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スバル・デザインを考える

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スバル・デザインを考える

2018年3月30日~4月7日までの9日間、東京・恵比寿にあるスバル本社ショールーム「スバル スター スクエア」で「SUBARU DESIGN MUSEUM  進化する、SUBARU独自のデザインの現場展」が開催され、スバルのデザインを考えてみたた。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>

■VIZIVコンセプト4台が一堂に

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この展示イベントは、スバルのコンセプトカー「VIZIV(ヴィジヴ)」シリーズを一堂に展示したもので、2014年のジュネーブショーで公開された「VIZIV 2コンセプト」から、2015年の東京モーターショーで公開された「VIZIV フューチャー・コンセプト」、2017年の「VIZIV パフォーマンス・コンセプト」、そして2018年のジュネーブショーでワールド・プレミアされ、日本で初公開となる「VIZIV ツアラー・コンセプト」までの合計4台のVIZIVが揃えられた。

「VIZIV 2コンセプト」はXVに、「VIZIV フューチャー・コンセプト」は新型フォレスターに具現化されており、「VIZIV パフォーマンス・コンセプト」は次期型WRXを、そして「VIZIV ツアラー・コンセプト」は次期型レヴォーグを示唆するデザイン・スタディモデルだ。
このイベントは、「DESIGN MUSEUM:進化する、SUBARU独自のデザインの現場展」というテーマを掲げており、スバルの新しいデザイン・フィロソフィ「ダイナミック×ソリッド」を改めて世にアピールすることが目的だ。

■カー・デザインの今

日本車のデザインは、歴史的にアイデンティティが薄い時代が長く続いた。その理由は、工業デザインの社会的な位置付けの弱さ、ブランド/デザインの一貫性や重要性が重視されなかったことによるところが大きい。
もちろん海外の、デザインを重視するカーメーカーであっても、暗黒時代があったという事例も少なくないが、やがてはブランドやデザイン哲学を再生させたり、新たな創造が行なわれている。


アウディでは1990年代にペーター・シュライヤー(現サムソン、キアのデザイン担当副社長)がクーペ形ルーフのセダン A6、アウディTTなどを送り出し、クルマのデザインの大きなトレンドを創り出すと同時に、アウディのデザインを最高水準に引き上げることに成功している。
興味深いことに、シュライヤーの後継者のワルター・デ・シルヴァ(フォルクスワーゲン・グループのブランド・デザイン責任者)、クラウス・ビショフ(フォルクスワーゲン)やマーク・リヒテ(アウディ)らは、ブランドとしての統一性やデザイン・フィロソフィーを守りながら進化させている。
また、近年では、マツダからルノーのブランド&デザイン担当副社長に就任したローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏はルノー全体のブランドを再定義し、「サイクル・オブ・ライフ」というブランド・デザインを構築し、ルノーのデザイン、ブランドイメージを革新している。

日本においては、個々のクルマのデザインでは過去にも多くのチャレンジが行なわれているが、製造メーカーとしてのブランド性や、多くのモデルのデザインの一貫性といった点では、ごく最近まで重視されなかったのは実情だ。
トヨタを例にあげれば、2000年代に入ってから「VIBRANT CLARITY(ビブラント・クラリティ):エモーションと合理性の融合」というデザイン哲学を打ち出したが、2010年代に入り海外市場向けは「キーン(鋭い、鋭敏さ)ルック」とトヨタらしいデザインとして「j-factor」(jはJAPANの意味)を新たに付け加えている。

もちろんトヨタのようにグローバルで多様なクルマを生産し、あるいは輸出する一方で、デザイン・センターは、豊田市(本社とテクノアートリサーチ)、東京、ミシガン、カリフォルニア(2拠点)、タイ、中国、フランス(ヨーロッパ)、ブラジルと多数が存在し、ブランドとしての独自性を訴求しにくいという悩みはある。
その一方で、マツダがブランドの再構築を目指し、「魂動デザイン」を打ち出した。この魂動デザインは、クルマのデザインだけではなくマツダのブランドをも意味し、マツダ車すべてを、生命が生み出す躍動的な動きの美しさを独自の存在感として表現し、統一したブランド・デザインとする方向に舵を切った。

もちろんマツダのデザインも紆余曲折があり、魂動デザインの前には「流れデザイン」が存在したが、それらの過去をリセットし、ブランド、クルマを統合する思想として魂動デザインを作り上げた。
こうした変化を踏まえると、スバルが個々のクルマのデザインではなく、ブランドを含めた普遍的なデザイン・コンセプトとして「ダイナミック×ソリッド」を打ち出したのも、必然だったといえるだろう。

■デザインの現場展にふさわしい展示も

■スバル・デザインと「ダイナミック×ソリッド」

スバルのデザインの歴史を少し振り返ってみよう。スバルのクルマの出発点となったてんとう虫「360」は、社外の工業デザイナーであり、戦前から船舶塗装デザインや建築などのデザインを手がけてる佐々木達三氏で、その後はサンバーのデザインにも参画した。


その後、スバル 1000、レオーネ、アルシオーネを経て、企業の命運を賭けたレガシィはジョルジェット・ジウジアーロ氏にデザイン・スケッチを依頼し、その案を参考にしながらセダンとワゴンのデザインを作り上げた。

さらに1993年に発売された2代目レガシィの開発にあたっては、前メルセデス・ベンツのデザイナー、オリビエ・ブーレイ氏がデザイン部長となり、日本的なデザインを探求し、端正さを追求した水平基調のデザインを生み出している。なおブーレイ氏は、その後メルセデス・ベンツに復帰し、さらに後には三菱とベンツ社との合弁に伴い、三菱のデザイン部長も務めている。

さらに2002年にフィアット、アルファロメオのデザイナーだったアンドレアス・ザパティナス氏をデザイン部長に起用し、R2、トライベッカのデザインを主導し、スバルの新しい顔として「スプレッドウイング・グリル」を採用した。ザパティナス氏は、スバルのDNAを中島飛行機に求め、航空機の翼をデザインしたフロントグリルを採用したのだ。ザパディナス氏は、デザインに企業としてのヘリテージ、DNAを重視し、そうした要素をデザインとして具現化しようとしたのだ。

しかし、その象徴ともいえるスプレッドウイング・グリルはその後消滅している。そして2010年代に入って、改めてブランド・アイデンティティを含めたデザインの定義の手法として「ダイナミック×ソリッド」が登場することになる。
スバルのブランド・ステートメントの「安心と愉しさ」を起点として、機能性や動的なデザイン質感の表現として「ダイナミック×ソリッド」というデザイン・フィロソフィーは確立された。したがって、このデザイン・フィロソフィーは単にクルマの造形を表す言葉だけではなく、ブランドを表現するフィロソフィーということができる。
そのフロントマスクは、ヘキサゴン(六角形)グリルやコの字型ヘッドライト・シグネチャーとして定型化されている。六角形は六連星の象徴であると同時に、安定感、合理性、機能性を意味するハニカム(六角形)に由来するという。

また左右のヘッドライトのコの字型のLED照明は、水平対向ピストンを意味し、グリルの中の左右方向のラインはコンロッドをデザイン化しているという。このようにフロント・マスクには中島飛行機、スバルとしてのDNAが盛り込まれており、スプレッドウイング・グリルを転化、継承している。

ボディパネルは、塊感のある硬質なフォルムとし、場所に応じてシャープなエッジを持つプレスラインを組み合わせることで塊感を強調。一方でホイールハウス回りを強調することで安定感と動的なスタンス(佇まい)を作り出している。
ボディ側面には一般的なキャラクターラインのような凹型プレスラインを使用せず、凹凸のある面の組み合わせを用いて、ソリッドな存在感を作り出しているのも特長だ。

もちろんダイナミック×ソリッドは、固定したデザイン手法ではなく、クルマのキャラクターに合わせて変化させている。次期型WRXのスタディとなる「VIZIV パフォーマンス・コンセプト」は、4輪のホイールハウスの張り出しを強め、面と面の組み合わせもシャープだ。またキャビン全体も前傾姿勢のウェッジフォルムを形成。塗装もつや消しシルバーで、迫力を生み出している。

一方で、最新作の「VIZIV ツアラー・コンセプト」は、次期型レヴォーグを想定しているため、グランドツアラーとしての伸びやかさや上質感を基調に、リヤ周りなどボディの平面絞りを強調するなど、エモーショナルなデザイン表現も採り入れている。
スバルは、ブランドを包括するデザイン・コンセプト「ダイナミック×ソリッド」を確立したといえるが、今後の課題はこうしたコンセプトカーのデザイン表現を、どのように量産モデルで具現化するか、ということだろう。
もちろん、これもスバルだけではなく日本車全体の課題であり、これをブレイクスルーするためには生産部門の技術力の飛躍が求められる。トヨタの例では、C-HRをトヨタ東日本の工場で製造するにあたり、ボディパネルのプレス技術などでかつてない生産技術的な挑戦をし、量産モデルで実現しているのだ。このように生産現場での造り方の見直しや新たな技術導入なしにデザインは成立しないのだ。

デザイン原案で、どれほど美しい曲面やエッジ処理を描いたとしても、それが生産工場で実現できなければ文字通り絵に書いた餅に終ってしまう。「ダイナミック×ソリッド」デザインで多用されている、面と面の組み合わせから生まれるプレスラインのエッジ処理や大きな半径の凹面処理など、このデザイン・コンセプトの鍵となる表現をどのように生産技術で対応するのか、どのようにブレイクスルーできるのだろうか。

■過去のスバル車のスケールモデル

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スバル公式サイト

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