幅広の偏平サイズでも切り出しからコーナーを抜けるまで素直な動き
今どきのスーパースポーツはじつに乗りやすい。例えばアウディR8やランボルギーニ ウラカン、ホンダNSXに日産GT-Rなど、私自身は所有することは叶わなくても、もし愛車にできるならそれこそコンビニにでも乗っていこうか、そう思えるぐらい、視界もよく取り回しにも優れ、ある意味緊張感なく乗ることができた。
かつて言われた「スーパーカーは雨の日には乗れない」。要はピーキーであり、危なくて乗れないという意味だ。そうしたクルマは今でも存在するのかもしれないが、少なくとも私が乗った経験のある近頃のスーパースポーツは、そんな気持ちなどまったく抱かせない容易さをもっている。
前置きが長くなったが、今回お伝えするのはそうしたスーパースポーツの走りではない。スーパースポーツたちの足もとを支えるタイヤである。
先日ミシュランがリリースしたばかりのフラッグシップ・スポーツタイヤ、「ミシュラン パイロット スポーツ 4 S(以下:PS4S)」を試すことができたのだ。このPS4Sは、これまでハイエンドタイヤとして君臨していたミシュラン・パイロットスーパースポーツをさらに上まわる性能を有しているという。
そんなPS4Sの試走場所は、なんとアラブ首長国連邦のアブダビ。イベント自体を「ミシュランPassion Days」と名付け、F1アブダビGPの開催地である、ヤス・マリーナ・サーキットを舞台に行われたのである。
用意された車両はフォルクスワーゲン ゴルフR。簡単に紹介すると、2リッターターボエンジンを搭載する4WD駆動のハッチバックで、デュアルクラッチ2ペダルトランスミッションの6速DSGを組み合わせる。 そこに235/35R19サイズのPS4Sを装着。
テストプログラムは、スラローム、85-5km/h減速タイム計測、コーナー5つを使ったハンドリングだ。
その前に、優れたスポーツタイヤとは何か? まずわかりやすい指標からいえばグリップ力の高さである。ただし、公道、サーキット、ドライ、ウエットなど路面条件が変化するわけで、どういったシーンでどのぐらいグリップするかが問題だ。理想はあらゆる路面で優れたグリップを発揮することである。
そして耐摩耗性。公道走行のタイヤはレース用タイヤのように短距離で使い捨てるわけにはいかない。グリップレベルや排水性を、同じ走行負荷だとしてどのぐらいの走行距離が走れるのかという部分だ。
そのほか場合によっては静粛性なども重要になるだろう。
しかしそれだけでは優れたタイヤとはいえない。加減速や転舵というドライバーの複合操作に対して、どんな反応を見せるのか、がもっとも大切だ。今タイヤがどういう状態にあるのかをドライバーが常に把握でき、また、操作に対してピーキーすぎず、鈍すぎず、思い通りに動いてくれることが求められる。簡単にいえばドライバビリティが優れているタイヤが良いタイヤということだ。
さて、いざゴルフRに乗り、テストコースへ入る。まずはスラロームを60km/h指定で走行。等ピッチで並べられたパイロンの間隔は不明ながら、60km/hだと加減速なく転舵のみで走行できるような配置。そこで得られたPS4Sの印象は初期応答のよさと過渡特性のスムースさだ。
初期応答に関しては、幅広、偏平かつ、スクエアなプロファイルで、ともすればステアリングのセンター付近が過敏な動きになるのではないかと、心配していた。しかし今回試乗した限り、ステアリングを切り出した瞬間からスッとノーズが「動く」ものの、操作に対してあくまでリニアで神経を遣う必要はない。
さらに左右の切り返す瞬間もスムースにステアリングを操作すれば、Gの変化は2次曲線的に滑らかな特性を示す。
続いて制動距離測定に移る。85km/hオーバーの速度から減速し、85km/h-5km/までの減速に必要とした距離を測定するというもの。じつは今回のテストでは、同じゴルフRにライバル他社の同サイズタイヤを装着した比較用車両も用意されており、同じプログラムを走ることができるようになっていた。
ところでこのようなテストは、路面温度やブレーキの温度といった車両の条件によっても変化するので、端的に1度テストして結論は出せないものだ。しかし他の参加メンバーのテストデータも集めてみると、確かにライバルタイヤに対してハッキリ制動距離が短いことがわかる。私自身が3回テストした結果、バラツキは見られたが、もっとも短い距離を叩き出したのはPS4Sだったことをリポートしておく。
その後はハンドリングテストだ。ヤス・マリーナ・サーキット、グランプリコースのヘアピンを抜けた後の、ショートカット部分のコーナーを5つ程度走行。ここで確認できたのは、より限界域に近い部分でもスムースな過渡特性が失われていないこと、限界域のグリップの状態が掴みやすいことだ。
仮に公道だとしても、落下物や飛び出してきた動物を避けるために、瞬間的にタイヤの限界域が試されるシーンはある。もちろんそういった瞬間に、ただブレーキを踏み、ハンドルを切るドライバーも多いだろう。
しかしたとえばサーキット走行などになれたドライバーであれば、そうした瞬間にもタイヤのグリップ限界を超えないよう、最適な操作を行う。ましてやこのPS4Sを装着するようなスーパースポーツのオーナーであれば、そうした腕をもつ人も少なくないだろう。だからこそ限界域のグリップの状態が掴みやすいことは大切だ。
さらにいえば、PS4Sは公道からサーキットまでの走行をカバーできる性能を有すると謳っている。サーキットであれば、限界域でのドライバビリティは何より重要なポイントだ。
そういった意味で、ゆるいスラロームから限界域でのコーナーまで、ドライバーの操作にシッカリと反応しつつ、タイヤの状態が伝わってくるPS4Sはさまざまな速度域で「優れたタイヤ」の要件を満たしていることになる。
実際、単純に走っているのが楽しかった。もう少し切り込むとどうなるか、ここでアクセルを入れるとどうなるかの予測がつき、実際その予測どおりに動いてくれるため、クルマを操ることにのめり込み、もっと走りたいと思わせるのだ。ゆるいスラロームから限界域でのコーナリングまで見せてくれたドライバビリティの高さは、特筆すべき点だろう。
タイヤにかける熱い想いが優れた1本を作り上げることを実感
さて、このように、PS4Sの実力の一部は確認することができたのだが、残念なのはウエットのテストができなかったことだ。19、20インチの設定のみというPS4Sが装着を想定するモデルの多くはスーパースポーツであり、冒頭にも述べたように、今ドキのスーパースポーツはシーンを選ばず乗ることができる、もしくは乗ろうと思わせる容易さを持っている。
そしてPS4Sのウリのひとつは、トレッド面のアウトサイド側とインサイド側でコンパウンドを変える、「バイ・コンパウンド・テクノロジー」の採用などによるウエット性能の高さだ。少なくとも現状100km/hまでしか出せない日本の公道走行においては、とくにウエット性能が重要と考えるユーザーは多いだろう。機会があればぜひとも試してみたい項目である。
ところで今回のミシュランPassion Days、目玉であるPS4Sの試乗だけではなく、他のプログラムも用意されていた。レース用マシンである、マクラーレン650SGT3の同乗走行、ルノー クリオ(日本名ルーテシア)カップカーとFIA F4マシンの走行である。
私自身何度もサーキットは走ってきたが、さすがにスリックを履くフォーミュラのステアリングを握るのは初の経験。それでも簡単なレクチャーを受けたのみで、F1も走行するコース(ショートカットを入れた一部区間)を思いっきり走らせてくれるのだ。
もちろんこのプログラムはレース用のスリックタイヤの評価をする、という意味ではない。あくまでミシュランのメッセージだ。ミシュランのタイヤ作りは、クルマもレギュレーションも異なるさまざまなモータースポーツシーンからフィードバックを受けて行っているということ。さらにはイベント名どおり、ミシュランというブランド、そして製品であるタイヤにはそれだけの「パッション=情熱」が詰まっているという意味なのだ。
クルマと違って、一般のオーナーはタイヤを比較試乗してから買う、というわけにはなかなかいかない。もちろん、Webや雑誌の自動車専門媒体の情報も参考にしていただけると思うが、それと共にブランドイメージもタイヤ選びの決めてのひとつになるだろう。それはより生活に身近な、家電やAV機器などを想像すれば、誰しもがわかるとおりだ。
そういった意味では、環境性能にも配慮した次世代モータースポーツである、電気自動車レースのフォーミュラEに、ミシュランは単独でタイヤを供給。さらに日本でもGT500で、2011、2012、2014、2015とチャンピオンマシンのタイヤはミシュラン、といった話を聞けば、そのブランド価値は理解できるだろう。
「クルマを替えずに走りを変える」というキャッチを用いているミシュラン。まだミシュランタイヤを履いたことのないオーナーは、タイヤ交換の際、ぜひ検討してみてほしい。
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