1日目 7:00/ロンドン 「S」の実力を探る2日間
スマートフォンのアラームを止めて、ニュース・アプリを開く。続いて、Xをチェック。
【画像】末永く所有したい ポルシェ・カイエン S 競合サイズのSUVと比較 全175枚
シャワーを浴びて、着替えて最新のSUVに乗る。ロンドンの北を環状に結ぶ、国道A406号線は例によって渋滞中。天気は、どんよりした曇り。これも、この季節としては普段通りだ。
しかし、今朝の目的地はロンドン西部のAUTOCAR編集部ではない。ポルシェ・カイエン Sは、ゆっくりと北上中。本日の業務は、グレートブリテン島北東部に位置する、キールダーと呼ばれる森林地帯を目指し、この実力を探ることだ。
大型SUVのカイエンは、ポルシェの救世主として20年以上も高く評価されてきた。一方でその開発理由は、走りを純粋に磨いたモデルを提供し続けるためだと、ブランドマニアは受け止めているだろう。
既にAUTOCARでは、大幅なマイナーチェンジを受けたカイエン Sを入念にテストしている。運転を楽しめ、末永く所有したいと思えるSUVだと結論付けた。
詳細データテストは、かなり多角的な内容で実施している。しかし本当に長い間、好印象を抱き続けられるかどうかは、もう少しステアリングホイールを握ってみなければわからない。できれば2日間、どっぷり浸かりたい。
そこで筆者は、スコットランド方面へ足を伸ばす、長距離ドライブを敢行することにした。生活を潤す実用性と、運転の楽しさを兼ね備えたSUVだと、確証を得るために。メカニズムの本領を、しっかり引き出せる環境で。
内燃エンジンを積んだ最後のカイエン?
ポルシェの主張では、今回のアップデートは、同社の90年以上の歴史で最も大規模な内容の1つだという。新しいバンパーやフロントガラス、サスペンション、高効率と高出力化を叶えたエンジンなどを獲得し、モデルチェンジへ近いと筆者も考えている。
そこまで力が込められた理由は、2026年に登場予定の新しいバッテリーEV、カイエン・エレクトリックまで新鮮さを保つ必要があるから。それと交代するように、この世代は役目を終えるはずだ。
まだ気は早いが、これがエンジンを積んだ最後のカイエンになる可能性は高い。ブランド好調の立役者を掘り下げるのに、今のタイミングは悪くはないだろう。
歴代のカイエンへ試乗してきた筆者だが、今回のアップデートで1番注目している仕様が「S」。控えめにアルファベット1文字が追加されただけだが、V8エンジンがボンネット内に帰ってきた。
パナメーラやランボルギーニ・ウルスの動力源にもなってきた、4.0Lのツインターボだ。初代のカイエン SにはV8エンジンが載っていたが、2代目に入り、途中でV6ツインターボへ置き換わっていた。
11:00/ウェザビー 警報級の土砂降り
グレートブリテン島を340kmほど北上し、ウェザビーという街で小休憩。カイエン Sにはすっかり慣れたが、天候は悪化している。
行く先の空模様を確認するため、フォトグラファーのマックス・エドレストンがスマートフォンを見つめる。さらに北のノーサンバーランド州は、もっと酷いらしい。警報が出ているくらいだ。
本来なら、キールダーの森を貫くワインディング、フォレスト・ドライブを走りたいところなのだが、冬季閉鎖中とのこと。その道は東西に30kmほど続き、グレートブリテン島で最も標高の高いポイントを通るルートの1つ。走りがいのある区間だ。
クラシックカーが対象の、キールダー・フォレスト・ラリーでは、コースの一部にもなっている。四輪駆動に474psを発揮するV8エンジンの組み合わせなら、きっと存分に楽しめるだろう。写真映えすることも間違いないのだが。
15:00/ノーサンバーランド 予報通りの悪天候
さらに170kmほど走り、ノーサンバーランド州へ入る。キールダーの森は目の前だが、天気は予報通り土砂降り。外での撮影は難しい。
早めにホテルへチェックインし、ニュース・アプリを再びチェック。Xのタイムラインへ目を通す。別の仕事を進め、19:00過ぎに夕食と一緒にワインをいただいた。
2日目 7:00/ノーサンバーランド V8へ向き合う
翌朝、スマートフォンのアラームを止めて、ニュース・アプリを開く。続いて、Xをチェック。
シャワーを浴びて、着替えて最新のカイエン Sに乗り込む。警報も解除され、空から雨粒は落ちていない。交通量は少ない。いよいよ、4.0L V8ツインターボと向き合う時間がやって来た。
このエンジンは素晴らしい。心の底からそう思う。フォルクスワーゲン・グループの複数のモデルに載ってきたユニットだが、カイエン Sでは61.1kg-mの最大トルクを発揮するようチューニングされている。モナコに建つカジノの警備員のように、たくましい。
ローンチコントロール・システムが実装され、0-100km/h加速を5.0秒でこなす俊足の持ち主だ。スポーツ+モードを選び、左足でブレーキペダルを踏み、右足でアクセルペダルを深く倒す。前方を確認して、左足を緩めれば、ロケットダッシュが始まる。
V8ツインターボから怒号が放たれ、後ろから蹴飛ばされたように頭がシートへ押し付けられる。スポーツエグゾーストのバルブは、ぜひとも開きたいところ。新世代のマフラーは、排気ガス規制に合致させるため荒々しさが弱い。
薄雲を通して見る太陽は、ウェルシュ・コーギーのように黄金色。優しくドラマチックな光が、筋肉質なボディに陰影を生み出す。テールライトは、真一文字。21世紀が始まる頃に抱いた、未来的なイメージと重なるのは筆者だけだろうか。
この続きは、ポルシェ・カイエン S を深掘り(2)まで。
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