■自動運転はもちろん、会話もできる夢のスーパーカー「ナイト2000」がオークションに出品
1980年代に世界中のティーンエイジャーを熱狂させたアメリカのTVドラマ「ナイトライダー」で、圧倒的な存在感を見せつけた超スーパーカー「ナイト2000」が、2020年夏のアメリカのオークショネア「ジュリアン・オークション」社によって、オンライン競売にかけられた。
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アメリカ文化が世界を席巻した1980年代のポップカルチャーを代表する劇中車両としては、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズ3作に登場したデロリアンと双璧を成すともいわれる「ナイト2000」。その足跡を振り返るとともに、オークションでの展開を追ってみることにしよう。
●世界中の“男子”を魅了した、夢の超スーパーカー
ジュリアン・オークション社は2003年に創業。ハリウッドを擁するロサンゼルス郊外の町、カルヴァーシティに本拠を置き、アメリカのエンターテインメント界やスポーツ界から集めたグッズ類を得意とするオークションハウスとのことである。
そしてこの夏、新型コロナウィルス禍に対応してオンラインで開催されたオークション「Hollywood:Legends & Explorers」では、その名のとおりハリウッドを中心とする映画やドラマ、音楽イベントなどで実際に使用された衣装や小道具、台本や表彰状などのドキュメント類、あるいはアワード受賞時のトロフィーなど、アメリカのエンターテインメント産業とセレブレティたちの足跡を物語るような、貴重なメモラビリアたちが出品される。
また、なぜかカップリングとして、NASA放出と思しき宇宙開発史を語る品々もこの競売の対象となっており、出品アイテムは900点以上にも及んでいた。
そんな出品アイテムたちのなかでも異彩を放っていたのが、かつて世界的にブームを巻き起こしたTVドラマ『ナイトライダー』のシンボルともいうべき、漆黒のスーパーマシンであった。「キット(K.I.T.T.)」こと「ナイト2000」である。
アメリカNBCネットワークで1982年から1986年まで全84話が放映された「ナイトライダー」は、母国アメリカやヨーロッパのみならず、極東のわが国でも大人気を博した、単純明快・勧善懲悪のアクションドラマである。
そして、デーヴィッド・ハッセルホフが演ずるヒーロー、マイケル・ナイトと同等かそれ以上の人気を博したのが、マイケルの相棒となる「ナイト2000」。あらゆる特別装備のすべてをつかさどるA.I.システムの名から「キット」の愛称で呼ばれる、クルマを超えたクルマである。
今世紀初頭に消滅してしまったGMのブランド「ポンティアック」が、1982年から1993年まで生産していた「ファイアーバード・トランザム」第3世代モデルをベースに、SF的な大改造を施したナイト2000は、ドラマの設定では「分子結合殻を組み込んだ特殊セラミックコートによる防弾・耐衝撃ボディ」や、「人間との自然な会話による指示・応答や自律での無人走行を可能とする高性能人工知能(キット)」などで完全武装した、まさしく夢のスーパーカーと謳われた。
また、こちらも設定上の最高速度はノーマルモードで322mph(約520km/h)、シーズン4からアップデートされた「スーパー追跡モード」では、なんと450mph(約720km/h)を標榜。劇中ではマイケルとともに18輪トラックをヒラリと飛び越えるダイナミックなジャンプや、クロスカントリー車を次々と撃破するダート走行シーンなどを披露し、世界中の少年たちを魅了することになった。
こうして1980年代のアイコン的存在となった「ナイト2000」は、4シーズン全84話(日本では74話)の放映が終了したのちにも、世界中でレプリカ車が製作されるほどの人気を博すことになる。日本でも熱心なファンの手によって、ほぼ完璧に再現されたレプリカが複数台存在しているようだ。
そんなナイト2000のオリジナル車両が、オンライン限定オークションで入手できるというのは、当時マイケルとキットのドラマに熱狂したファンにとっては、なにがなんでも見逃せないものだった。
■3台製作された劇中車の1台、その落札価格は?
今回ジュリアン・オークション社の「Hollywood:Legends & Explorers」オークションに出品された「ナイト2000」は、1983年に「ハリウッド・プロダクションズ」社が購入し、ドラマ出演およびプロモーション活動のために3台製作されたうちの1台。
●本物のナイト2000、その評価はいかに?
北米で「ナイトライダー」全シリーズの放映が終了した1987年、ドイツ語圏ではロックミュージシャンとしても人気を博していたハッセルホフ氏が、自身のバンド「ナイトロッカーズ」のコンサートツアーに帯同するため、オーストリアにナイト2000を持ち込んだとされる。
ナイト2000はコンサートツアーの終了後もオーストリアに残り、ウィーン近郊の小都市シュトッケラウの自動車博物館「Siegfried Marcus Automobile Museum」に、2005年ごろまで展示されていたという。
その後、デーヴィッド・ハッセルホフと「キット」の声を当てた俳優ウィリアム・ダニエルズのサインが書き込まれ、証明書も添付されたこの「ホンモノのナイト2000」は、いったんアメリカに戻されていた時期もあったそうだ。しかし、NBCと同じ企業グループに所属する「ユニバーサルスタジオ」が自社企画の出張イベントのため、および「デーヴィッド・ハッセルホフ&ナイトロッカーズ」ツアーの目玉とするために、再びオーストリアに移送したとの記録が残されている。
前世紀末から長らくアルコール依存症に悩み、このツアーに再起を賭けていたハッセルホフは「このクルマは2010/2011におこなわれた、私のカムバックツアーに帯同してくれたほか、たくさんのTVショーやコンサートでも私を助けてくれました。」と語ったとのことである。
世界が注目していた「ナイト2000」の競売については、売り手であるオークションハウスがクラシックカー/コレクターズカー専門ではないことに加えて、いわゆる相場の無いクルマであるせいか、推定落札価格については10万?20万ドルという、かなり広めの幅が設けられていた。
2週間にわたって展開されるオンライン競売は、まず2万5000ドルからスタートした。そののち数日で2件の入札があり、価格は3万2500ドルに上昇したのだが、さらに翌日には1件のみの入札で2倍に相当する6万5000ドルまで急騰。現オーナーとオークショネア側が最低落札価格を設定していなければ、入札終了まで12日を残して、そのまま落札の可能性も見えてきた。
ところがその後もビッドは小刻みに続けられ、数日後には7万5000ドルに上昇。そして入札が締め切られる前日にはエスティメート下限に相当する10万ドル(約1078万円)まで届いたのち、7月17日午前10:00(現地時刻)の締め切り直前には、この種のオンラインオークションではお馴染みとなったビッド合戦が展開されたようだ。
翌日発表された落札価格は、手数料を合わせればエスティメート上限に迫る19万2000ドル(約2054万円)となったのだ。
日本円換算で2000万円を超えたこの落札価格について、驚きの高価格と見るか、それとも知名度と人気の割にはリーズナブルと見るかは、人によって意見が分かれるところだろう。
それでも、同年代のファイアーバード・トランザムが概ね1万ドル前後。「デイトナ500」レースの元ペースカーなど、特別なヒストリーを持つ個体でも2万ドル以内で取り引きされている現況と比較すれば、やはり「ナイトライダー」の威光はいまなお健在と納得させられてしまったのである。
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