女性ライダーによる世界選手権とは?
平野ルナ選手(Team Luna)が参戦する『FIM Women‘s Circuit Racing World Championship』(女性サーキット・レーシング世界選手権。以下、WCR)について、概要を確認しましょう。
WCRは、2024年シーズンからスタートした女性ライダーによって争われる2輪ロードレースの世界選手権です。スーパーバイク世界選手権(SBK)に併催で、今季は全6戦12レース(1戦あたり土曜、日曜で各1レース開催)が予定されています。SBK第4戦エミリア・ロマーニャラウンドは、WCRの開幕戦にあたります。
マシンはヤマハ「YZF-R7」のワンメイクです。タイヤもピレリのワンメイクで、タイヤアロケーション(タイヤ配分)はフロント、リアともにSC1に統一され、基本的に他のコンパウンドはありません。これは、ライダーがマシンへの適応や、走りに集中しやすくすることを目的としたものだということです。
フル参戦ライダーは18の国と地域から集まり、日本人ライダーである平野選手もその1人です。また、2018年、スーパースポーツ300世界選手権(WSS300)チャンピオンに輝いたアナ・カラスコ選手もエントリーします。
開幕戦エミリア・ロマーニャ直前には、2019年から電動バイクレースFIM Enel MotoE World Championship(MotoE)で戦い続けるマリア・エレーラ選手も参戦を表明しました。開幕戦エミリア・ロマーニャはワイルドカード参戦のライダーを含め、計26名のライダーがエントリーしています。
カラスコ選手は2019年、2020年のスーパースポーツ世界選手権(WSS)チャンピオンのチームであるEvan Bros Racing Yamaha Teamから、また、エレーラ選手はMoto2やMotoEに参戦するKlint Forward Factory Teamからの参戦です。
一方、平野選手は個人でのエントリーです。ヘルパーやメカニックが1人から3人が必須とされる中で、イタリア人のメカニックをなんとか1人確保し、参戦のエントリーからパドックに入るためのパスの申請、ホテルなどの手配に至るまで、全て平野選手自身で行なって参戦しています。
選手権としては、どのような体制で参戦するのか、あるいはチーム体制のマネージメントなど含めて、ライダーに委ねられているのだろうと考えられます。
転倒者続出のレース1。5周の超スプリントで14位フィニッシュ
ミサノ初走行となった金曜日午前中のフリープラクティスは、平野選手にとって厳しいものとなりました。そもそも、WCRはフリープラクティスがこの1回、25分間のみで、午後はスーパーポール(予選)となります。非常に短い時間でコースを覚え、マシンをセッティングしなければなりません。
しかし、そんな貴重な25分間で、マシントラブルが発生します。走行中、エンジンが高回転に達すると、メインスイッチがオフになる症状が出たのです。フリープラクティス後にヤマハのエンジニアにメインスイッチ付近を交換してもらい、スーパーポールまでに問題は解決しましたが、セッティングを詰められておらず、スーパーポールは練習走行のような形で走るしかありませんでした。
翌日土曜日のレース1を、平野選手は23番手からスタートします。このレース1は、転倒と赤旗が続出し、合計で8名のライダーのクラッシュが発生しました。最初のレースは16コーナーで転倒したライダーの救護活動のため、5周目に赤旗が提示されて中断となります。レース再開は先延ばしとなり、SBKのレース1が終わった頃に、16時にピットレーンオープンとアナウンスされました。その間、タイヤ交換や燃料の追加はなかったということです。
5周で再びスタートしたレースは、1周目に転倒者が出てまたしても赤旗中断。この赤旗中断は10分ほどで解除され、5周で再々スタートとなりました。非常に短いレースでしたが、平野選手は19番手からポジションを上げ、14位でゴール。2ポイントを獲得したのです。
「超スプリントレースだったのがすごくつらかったです。3回目のスタートはストレートで目の前で転ばれちゃったので、前と相当差が開いてしまいました。5周しかなかったので、とにかく前のライダーを抜くしかないと思っていました」
「残り2周で前のライダーに追いついたので、『最終ラップ、得意なコーナーで絶対に抜く!』と決めていたんです。近くにいたライダーは全員抜けたので、よかったです」
初めて走るミサノ・サーキットでしたが、平野選手はすでに13コーナーを得意としており、最終ラップ、そこでパスを決めていました。順調に順応が進んでいることを窺わせます。ただ、赤旗続出のレースとその内容には驚きもにじませていました。
「当てるのが普通なレース、という感じではありました。セーフティ・ゾーンがすごく狭いし、幅寄せもありましたし。抜くのもすごく難しかったです。生き残りゲームになってしまいましたね。だいぶコースには慣れてきましたが、わたしが慣れたということは周りも慣れたということです。楽しいのもありますけど、あまりにも赤旗が続くのは、ちょっとつらいですね」
大きくタイム向上のレース2。それによる弊害も……
レース1がこうした展開となったため、注意喚起のブリーフィングがあったということです。このためか、レース2は赤旗が提示されることはなく、12周のレースが行なわれました。
平野選手はレース2を7列目21番手からスタートします。1周目で19番手に浮上し、16位でゴールしました。
セッションのたびに自己ベストを更新した平野選手は、このレース2で1分52秒467を記録しています。このため、平野選手のタイムにバイクのセッティングが合わなくなる状態となったのです。
「1分52秒前半から後半のタイムで周回を重ねることができたのですが、(レース前に)セッティングを変える時間がなくて、1分55秒台のセッティングのままだったんです。前の集団と1秒くらいの差だったのですけど、後半にどんどん速度が上がって、ブレーキング・ポイントが奥になって止まれなくなって。終盤にはオーバーランを連発してしまいました。前と離されてレースが終わってしまったんです」
「フリープラクティスでトラブルがあって、方向性も見られなかった。R7にまだ慣れていなかったのが、いちばん響いたかな、と思います」
2レースを完走で終えた開幕戦について、平野選手は、こう語ります。
「今まではチームに頼り切って、自分は走るだけでした。でも、ここではレンタカーやホテル、飛行機の手配、(メカニックの)人件費について考えるところまで、全てを自分でやるのはいい経験だな、と思います」
「チーム体制についても、今後、スポンサーさんに向けたPRなど、考えないといけないことが多いですね。次戦、イギリスはひと月後なので、発信を頑張っていこうと思います。体制についても、今回はシーズンでついてくれるメカニックさんがご友人を呼んでくださったけど、ほかのラウンドについても探そうと思っています。今回の経験を生かして、整理して、次のドニントンパークに向けて頑張りたいですね」
単身でWCRに乗り込んだ平野選手の挑戦が、ミサノで幕を開けました。
WCR第2戦は、SBK第5戦イギリスラウンドに併催で、7月12日から14日にかけて、ドニントンパークで行なわれます。
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