高齢者の活躍を促進する2社の取り組み
クルマの福祉に関するニーズは時代と共に変化している。近年は、特に高齢者が積極的にクルマで外出することを考慮した装備や、それらが福祉車両でないクルマにも“後付け”できることが求められているが、こういったニーズへ積極的に対応するのがトヨタとダイハツだ。
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ここでは、国際福祉機器展(9月25日~9月27日・東京ビッグサイト)の2社合同ブースで取材した、時代の要望に呼応する製品や取り組みを紹介する。
踏み間違い時に加速を抑制する後付け装置
福祉車両といえば、障がいを持つ人たちの移動を助けるクルマとの印象が強かった。しかし、少子高齢化の日本では、元気な高齢者が意欲的に社会へ出るための対応が様々に練られている。
そんななかで懸念されているのは、ペダルの踏み間違いによる衝突事故。新車においては、国が制度化した安全運転サポート車(通称サポカー・サポカーS)の導入により、衝突被害軽減ブレーキなどの装着が軽自動車を含めて進んでいるが、既存の未装着車を愛用している人に向けて、後付けの衝突被害軽減装置が一部で販売されている。
ペダルの踏み間違いなど高齢者や運転が未熟な人に多くみられる事故の多くは、年式の古い車種であることも多く、また年金生活に依存する高齢者に新車への買い替えを促すのも容易ではない。そこを支援するのが、自動車メーカー発の“後付け装置”である。
トヨタやダイハツでは、昨年から発売開始。トヨタが「踏み間違い加速抑制システム」、ダイハツは「つくつく防止」の製品名で車種別に展開している。
トヨタ版を例に説明すると、コーナーセンサー技術を活用し、アクセルペダルが踏まれても障害物を検知すると、ガソリン供給を止めてエンジン出力を弱め加速を抑制。車内に設置したモニターから「アクセルを離してください」という表示と警告音によって運転者に注意喚起も行なうというもの(ダイハツ版も基本的に同様)。
取り付け費用は、車種によっても異なるが、トヨタのコンパクトカーの場合で部品代と工賃をあわせると約10万円ほど。人によっては高額と思うだろうが、万一事故を起こしてしまった後の処置や費用を考えれば、予防策として合理的な金額といえるかもしれない。
ダイハツの乗り降りをラクにする注文装備
ほかに、ダイハツが新型タントで取り組んだのが、高齢者の乗降を手助けする装置などの注文装備化。日常的には元気に歩いて出掛けられる高齢者でも、車内へ乗り込むために足を踏ん張ったり、車内を移動するために体をずらしたりすることに難儀する場合がある。
それを助ける機能を、新車購入時に注文装備として設定。福祉車両のような特別仕様ということではなく、標準の新車に後付け(注文)できる仕組みだ。
ひとつは、電動格納式のステップ「ミラクルオートステップ」。これを取り付けるため、新車開発のときから取り付けや配線を考慮して新型タントは開発された。
また、一旦ドアを開けようとしたが、思い直して閉じるといったような場面や、ドアを開けたり閉めたりする過程のどの時期にステップを出すかといった安全策も考慮されて開発。ステップの耐荷重は100kgというので、かなりの重さにも耐えられる設計となっている。
次に、助手席や後席に取り付ける手すりや握り「ラクスマグリップ」も、実際に高齢者に体験してもらいながら開発されたもの。
ダイハツでは、地域密着プロジェクトと称して、新型タントを開発する過程で産官学の協力のもと、実施してきた。これらの注文装備は、医療科学や、理学療法士など専門家の評価や、自治体などとも連携して機能確認がなされている。自動車メーカー独自の物づくりだけでなく、社会と協調しながらの開かれた開発という点で目新しい。
なお、トヨタは、以前から「サポトヨプラス」というブランド名で、同じく高齢者などの外出をサポートする注文装備を展開。着座時に体の向きが変えやすい「回転クッション」や体をひねらずにシートベルトができる「シートベルトパッド」など、多様なラインアップを用意する。
元気な高齢者が運転し地域貢献する取り組み
またトヨタでは、地域の移動手段の確保の視点から、「ウェルジョイン」と呼ばれる5ナンバーミニバンの福祉車両を使った送迎支援の実証実験をスタート。これは、とくに人口の少ない地方において、路線バスの廃止や、赤字で運行の厳しさを増す市営バスに代替する、相互扶助による移動手段の確保の実現へ向けた取り組みである。
その地域に住む元気な高齢者が運転を務め、地域の高齢者の移動を助ける。それに際し、ウェルジョインのミニバンは、3列シート車の2列目の左端の一席を取り外すことにより、3列席からの乗降に際して、2列目の乗員がいったん外へ降りる必要を解消。乗る人すべてが、一人で乗降できるようにした。
相互互助による移動サービスを提案
また、地域の人が運転を担うことで、家の玄関先まで、言葉通りのドア・トゥ・ドアの送迎が可能になり、利用者が地域の顔見知りに遠慮なく頼めるというサービスも注目。
MaaS(マース)という言葉で、業者がスマートフォンなどICTを活用し、様々な公共の移動サービスをパッケージ化する動きが注目を集めている。だが、今回の実証実験は、商売としての事業化提案ではなく、地域の人々が互いにできることで助け合う、まさに相互扶助による安心な移動支援を自動車メーカーであるトヨタが提案するという、新たな取り組みだ。
実証実験では、路線バスが廃止された地域の市営バスが抱える赤字を大幅に削減する効果も出ているという。一方で課題もあり、地域によってはこうした仕組みを運営する自治体が手一杯で、採り入れたくてもできないなど、時間や手間がかかるケースがあることだ。生活を守るという最低の住環境を満たすうえで、産官を交えた推進力の模索が求められている。
ほかに、トヨタでは、車いすを簡単に固定できるフックを新開発。自動車工業会を通じて広く普及する活動を行なっている。
来年の東京パラリンピックに際し、開会式会場への移動時間の遅れが懸念されており、短時間で車いすを固定できるこのフックをバスに搭載すれば、世の中への認知も広がり、またパラリンピック運営の助けにもなるだろう。
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