この記事をまとめると
■店舗の老朽化などにより新車ディーラーの移転や建て替えが増えつつある
「顧客名簿」の持ち出し転職! かってにお客名義でクルマを注文! 「個人情報保護法」以前の新車ディーラーがいま思えばカオスだった
■建て替えをすると整備工場が併設できず、移転すると既存顧客を失うというリスクある
■営業活動なども下火になりつつあるので、今後はオンライン販売が主流になる可能性も高い
新車ディーラーの移転は問題が山積み
筆者の生活圏内をクルマで走っていると、メーカー系新車ディーラーの新規店舗の開店が相次いでいる。日本国内の新車販売市場の縮小傾向やマンパワーの問題もあり、新規出店というわけではなく、ほかの場所にあった既存店舗の“移転”という形のようである。
アメリカでは景気回復して新車が売れだすと、新車ディーラーの改築ラッシュが起こった。筆者が目撃した状況は、日本の新車ディーラーの景気が回復したわけではないが、限りあるマンパワーを活用してより効率的な販売活動を行うために、販売拠点の再配置を行っているとはよく聞く話である。
しかし、新車ディーラー店舗の引っ越しというのは結構難しい。新車購入の際の購入車種の決定は、クルマを気に入った、つまり好きなクルマを扱っている最寄りの店舗がそこだったという人がいる一方で、自宅や勤務先などから近い場所にあったからという理由でそこで扱っている車種を購入する人もいる。
この後者に値するいわゆる“ご近所客”は意外に多く、店舗移転となると、ご近所客は近い場所にあるという利便性で選んでいるので、そのようなご近所客を失うリスクが高いのである。
店舗移転とは異なるが、事情通は「あるセールスマンが人事異動で異なる店舗に配置換えになったそうです。大昔ならば『店舗移りました』と、いままで販売した顧客をそのまま移転先店舗に持って行けたのですが、個人情報保護法施行下では顧客ひとりひとりに『異動しますが、そのまま移転先店舗の管理顧客登録に変更していいですか』と了承をとらなければならなくなったそうです。その結果、3分の1程度の顧客は異動先店舗の管理顧客登録を断られたそうです」と話してくれた。
店舗ごとの移転でも当然このような傾向となることは明らかである。店舗ごとの移転ではそこにあった店舗がなくなるので、他メーカーへお客が流れてしまうリスクも高いのである。
今後の新車販売はオンラインが主力になる可能性も高い
ただ、移転せざるをえないケースもある。そもそもはまわりに住宅も少ないなか開業した古い店舗となると、店舗が老朽化したから建て直そうとしたときに住宅密集地になっていたりすると、法令により建て替えをしようとすると整備工場が併設できなくなるケースがほとんどなっており、そのため移転を余儀なくされてしまうのである。
トヨタや日産系ディーラーでは店舗拡充をはじめた時期が早かったので、古いながらも市街地に店舗が多めに存在している。こうなってくると、市街地にある数少ない新車ディーラーとして前述したご近所客を集客することができるので、とくにトヨタは車種も多く持つので新車販売で強みを見せるひとつの要因と考えることもできる。
しかし、発想を変えれば、新規移転により移転先での新規顧客開拓も可能なので悪いことばかりではないともいえる。ただ、訪問活動やチラシ配りなど、昭和のころほど販売担当地域をまわることはないので、販売担当地域の特性などが把握しにくい販売体制にもなっている。結果、市街地の老舗店舗ほどご近所客をどれほどつなぎとめておけるかは未知数ともいえるだろう。
新車販売の世界は、基本的な部分では1980年代のフォーマットのままとなっている。また、世の中の変化から、若い人以外でもセールススタッフとの駆け引きを苦手とし、嫌がる傾向もある。これはアメリカでも同じで、セールススタッフの売り込みが新車購入の最大の障壁とする声も大きい。
世の中のトレンド、新車販売業界のマンパワー不足などを考えれば、いますぐではなくても、オンライン販売というものが、今後ますます注目されてくるのは間違いない。そのなかで店舗を新しくしていくのは、費用対効果を考えるとなかなか判断が難しいようにも見えてくる。販売体制が変わっても、車検制度などは大きく変わらないだろうから、ディーラーは、今後サービスステーションとしての位置づけ強化という観点で、新たな店舗整備が行われていくようにも見える。
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