインを数々世に送り出したデザイナー、ヴァージル・エクスナーの手によるものだった。

エクスナーといえば、1930年代はじめにスチュードベーカー・トラックの広告アーティストから身を起こし、ハーリー・アールやレイモンド・ローウィといった大立者にその俊才を見出されて薫陶を受け、ポンティアック、スチュードベーカーを経て1949年にクライスラーに雇われると、当時同社にはびこっていたエンジニアによる帰納的デザインを否定し「デザイナーによる演繹的カーデザイン」を標榜してみるみる頭角をあらわし、1955年には「フォワード・ルック」を謳った先鋭的なデザインワークによるクライスラー300(初代)を生み出してその名声と評価を決定づけた男だ。

最終的にクライスラーのスタイリング担当副社長の座まで昇りつめたその成功にもかかわらず、エクスナーは当時社長の座にあったテックス・コルバートとデザインをめぐって激しく対立し、1961年にクライスラーを辞し野に下って、自身の名を冠したデザイン・コンサルティング会社を子息のヴァージル・エクスナー・ジュニアとともに設立・運営していた。

レンウォールによるキット化へとつながる一連のことの起こりは1963年、雑誌「エスクァイア」12月号に掲載されたカラー4ページの記事だった。当時同誌の自動車関連の記事に健筆を振るう看板ライターのひとりだったダイアナ・バートリーは、ヴァージル・エクスナーと子息のエクスナー・ジュニアに取材を試みた。

水を向けるバートリーに、エクスナー親子は大いに熱弁を振るった。現代の車はその経済的な「正しさ」から、バッジを異にするブランド各社が基本的なボディー/シャシーの共有を是としていて、デザイナーの豊かな創造性に与えられる裁量はフロントグリルの形状といったごく狭い領域に閉じ込められている。

そうした小手先ばかりのアニュアル・モデルチェンジを否定し、偉大なクラシックカーにみるような強烈なブランド・アイデンティティー、高貴な個性をそなえたアメリカン・ラグジュアリーカーの復権がもっと積極的になされるべきだと――その後バートリーとのやりとりが複数回に及ぶうち、エクスナー親子は新しい(そして古典的な)アメリカン・ラグジュアリーカーの具体的なビジョンをスケッチというかたちでバートリーに提示した。

失われたブランドネームとそのキャラクターを現代的に再解釈したスタイリングをまとう7タイトル――スタッツ、デューセンバーグ、パッカード、マーサー、ブガッティ、ピアースアロー、ジョーダンのうち4タイトルがエスクァイアに掲載され、たった見開きふたつ分の記事はただちに各界の反響を呼び起こした。

最も実現に近づいたプロジェクトはデューセンバーグだったが…
最も強力な反応はほかでもない、故フレッド・デューセンバーグの子息フリッツ・デューセンバーグによってもたらされた。エクスナー親子が2,500ドルで手に入れたブガッティ・タイプ57Cのシャシーをベースに、デザイン画にあるとおりのボディーを据えつけたショー・コンセプトカーを目の当たりにしたフリッツ・デューセンバーグは、これを自らの家名にかつての栄光を取り戻すための好機とみて、エクスナーにデューセンバーグの復活劇に参画するよう持ちかけた。

1964年9月にエクスナーは新生デューセンバーグ・コーポレーションと正式に契約し、14種類のエクステリア・デザインと膨大なインテリア・デザイン、加えて3種類の1/4スケール・クレイモデルを作り上げた。スケッチの時点では斬新なデュアルカウル・フェートンだったデューセンバーグは実製造上の懸念から無難な4ドア・セダンに化けてしまいこそしたが、1966年までにこのプロジェクトは本格展開の一歩手前まで発展した。

しかし、残念なことに新生デューセンバーグの社長兼出資者であった不動産王のフレッド・J・マクマニス・ジュニアが土壇場になって計画から撤退、生産開始に必要だった250万ドルを調達できなくなったこのデューセンバーグ・プロジェクトは水泡と消えた。

他にもACコブラをベースにマーサー、そして前述のとおりブガッティが1/1スケールの実車として受肉するに到ったが、一連のエクスナー・リバイバルカーの企てをもっとも忠実なかたちですべてかたちにしたものは結果としてレンウォールのプラスチックモデルキットだけであった。

エクスナー親子がデューセンバーグ・プロジェクトと取り交わしたロイヤリティー契約が結局1セントの利益もエクスナー側にもたらさなかったことを思えば、タスクを完遂したレンウォールのキット化プロジェクトはエクスナー親子にとっては思い入れ深いものであったはずだ。

模型であるゆえに実動車の生産の都合による制約を一切受けず、デューセンバーグのデュアルカウル、スタッツのスライド式キャノピー、マーサー・レースアバウトの銅・ブロンズ・真鍮を散りばめたメカニカルな露出、ジョーダン・プレイボーイの意表を突く展開式ランブラーシート、ピアースアローの大胆きわまるスペアタイヤ・ウェル、パッカードの後方安全性が完全に犠牲となるほど極端なブラインド・リアクォーターなどが余すところなく再現され、またそうしたデザインのインパクトはレンウォールの持ち味である(ずっと後年の日本製品にも似た)どこか几帳面で端正な彫刻技術によっていっそうの説得力を獲得した。

結合すべくして結合した、両者の持ち味
レンウォールの1/25エクスナー・リバイバルキットは、エクスナー親子によるスケッチをそのままあしらったボックストップや、ゆかしく流麗なスクリプトを用いて書かれた品質保証書の付属といったパッケージング・コスメティクスも含め、総じて品位の高さを感じさせるキットだった。

amtやジョーハン、MPCといった時勢にのって目まぐるしくキット化をこなすアニュアルキットメーカーの製品とエンジンの付属といった点を同じくしながらもあきらかに異なる感触は、おそらくエクスナーによる古典的エレガンスの影響もあろうが、レンウォール自身が正統派の知育模型開発で培ってきた経験に起因するものと思われた。

プラスチックの骨組を組み立てて薄紙の外皮を貼り付けていくエアロスキンと呼ばれる古典的航空機キットや、人体やエンジンの構造を知るためのスケルトンモデル、原子力潜水艦の内部構造を精密に再現したカットモデルといった製品に持ち味のあったレンウォールの博物学的なものづくりは(後知恵バイアスをおそれずにいえば)夢のまま決して現実を走ることのなかったエクスナー・リバイバルカーのあり方ときわめてよくマッチしていたといわずにおれない。

このプロジェクトとレンウォールの結ぼれは決してたまたまではなく、エスクァイア誌面への広告出稿(1962年12月号)という「サロン」がもたらした必然だったこともあわせて申し添えておきたい。

「今」を消費することに存在意義のかかったアニュアルキットの運命とは違い、その堅牢な貼り箱におさめられたレンウォール/エクスナーの夢の車たちは、21世紀の今でもしばしば無疵のまま市場に流通することがあり、熱心な蒐集家によって日々その価値を更新し続けているが、一部の自動車史家はレンウォールによって完全かつ純粋なかたちで「保存」されたエクスナー・リバイバルカーこそが、1960年代後半から1970年代にかけて勃興したグレート・ブロアム・エポック――フォードLTDなどに代表されるような重厚長大で復古的、スクエアなデザインの高級4ドア・セダンが急速に復活した市場動向――を直接的に先導したと評価している。

遠い過去にインスピレーションの源泉をもとめ、なおかつ不確かな未来の予言を成就せしめた模型は、この世にたった7つしかないのだ。そしていつか、より成熟したホビーの世界がヴァージル・エクスナー晩年の傑作スタッツ・ブラックホークを見出したとき、そこに8番目のキットが加わることになるだろう。

 

※今回は、編集部で用意したキットのほか、読者の方からお借りしたキットを撮影した。マーサー(2バージョン)およびブガッティは、隠善 礼さんからお借りしたキットです。この場を借りてお礼を申し上げます。

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みんなのコメント

4件
  • fxnhe501
    車としては、他社のパーツを寄せ集めた平々凡々なものでしかなかったにもかかわらず、この綺羅星のようなメンツの中に割って入っているのがジョーダン・プレイボーイ。

    何がそれを可能にしたかというと、ひとえに広告の力だ。写実的な表現を避けたラフなイメージ画に添えられた、『ララミーの西のどこかで、野生の馬を駆る娘がいるという。どんな気性の激しい荒馬も、彼女の手にかかれば地の果てまでも駆けてゆく。ジョーダン・プレイボーイは、実にそんな彼女のために仕立てられた車なのだ……』という嘘八百のポエムが、『イメージ商品』という新たなジャンルを打ち立てた。

    やはり伝説的な広告の数々を残した戦後のVWも、そして現在の自動車業界そのものも、ジョーダンには足を向けては寝られない。たとえそれが、恐慌や戦争がやって来る前のかりそめの栄光だったとしても。そして、この手法を丸パクリしたのが、西武セゾン時代のジャガー・ジャパンだった。
  • 葛葉恭次
    もしかしてトミカのボックスアートデザインって…
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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