フェラーリの新型「プロサングエ」がついに出た! ひと足はやく実車を見た小川フミオの印象とは?
“GTカテゴリー”に属するモデル
フェラーリは、2022年9月13日にまったく新しいモデルである「プロサングエ」を、イタリア・トスカーナ地方のピサで発表した。フェラーリ初の4ドアでフル4シーター。6.5リッターV12エンジンのフロントミドシップ。常時4つの車輪を駆動する。抜群の話題性をもったフェラーリだ。
一般の発表会に先立ち、フェラーリはジャーナリスト向けのお披露目を、その前週にイタリア・マラネロで開催した。
こにには、チーフマーケティング&コマーシャルオフィサーを務めるエンリコ・ガリレエア氏をはじめ、チーフプロダクトデベロップメントオフィサーのジャンマリア・フルゼンツィ氏、それにチーフデザインオフィサーのフラビオ・マンツォーニ氏が顔を揃えた。
カメラやスマートフォンなどが持ち込み禁止の会場で、うやうやしく真っ赤なベールをめくられたプロサングエ。4973mmの全長に対して1589mmの全高。堂々たるボディは、これまでの背の低いフェラーリとまったく違う。
「でも、このクルマはスポーツカーですよ」
ガリエラ氏は、強調した。SUVタイプのボディではあるものの、中身は高性能スポーツカーと変わらないことを伝えたいのだ。
「フェラーリのなかでは“GTカテゴリー”に属するモデルとして、開発しました」
開発を担当したフルゼンツィ氏の言葉だ。つまりは「GTC4ルッソ」などと同カテゴリーに属するモデルというわけだ。
「ブームに乗って急ぎ開発したモデルではありません。いまこのクルマを発表したのは、私たちの満足ゆくアクティブ・サスペンション・システムが開発できたからです」
2tを超える車重のプロサングエを、背の低いスポーツカー並みに走らせられる足まわりとは気になる。あいにく今回、試乗は叶わなかったものの、最新のコンピューター制御によって、ワインディングではかなりのハイスピードで駆け抜けられるという。
4ドアモデル開発の過去
実は1980年代初頭、フェラーリではピニンファリーナとともに4ドアモデルを検討したことがあるそうで、フルゼンツィ氏が教えてくれた。でも計画は白紙になったという。
「(故)エンツォ・フェラーリが、クルマの出来に満足がいかず、フェラーリの名ではそのクルマは出せないということになりました。4ドアを検討したのは、オーナーたちから、家族で出かけられるフェラーリが欲しい、という要望が寄せられていたからです」
4ドア・4シーターのプロサングエが陽の目を見ることになったのもおなじ理由で、多人数乗車を希望するオーナーが増えたからだ。ただし、かつてと異なるのは自信を持って世に問える技術的内容が実現した点。ゆえにプロサングエの量産化が決まった。
「1番の技術的トピックは、やはりアクティブ・サスペンション・システムです。電磁式アクチュエーターによってダンピングコントロールが可能で、これによって、フェラーリとして世に問えるモデルが完成しました」
フルゼンツィ氏はそう説明してくれた。機能としては(おそらく)車速に応じての減衰力の調整、アンチダイブ、アンチスクワット、車体のロールやピッチの抑制など、すべてを制御するのだろう。
いっぽう、コイルスプリングも残している。凹凸ある路面からの入力を抑えて、快適で安定した乗り心地を実現するため、と、本システムの開発担当者は説明している。
プロサングエには後輪操舵システムも搭載する。ただし、外側の車輪は必ず直進方向を向いているよう操舵され、左右輪が同時におなじ方向を向かない。「それによって、正確で、かつ素早い加速を可能にします」と、フルゼンツィ氏は説明してくれる。
V12以外の予定はナシ
フェラーリはあえてこのクルマに“プロサングエ”という英語だと“サラブレッド”を意味するイタリア語を選んだ。家族で劇場に乗っていける、なんて言っているのに、この名前はやりすぎでは? と、確認すると、フルゼンツィ氏は、それを否定した。
「サスペンションシステムや4輪操舵、4輪駆動システムにくわえ、ごく低回転域からレッドゾーンが始まる7750rpmまで一気にまわる自然吸気型のV12をあえて開発するなど、フェラーリの名に期待されるものをすべてつぎこんだからです」
つまり、走行性能にかなりの自信を持っているのだ。いまどき新開発のV12なんて……と、思わないでもないので、ほかのパワートレイン(ハイブリッドなど)の予定は? と訊ねると「これこそいまのフェラーリの顧客が求めているものなので、当面、V12以外は考えていません」とフルゼンツィ氏は答えてくれた。このとき「エンジンはフェラーリに魂(ソウル)ですから」と言ったのが印象的だった。
「電気なのか、内燃機関なのか、ハイブリッドなのか、なにが将来の正解なのか、今はわかりません」と、正直にフルゼンツィ氏。「私たちはさまざまな可能性を同時に追求しています。私たちはフレキシブルであるべきで、今回のV12エンジンもその考えに基づいて開発しました」
5人乗りの計画はナシ
「ウェルカムドア」と、デザイン統括のマンツォーニ氏が呼ぶのが、後ろヒンジを使った後席用ドアだ。Bピラーのつけ根あたりにあるオープナースイッチを引くと、ラッチがはずれ、電動でドアが開く。閉めるときもスイッチでおこなう。観音開きのドアを採用した理由は、操縦性と快適性の両立のため、とマンツォーニ氏。
「ホイールベースを長く伸ばすと操縦性に悪影響が出るので、出来るだけコンパクト(3018mmと長いけれど)にして剛性も確保。それで後席へのアクセスが影響されないよう、乗員の快適性のために開口部が大きく確保できるウェルカムドアを採用しました」
ドアが開くと、前席とおなじような形状のバケットタイプのリアシートが眼にとびこんでくる。電動で前後にスライドできるし、バックレストの角度も調節可能。後ろに下げれば、レッグルームは意外なほど余裕がある。
後席と荷室とのあいだのパーティションは簡単に取り外せるので、後席から荷室に置いた荷物へのアクセスも容易だ。「ぜったい便利なはずです」と、インテリア担当のフェラーリのデザイナーが私にそう話してくれた。細かい配慮だ。
5人乗り(つまり後席はベンチシート)のモデルの計画は? という質問に対して、ガリエラ氏は「フェラーリはどの席にいても、フェラーリに乗っているという感覚を味わえることが大事です。スポーツカーのフロントシートでベンチシートがありえないのと同じで、後席もからだをしっかり固定できるバケットタイプのシートこそ、フェラーリなのです」と、説明。なるほど、と思った。
ハッチゲートを開けて、473リッターの容量をもつ荷室から前のほうを眺めると、リアのパースルシェルフから、ダッシュボードまで、“ふたつの峰”というデザインのモチーフが採用されているのがわかる。パースルシェルフまできちんとデザインされているクルマを、私は初めて見た。
顧客への納車が始まるのは2023年第2四半期からという。最初のロットは欧州向け。そのあとグローバルに展開される。ただし、生産台数は限られているようだ。
フェラーリは年間生産台数を公開しておらず、訊かれるといつも「需要より1台少なく」という故エンツォ・フェラーリの言葉を引用する。プロサングエについては「ひとつのモデルばかり売れるという事態を避けるためもあって、だいたい、(フェラーリの総)販売台数の20%ぐらいを占めることになると思います」と、ガリエラ氏。
価格は39万ユーロ(約5626万円)だそうだ。それでもよほど幸運でないと、プロサングエは自分のものにならない。なにしろ「あまりに注文数が多いので、まもなく注文を締め切る必要を感じています」(ガリエラ氏)とのことなのだ。
※1ユーロ=144円で算出(編集部調べ)
文・小川フミオ
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みんなのコメント
確かにSUVなのにクーペのような美しさと気品。
やはりフェラーリは唯一無二だ。