もくじ
前編
ー 圧倒的なパワー
ー モータースポーツ部門の「支援」
ー 逆転の発想で獲得したプラス50ps
ー 現代のヒーローが乗るマシン
フェラーリ488GTO 700ps超えか 911GT2 RSに真っ向勝負
後編
ー 自分が“部品のひとつ”になる快感
ー 始動しただけで吹き荒れる驚愕の嵐
ー 乗り心地は良いが酷いノイズ
ー 恐怖を覚える速さ
ー 真の頂点へ
自分が“部品のひとつ”になる快感
というわけで、はやる気持ちを落ち着かせるためにも、まずは乗り込んで穴蔵のように深いバケットシートに身を収める所作を、見られても恥ずかしくない程度に手際よくこなせるようにする練習から始めよう。それができたらじっくりと周囲を見回してみる。目の前のステアリングホイールを一瞥しただけで、プレーンで整然とした、およそ複雑さとはかけ離れた空間だとわかるはずだ。
スウェードのリムが付いたステアリングホイールは上下前後に動いて理想的なドライビングポジションを作り出し、足元には完璧な配置のペダルが3つあり、そしてシートは正確な位置に身体を保持してくれる。着座位置が低いので、まるで自分がクルマと同化したように感じられるだろう。
GT2に乗り込むと、「自分はこのクルマが可能な限り良好に性能を発揮するために不具合のない動作を求められた可動部品のひとつなのだ」という気がしてくる。しかしそれは決して不快ではなく、むしろとても気分を高揚させる感じだ。
始動しただけで吹き荒れる驚愕の嵐
いよいよエンジンに火を入れる。エグゾーストノートはGT2のライバルとなる多くのイタリアン・スーパーカーが放つ野蛮な咆哮とはほど遠い。エンジンはほとんど間を置かずに落ち着き、アイドリングの脈動へと収束する。
軽くスロットルペダルをあおれば「GT2とはどういうクルマなのか」について、最初のテイスティングイメージが得られるだろう。アイドリングからでもレスポンスは閃光のごとく素早く、リアクションは911ターボよりも敏速で力強い。まるで圧縮比が高められているかのようにも(実際は違うが)感じられるが、それこそ吸気効率を大幅に改善した恩恵だろう。
驚くべきは、それがキーをひねった直後に明確に察知できるという事実である。
クラッチを踏むと、911ターボよりも踏力を要求され、バルクヘッドに届くまでのトラベルが短くなっているのに気がつく。シフトレバーにも同様の違いがある。ゲートまわりの動きはさらなる緻密さに満ちていて、そして頑強な剛性感が加わっていることも感じ取れた。911ターボより強めの抗力と明瞭感を伴いながら、寸分の狂いもなくカチリとポジションに吸い込まれていく。そしてこれら一連の動作のなかでじわじわと存在感を表してくるのが、巨大なサイドクッションを備えたバケットシートの揺るぎないサポートである。
乗り心地は良いが酷いノイズ
走り出すと今度は別の驚愕に襲われる。かなり硬い足にもかかわらず、乗り心地が素晴らしく快適なのだ。よっぽどひどい状態の路面を走っているのでなければ硬すぎず柔らかすぎずの絶妙な加減で、乗り心地など存在すらしていなかったこれまでのGT2に比べるとまったくの別物といっていい。
けれど、100km/hに到達したあたりで邪魔が入る。過剰なまでのタイヤノイズだ。その瞬間、「この新型GT2はもしかすると優れたツーリングカーなんじゃないか」という私のほのかな期待は、このクルマのエアダクトのどれかを通して完全に消え去ってしまったのであった。
たとえ路面状態がスムーズでも、325/30R19サイズの巨大なミシュラン・パイロットスポーツカップが発する音量は凄まじい。高速道路を流れに乗って走らせている程度の速度域でも、助手席の友人との会話をまったく不可能にしてしまうほどだ。ましてちょっとでも路面が荒れていようものなら、わずか70km/h程度で自分の独り言さえ掻き消してしまう。
これは主として後席エリアのボディシェルがむき出しなためだ。加えてロールケージと硬いリアサスによって洗練性のレベルが影響を受けているわけだが、どう説明されようとこの事実は失望以外の何者でもない。GT3や、そのさらに過激な兄弟分であるGT3 RSも同じタイヤを履き、同じくらい強烈なノイズを撒き散らしていたという予備知識がなければ、ひどく残念に思えるだろう。
恐怖を覚える速さ
結局のところ、GT2は「乗るなら黙って走らせろ」というクルマである。それに、GT2に乗ってしかるべき走らせ方をしようとすれば、ほとんどの人の耳にはタイヤノイズなど届かないはずでもある。猛獣を支配下におくのに精一杯で、その作業と直接の関係がない事象にまで気がまわらなくなってしまうからだ。
なにしろ右足を踏み込んだ直後に襲いかかる加速の衝撃は過激なまでに刺激的で、しかも右足を戻さない限り、レブリミッターが止めてくれるまでその衝撃が続くのだ。
ストレートにおけるGT2の加速は911ターボよりも圧倒的に鋭く感じられるが、それには全域にわたって上乗せされた純然たる加速力もさることながら、はるかにターボラグが小さいレスポンスのよさが効いている。仕様書上では50psしかない出力差が感覚的には150psにも感じられるのは、140kgも削ぎ落とされた車重のおかげだろう。
狭いカントリーロードを走らせていると、あまりの速さに恐怖感ばかりが募っていくかもしれない。しかし、恐怖はすぐに楽しさに変わっていく。さらにもう少し慣れてくると、もはや完全に中毒になってしまう。最終的にはGT2でコーナーを攻め込み、地平線めがけて全力疾走する快感から逃れられなくなるはずだ。
このクルマなら、たとえ相手が日産GT-Rであっても、それどころかブガッティ・ヴェイロンであったとしても、ひるむどころか闘志が湧いてくるに違いない。ただしそのためには、このクルマのシャシーと動力性能のバランスについて精通している必要があるのはいうまでもない。
真の頂点へ
超ハイパワーエンジンをリアに積んだ2輪駆動に対する不安をあおるような内容ばかり書き連ねてきたが、実際には、そこそこ程度の腕ではかなり攻めたつもりでも前後のタイヤはアスファルトにしっかりと張り付いたまま微動だにしないはずだ。また、スウェードのステアリングホイールからは路面の情報が絶え間なく伝達されてくるし、さらに制動力はライセンスプレートが付いたほかのクルマでは経験しえないほどに強烈だ。
オーバーステアにしてもまず発生することはないのだが、あえてトラクションコントロールをオフにして、低速ギアで全開で立ち上がろうとしたなら話は別だ。その場合には、牛の群れを上下逆さまで見る羽目になったとしても、あくまで自己責任だと腹をくくっていただきたい。
タイヤノイズの件は別にして、この最新型GT2は本当に驚異的なクルマだ。GT3やGT3 RS、それに911ターボとも異なる独自の個性を身につけている点からしても、ポルシェのプライスリストのなかでGT2が置かれている位置は適正だと断言できる。そう、GT2は3代目にしてついに911シリーズの真のトップレンジとなったのだ。
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