インターコンチネンタルGTチャレンジ第3戦・第47回サマーエンデュランス 鈴鹿10時間耐久レースは8月24日、2回のフリープラクティスが行われた。上位には日欧の強豪がひしめく結果となりタイム差も僅差だが、35台のエントリーのなかで、大いに苦しんでいるのが2台のGT300マザーシャシーだ。本来鈴鹿は得意なコースであるはずだが、なぜこれほどまでに苦しんでいるのだろうか。
■本来鈴鹿は得意なマザーシャシー
2015年からスーパーGT GT300クラスに登場したGT300マザーシャシーは、日本のものづくりの伝承を願い、童夢製のモノコックを使用しGTA V8エンジンを搭載したマシン。チームが創意工夫でマシンを速くすることができ、そのクイックな特性と相まって、鈴鹿やスポーツランドSUGOといったコースでは素晴らしい速さをみせている。
鈴鹿10時間:ナイトセッションのFP2は千代が駆るKCMGのGT-Rがトップタイムに
特に鈴鹿では、例年マザーシャシー勢が予選でも決勝でも上位に食い込んでおり、FIA-GT3使用チームからは不満の声も上がるほど。また、レースではタイヤ無交換等の作戦も駆使してくるのが特徴だ。
そんなGT300マザーシャシー使用チームのうち、世界との戦いとなる今回の鈴鹿10時間に名乗りを上げたのは2台。Cars Tokai Dream28が走らせる2号車ロータス・エヴォーラMC(高橋一穂/加藤寛規/濱口弘)、TEAM UPGARAGEが走らせる18号車トヨタ86 MC(中山友貴/小林崇志/井口卓人)だ。
2台は今回ワンメイクタイヤとして使用されるピレリタイヤを履いて事前の公式テストにも参加したが、GT3勢とはタイムに差があった。さらに、初日はウエットだったものの、2日目のドライ路面ではTEAM UPGARAGEの18号車がクラッシュを喫している。厳しい戦いが予想されていたが、実際レースウイークに入ってからも、リザルトは下位のまま。この日の2回のフリープラクティスでも、2台とも下位に沈んでしまった。両車とも、GT300で多くの実績を挙げてきたトップドライバーたちが乗っているにもかかわらずだ。
■「一瞬のグリップでしか走れていない」
苦戦の理由は、今回鈴鹿10時間で使用されるピレリのワンメイクタイヤとのマッチングにあるのは間違いなさそうだ。ブランパンGTシリーズやブランパンGTアジア、さらにスーパー耐久等で使用され、世界中のGT3レースで使用されている実績あるピレリは、その特性を少しずつ日本人ドライバーが理解し始めている状況ではあるが、このレースではGT3用をそのまま使わざるを得ない2台のマザーシャシーの場合は問題が深い。
「発熱はしていると思いますが、ピークのグリップを引き出し切れていないように感じます」というのは、TEAM UPGARAGEの中山だ。
また、今回第3ドライバーとして加わった井口も「とにかくリヤのグリップがない。タイヤ表面にある一瞬のグリップでしか走れていないです。GT3用では構造が堅すぎて、タイヤ自体を潰せていないですね」と分析する。また、小林も「おそらくタイヤの限界にいると思う」とコメントしている。3人のドライバーたちのフィーリング、そしてコメントはほぼ同じだという。
一方、Cars Tokai Dream28の加藤も「ワンメイクタイヤだとさすがに厳しいですね。GT3勢は1時間タイヤマネージメントすると言っていますが、うちは1時間走っても半分も減っていない」と現状を教えてくれた。
これは1100kgという軽い車重、そして純レーシングカーでもあるマザーシャシーのサスペンション形式が大いに関係しているようで、Cars Tokai Dream28の渡邉信太郎エンジニアも「やっぱりサスペンションの形式が乗用車かレーシングカーかということですね。ザックリ言うと基本のディメンションが違います」と語っている。また、GT3カーに比べて170kg~200kgほど軽いため、本来GT3なら問題ないはずの、タイヤの構造を潰しながらグリップを発揮するということができていない状況のようだ。今回規定でやや重くなっているというが、逆にハンデになっているよう。
「実はスーパーGTのGT3用のタイヤをエヴォーラが履いたこともありますが、やっぱりこうなります」と渡邉エンジニアは教えてくれた。
「クルマはアンダーかオーバーのどちらかなら、ドライバーなら対処できるんです。でも、突然グリップしたと思ったらスパーンといってしまう。トラクションもかけられない」とは中山のコメント。また、小林も「GT3はパワーもあるので、それがタイム差に繋がっていると思います。僕たちはコーナーで頑張るしかないけど、攻めても怖いばかりになってしまう」というから問題は根深い。
■JAF-GTは鈴鹿10時間に出づらくなる?
ドライバーたちやエンジニアからのコメントを総合すると、GT300マザーシャシーがふだんのスーパーGTでどんな戦い方をしてきたかが逆に浮き彫りになってくる。パワーはGT3勢に比べて無いものの、ダウンフォースとクイックな特性を活かし、ストレートで抜けないハンデをピット作業で逆転するべく、無交換作戦が採れるタイヤをタイヤメーカーとともに開発することが彼らのスーパーGTでの戦い方なのだ。
しかし、今回の鈴鹿10時間ではピットストップの時間も規定で決まっており、作業でタイムを稼ぐこともできない。また、GT3用のタイヤを履かざるを得ないことから、コース上でタイムを稼ぐことも現状は厳しい状況だ。中山は「セットはいじり倒してます」というが、決勝までにどれほど向上できるか。
鈴鹿10時間は、日欧のチームが戦うことがコンセプトで、日本からはスーパーGT参戦チーム、スーパー耐久チームの参加が望まれている。当然スーパーGTチームのなかでも、JAF-GTチームの参戦はファンからも大会側からも望まれるものだろう。
ただ今回の2台の苦闘を見る限り、来季参戦を希望するJAF-GTチームが現れるとは思えない。今回ピレリは大会に大きく貢献しているが、車重も異なるJAF-GT用の“スペシャルタイヤ”を作ることもレースのスタイルや意義を考えると難しいところ。来季以降の大会の仕組み、さらには今後のJAF-GTのあり方にも課題となるのかもしれない。
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