2020年4月12日に亡くなった元レーシング・ドライバー、スターリング・モス。自動車評論家の吉田 匠が、彼の生涯を振り返る。
ミッレミリアの最速記録
1927年から1957年までの30年間、第2次世界大戦中の休止を除いて開かれた「ミッレミリア」というロードレースが、イタリアにあった。ロードレースとは、つまり公道レース。舞台は北イタリアの古都ブレシアからローマに至り、そこからまた別ルートを辿ってブレシアに戻る1600km。その1600kmの道を、ガソリン補給や車両整備の時間以外は全開に次ぐ全開で走り続け、誰よりも速くブレシアに帰り着いたクルマとドライバーが勝つという、壮絶なスピードレースだ。ちなみにミッレミリア=Mille Migliaとは、イタリア語で1000マイル=1600kmを意味する。
ミッレミリアはイタリアのイベントだからイタリア車とイタリア人ドライバーのコンビが勝つことが多かったが、実は1600km走破の最速記録を打ち立てたのはドイツのメルセデス「300SLR」と、それを走らせたイギリス人ドライバーだった。
1955年、モータースポーツジャーナリストのデニス・ジェンキンソンをコ・ドライバーにして300SLRを風のように走らせたイギリス人、スターリング・モスは、ブレシア~ローマ~ブレシア間の1600kmを前人未到の10時間7分48秒、平均速度157+km/hで駆け抜けたのである。そしてこの記録は、1957年に起きた大事故が原因でミッレミリアが中止に追い込まれるまで、誰にも破られることはなかった。
Mille Miglia 1955 in Italien vom 30. April bis 1. Mai 1955: Stirling MossMille Miglia 1955 in Italy from 30 April to 1 May 1955: Stirling MossMercedes-Benz 300 SLR Rennsportwagen (W 196 S), 1955. Fahrzeug von Stirling Moss und Denis Jenkinson bei der Mille Miglia des gleichen Jahres (Rekordzeit: 10 Stunden, 7 Minuten und 48 Sekunden). Studioaufnahme, Exterieur, von links vorn.Mercedes-Benz 300 SLR sports car (W 196 S), 1955. Car driven by Stirling Moss with Denis Jenkinson in the Mille Miglia of the same year (record time: 10 hours, 7 minutes and 48 seconds). Studio shot, exterior, front left.第2次世界大戦後とはいえ1950~1960年代半ば頃までの自動車レースは、今日のF1やWECにみられるような電子機器を駆使したチーム同士の頭脳戦とは様相の異なる、ドライバーとドライバー、男と男の戦いだった。そんな時代にあって、ミッレミリアを前人未到の記録で駆け抜けたスターリング・モスは、数多い往時のレーシングドライバーのなかにあって一気に男を上げたのである。
モスは1951年から1961年まで11年間にわたってF1に参戦。プライベートチームから出走した1961年のモナコGPでは、旧型のロータスF1を駆ってフェラーリやロータスの最新型を相手にポールポジションを獲得、レースでも優勝するという快挙を成し遂げているが、いずれも年間最高位はシリーズ2位にとどまり、チャンピオンにはなっていない。強力なチームに恵まれなかったこともその一因であるが、モスが“無冠の帝王”と呼ばれる所以である。
結局彼は1962年にレース中のアクシデントで脳に損傷を受け、翌年、32歳の若さでレースドライバーから引退する。
Mille Miglia 1955 in Italien vom 30. April bis 1. Mai 1955: Stirling MossMille Miglia 1955 in Italy from 30 April to 1 May 1955: Stirling MossMercedes-Benz Rennfahrer Stirling MossMercedes-Benz racing driver Sir Stirling Moss引退後の活躍
しかし引退後も、クルマを速く走らせることへのモスの情熱は衰えることを知らず、 1980年代にはアウディ「80」でツーリング・カー・レースに出たりしていたが、同じく1980年代から世界各地で盛んになったヒストリック・カーのレースやラリーに往年のレジェンドとして招かれ、現役時代に自分が走らせたクルマをドライビングするという、まさにうってつけの役があちこちからオファーされることになる。
実際に僕も、1980年代に3度ほどイタリアのリバイバル版ミッレミリアを取材したが、そこには常に、300SLRやマセラティ250Sを豪快に走らせるスターリング・モスの姿があった。
Faszination Motorsport: Sir Stirling Moss (links) und Lewis Hamilton bei der Mercedes-Benz Classic Insight „Erfolgsgeschichten 1955“ am 24. April 2015 in Italien.Fascination motorsport: Sir Stirling Moss (left) and Lewis Hamilton during the Mercedes-Benz Classic Insight “Success Stories 1955” in Italy from 22 to 24 April 2015.今や“サー”の称号を持つそのスターリング・モスが4月12日、享年90 歳で静かに息を引き取った。男が自らの肉体と頭脳とパッションをフルに駆使してレースを戦っていた時代を象徴する最高のレーシングドライバーのひとりが、ついにこの世を去ったわけだ。
最後に、彼自身が遺した有名な言葉を添えて、偉大なるドライバーにして男のなかの男、サー・スターリング・モスの御冥福を祈りたい。
「それが上手くないとちゃんとした男だと認められないことが、世の中にはふたつあるのさ。それは、クルマの運転とmake loveだよ」
Mercedes-Benz Markenbotschafter Sir Stirling Moss. Foto vom Goodwood Festival of Speed 2015 vom 26. bis 28. Juni 2015.Mercedes-Benz Brand Ambassador Sir Stirling Moss. Photo of Goodwood Festival of Speed 2015 from 26 to 28 June 2015.文・吉田 匠
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