スーパーGT GT300クラスに参戦する注目車種をピックアップし、そのキャラクターと魅力をエンジニアや関係者に聞くGT300マシンフォーカス。2024年第3回は昨季最終戦の優勝に続き、シリーズ史上初の時間制“3時間”タイムレースとなった今季第2戦富士スピードウェイでも完勝を飾った88号車JLOC Lamborghini GT3が登場だ。
2023年シーズン第4戦より急きょの投入となったランボルギーニ・ウラカンGT3“エボ2”の素性はもとより、今季より古豪JLOCに電撃加入した伊与木仁チーフエンジニアに、自身の移籍にまつわるストーリーを伺った。
JLOC新加入の伊与木エンジニアが語る新パーツの狙いと、ホンダ時代の知見が活きた“ちょんまげ”の相乗効果
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「真相を言いますと、実は則竹さん(功雄JLOC代表)からは、もう何年も前からありがたいことに『もし一緒にやれる機会があったら、やってもらえないか』というお話は戴いていたんですよ。則竹さんもチームをさらにグローバルな舞台……そういった意味でのレースをもう一度やりたいというお気持ちもありました。ただ、私もHRC(ホンダ・レーシング)さんと契約したりしていたので、何年もお断りせざるを得ない状況だったんです」
そう明かす伊与木エンジニアは、国内モータースポーツ界を代表する名伯楽としてフォーミュラやGTレースを筆頭に40年以上のキャリアを積み、鈴木亜久里氏とともに欧州でF3000を戦った経歴から共同でエンジニアリング企業を設立。2000年代はトップフォーミュラとGTでARTA(AUTOBACS RACING TEAM AGURI)プロジェクトを支える傍ら、ミドルフォーミュラにも長年にわたって携わり、マカオGPなどでも経験を重ねてきた。
「実は僕、昨年いっぱいで亜久里との会社は『もうそろそろひと区切りじゃないか』と。御殿場にふたりで作った工場もお売りして、フリーランスとしてレースをやるように」なり、昨季はARTA同様に長らくその活動をともにするスリーボンドや道上龍とのF4プロジェクトに引き続き携わる。そんななか、旧知の人物からある仕事が舞い込んでくる。
「東レ(・カーボンマジック)の奥さん(奥明栄社長)から、要は『東レで初めて量産レーシングカー(第2世代FIA-F4)を作る。その手前の最初の部分だけ力を貸してくれ』と頼まれて、10月の終わりから(滋賀県)米原に行っていたんですよ。そこでモノコックをゼロから作りました。そのことが則竹さんの耳に入り、電話が掛かってきて『(愛知県)一宮と米原は40分ですぐだから』と言われてね」と苦笑いを浮かべた伊与木エンジニア。
「土日だけ御殿場へ帰るのは効率が悪いと思っていて『じゃあ則竹さん、酒でも飲みに行きますか』という感じで行きました。それで暮れにご飯を食べて、則竹さんの話を聞きました。それで『もう一度ル・マンに行きたい』と」
そんな壮大な経緯を経て担当することになった最新のランボルギーニ・ウラカンGT3エボ2は、2016年の初代導入時よりイタリアのサンタアガタに拠点を置くランボルギーニのモータースポーツ部門、スクアドラ・コルセが肝煎りで開発を担当。それまでドイツのライター・エンジニアリングが担当した歴代車両の蓄積も引き継ぎ、同じくイタリアの名門コンストラクターであるダラーラが開発に本格関与することで大幅な進化を遂げてきた。
現在も87号車(METALIVE S Lamborghini GT3)として現役を張る先代の“19エボ”も、ダラーラの主導により前後サスペンションアーム類が従来のスチール製からアルミ削り出しに改められ、アップライト本体も変更。リヤ側でも新ハブ、新ベアリングを採用し、ドライブシャフトのジョイント方法も更新するなど大掛かりなアップデートを受けていた。
その下敷きを踏まえた今回のエボ2は、2022年のFIA(国際自動車連盟)テクニカルレギュレーションに準拠し、車両ミッドに搭載された5222.1ccの自然吸気V型10気筒エンジンも新たな電子制御スロットルの採用など、新規のFIAホモロゲーションを取得。代を重ねるごとに重要度を増すエアロダイナミクスでは、量産モデルのウラカンSTOから派生し、ワンメイクのスーパートロフェオでも実績を重ねた造形が採用され、ルーフ上のシュノーケルスタイルのエアインテーク(通称“ちょんまげ”)を備える。
スクアドラ・コルセによれば「新たなスプリッター、高強度のザイロンでコーティングされたカーボン製のフロアと新設計のディフューザーにより、先代モデルより多くのダウンフォースを発生する」という最新型は、容量を増したブレーキキャリパーなども含め、トラクションコントロール、ABS、スロットルマッピングなど、従来以上にシビアなセットアップを要求するクルマとなった。しかし、そのレーシングカーとしての仕上がりには、まだ開幕序盤戦を経ただけの伊与木エンジニアとしても、何か琴線に触れるものがあったようだ。
「僕が一番最初にダラーラを見たのはマカオで『ダセェな、このクルマ』と思いました(笑)。でも、新車でやり出したときに『これほどマニュアルどおりになるクルマはないな』と感じるくらい(当時の)マーチやレイナードなどとは比較にならないほど精度が高かったです。彼ら(ダラーラ)もそこまで内容は深くないですけど、マニュアルに書いてあるとおりに動かせば、あるとおりの数字にはなります。そのときに『これはスゲェな』と思ったんですよ」と、これまでダラーラ製のF3や全日本スーパーフォーミュラ選手権のSF14、SF19を走らせ続けてきた伊与木エンジニア。
「何年か後にダラーラへ行ったときに感じたことは、当時で『これだけの規模で、あのクルマを作ることができるの?』ということでした。デザインスタッフの数も少ないですし、工場内部にめちゃくちゃ素晴らしい設備や工作機械があるわけじゃない。かといって、無骨という表現は申し訳ないけど、彼らの信条とする部分の“センス“がやはりありました。そういった匂いは、このウラカンにも感じますよね。(これまでGT300で担当した)GT-Rとも違いますし、NSXとももちろん違います。ヨーロッパで脈々と受け継がれてきた素養といいますか……」
そんな経緯で88号車JLOC Lamborghini GT3を担当することになった2024年シーズンだが、最初にマシンに触れたのはシーズンオフ期間の2月に富士で参加したヨコハマタイヤのテスト枠。そこでは「立ち合い程度」に留まり、本格的な仕事は岡山、富士の公式テストからとなったが、実はここにもひとつ驚愕のエピソードが潜んでいた。
「則竹さんがああいったオーナーですからね(笑)。事前には『岡山の合同テストは87号車(METALIVE S Lamborghini GT3)の方で』と言われていたんですよ。まあ(松浦)孝亮もよく知っているので、割と気楽な雰囲気で臨んだんです。そうしたら、いきなり富士の公式テスト……だから1週間後ですよ。則竹さんから『イヨちゃん、88号車(JLOC Lamborghini GT3)に変わって』と。もうチーム中、みんな『えええぇ~』ですよ。だって僕はもう87号車のセッティングシートを書いていたんですから(笑)」
この申し出に対し伊与木エンジニアは「これはレースに向けての最終テストですし、それはやらない方がいいですよ」と進言してはみたものの、則竹代表との「そこで『そうか』と1回は聞いたフリをされたんですけどね。結局、最後は『いや、もう何があってもすべての責任は俺が持つ』と言われ、納得しながら……いや、してないな!」とのやり取りを経て、急きょ88号車でのシーズンインが決まった。
「ただ、『オーナーがそう言うのだったら』という部分もありましたね。また逆に、勝手知ったる孝亮もあるけれど、勝手知ったる小暮(卓史)でもあります。相変わらず『小暮が言っていることはわかんねぇな』とかね(笑)」
※シーズン開幕から第2戦完勝劇のエピソードは後編に続く。
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インタビューした内容を精査して文章にするのがライターの仕事なんじゃないんですか?興味深い内容なのに分かりにくくてイライラしました