これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、クルーザーのラウンジを想起させる上質な空間設計を目指した高級ミニバン、エリシオンを取り上げる。
ホンダ エリシオンはLサイズ高級ミニバンクラスに一石を投じたホンダの意欲作! こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】
文/フォッケウルフ、写真/ホンダ
【画像ギャラリー】移動するラウンジとして高い完成度を実現したエリシオンの写真をもっと見る!(11枚)
ミニバン=実用車という概念を変える新世代プレミアム8シーター
Lサイズミニバンクラスでアルファードが一強となる以前、このクラスには個性豊かな選択肢が存在した。今回クローズアップする「ホンダ エリシオン」は、2004年当時からLサイズミニバンクラスをリードしていたアルファードに対抗する切り札として、「新世代プレミアム8シーター」というキャッチフレーズを掲げて登場した。
エリシオンは先行する競合車と明確に差別化を図るべく、ホンダが得意とする低床・フラット構造を特徴とする独自のアーキテクチャによって、3列すべてにおいて上質な居住性を確保しながら、低重心化による安定した走行性能を実現することを目指した。
さらに、先進のプラットフォーム技術と環境・安全性能を高次元で融合させることで、家族の安全や周囲への優しさといったミニバンにとっての本質的な能力を高い水準へ引き上げることに注力していた。
ホンダのフラッグシップミニバンとして004年に誕生したエリシオン。ラグレイとの後継車的な位置付けで2013年まで販売された
「新世代プレミアム8シーター」を具現化するため、開発に際しては「8人全員が快適に過ごせる居住空間」の実現を主眼に、床下構造やリアサスペンションのレイアウトを最適化した。これにより、低くフラットな床面と室内高1265mmというクラス屈指のヘッドクリアランスを両立させた。
プレミアム・クルーザーのラウンジをモチーフとして構築された車内は、3列すべてにおいて乗員が心からくつろげる空間とするために、大型で明るいグラスエリアによる開放感と包み込むようなシート構造が調和するリビング的な設えを採用した。
シートは1列から3列目まで上質なソファを想起させる設計とすることで、包み込まれるようなフィット感を実現。さらにソフトなクッション材とスウェード調の高触感表皮を組み合わせることで、座面・背面ともに余裕ある長さ・幅・厚みを確保。長時間の乗車でも心地よさを維持できる、まさに“移動するラウンジ”が体現されていた。
また視界の開放感にも配慮し、後方に向かって約40mmずつ着座位置を高くする「シアターレイアウト」を採用。とくに2列目、3列目においてもクリアな前方視界を確保して閉塞感を軽減し、長距離移動時の快適性が高めている。
高級ミニバンという観点でも競合車に引けは取らない。インストルメントパネルやドアライニングにあしらった立体感のある木目調パネルが目を引く。
無垢材を削り出したかのような造形で、なおかつメタル調パーツを効果的に組み合わせることによって温もりのなかに硬質なアクセントを表現。単なる装飾にとどまらず、空間全体に静かで穏やかな印象を与え、乗り込んだ瞬間から豊かを実感しながら静謐なひとときを過ごせる。
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静と動の巧みな融合でプレミアムミニバンらしさを表現
外観は、スクエアなフォルムによる量感と、流線型をイメージさせる丸で表現した動感を融合した造形が特徴だ。ホンダの説明によると、「大海原を疾走するクルーザーのダイナミズムをモチーフとし、躍動感と安定感を高次元で調和」させたという。
フロントまわりは、色調が異なるメッキパーツを組み合わせた横基調の大型グリルを配置し、サイドまで大胆にまわり込んだ薄型ヘッドライトとの組み合わせによって横方向への広がりとラウンド感が強調されている。
また、全高よりも全幅を広くして、視覚的にもワイド&ローのプロポーションが際立っている。加えてフロントバンパーからフェンダーにかけては、抑揚あるボリューム造形を施し、低重心かつ力強いスタンスを明確に打ち出すなど、走行安定性と躍動感を同時に演出。キャラクターラインやサイドシルの造形も、ボディ全体に伸びやかで滑らかな動線を与え、静止状態でも動きを感じさせる。
リアセクションでは、上下方向に厚みを持たせたリアバンパーとワイドに張り出したフェンダーフレアとテールゲートとの融合処理によって、低重心で重厚感のある後ろ姿を形成。これにより、フロントとの連続性と車両全体の安定感を視覚的に補強している。
抑揚あるボリューム造形によって低重心かつ力強いスタンスを明確に打ち出している
「人を運ぶ箱」にとどまらないドライバーズ・ミニバンであることも、エリシオンが競合車と一線を画す要素のひとつで、パワーユニットは、ホンダ独自の可変バルブ制御技術をベースとした2タイプが設定されている。
両エンジンともに高出力と高トルク、さらには燃費・環境性能のトータルバランスに優れた仕様で、走りに関しては二の次とされていた感があるミニバンクラスにおいて技術的リファレンスを提示した。ちなみにエリシオン以降、Lサイズミニバンにおいても走りに影響する部分にこだわる傾向が強くなっていく。
上位グレードには3L V6 i-VTECエンジンを搭載。走行状況に応じて、6気筒←→3気筒の切り替えを行う可変シリンダーシステムを採用し、巡航時には一部気筒を休止して燃料消費を抑え、加速時には6気筒すべてを稼働させて力強い動力性能を発揮する。
最高出力は250PS、最大トルク309N・mというパフォーマンスは、車格に対して十分なうえ、Lサイズミニバンのなかでは群を抜く性能を有していた。
一方、販売の主力となった2.4Lエンジンは、VTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)に加え、吸気側バルブの開閉タイミングを連続可変制御するVTC(可変バルブタイミング・コントロール機構)を組み合わせた。これによって常用域でのトルクとレスポンスに優れ、最高出力160ps、最大トルク218Nmを発生しながら燃費と排出ガス性能も両立している。
トランスミッションは、搭載されるパワーユニットに最適化され、各エンジンの出力特性を最大限に活かしながら、滑らかな加速フィールを味わわせる電子制御5速ATが採用された。
最大の持ち味はミニバンクラスの常識を覆す走りのよさ
高級ミニバンらしい上質な走行性能と高い室内快適性を両立するために、サスペンションやボディ骨格、空力設計といった要件について緻密な設計が施された。
フロントには、ダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用。A型ロアアームと大径コンプライアンスブッシュを組み合わせることで、直進安定性と衝撃吸収性のバランスに優れた操縦安定性を実現している。
リアはスプリングとダンパーを分離配置して構造をコンパクト化したトレーリングアーム付ダブルウィッシュボーン式サスペンションとすることで低床・フラットなフロア設計を可能とした。
ボディ構造では、大断面フロアフレームを車体前後方向にストレート配置し、要所にクロスメンバーを効果的に配置。これにより、キャビン全体としてのねじり剛性と制振性が向上し、高速安定性と乗り心地の両立に寄与している。
主要構造部材には高張力鋼板を積極的に採用することにより、通常鋼材比で約24kgの軽量化を達成し、エリシオンの持ち味である走りのよさの実現に大きく貢献した。
流麗なワンモーションフォルムとしたうえに、ボディ下面に至るまで徹底した整流処理を実施。さらにフロントピラー形状、ドアミラー位置、ボンネット後端部の空力最適化によって空気の流れをスムースに後方へ導き、風切り音の大幅低減を実現。高速域における静粛性と燃費性能の向上に大きく寄与している。
このように、エリシオンはミニバンでありながら、乗用車に匹敵するハンドリング性能と快適性を目指したシャシー設計がなされており、ファミリーユースから長距離ドライブまで高水準の走行体験を提供する、まさに走りのミニバンとして広く認知された。
左右を貫く木目パネルがドライバーと助手席乗員の空間的一体感を強調。メーターフードを排したフラットな上面形状によって、広がりある視界と先進的な印象を両立させている
ミニバンという車型の枠を超え、静粛性・快適性・機能性において上級セダンと同等、あるいはそれ以上のパフォーマンスを実現するために、徹底した技術的アプローチがなされた。
ボディ剛性の最適化、遮音材の多層配置、フロア構造の振動絶縁設計など、静粛性向上のための工夫はもちろん、サスペンションジオメトリーの最適化やダンパー特性のチューニングにより、走行中の微振動やロードノイズを高度に抑制。これに加え、シート形状や空調制御などインターフェース設計においても乗員全体の快適性を高めている。
こうした設計思想は、豪華装備を搭載することで心地よさと満足感を提供するといった、それまでLサイズミニバンとは明らかに異なるものだった。エリシオンが狙ったのは、移動空間を“モバイルラウンジ”として捉えたトータルパッケージングの完成度に結実だったと言っていい。
しかし、国内市場においては期待された販売実績を残せなかった。その背景には、高級車としての存在感の希薄さ、ポジショニングの曖昧さなど、複数の要因が複雑に絡み合っている。それでも、価格に対して得られる価値が高い「隠れた名車」であることは間違いなく、再評価されてしかるべき1台だろう。
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モデルチェンジすれば、普通に売れ続けていたのに勿体ない!