輸入車 [2023.07.15 UP]
マクラーレンというブランドの真髄【自動車ジャーナリスト九島辰也が解説】
文●九島辰也 写真●マクラーレン
マクラーレン 新型750S、アルトゥーラ他スーパーカー揃い踏み 英グッドウッド
マクラーレンというカーメーカーがあります。正確にはマクラーレン・オートモーティブといい2010年に発足しました。最初のモデルはMP4-12C。F1グランプリで活躍していたMP4シリーズの名前を付けることで、技術的な系統を強調します。当時、サリー州ウォーキングにあるMPC(マクラーレン・プロダクション・センター)に招かれたのを覚えています。緑の中に立つ白を基調にしたガラス張りの建物はとても印象的でした。まるで最先端の宇宙開発センターのような雰囲気です。
それは生産ラインでもそう。床、壁はすべて白くまるで研究室というか手術室のようです。それだけ清潔さが保たれているのでしょう。精密機械を作るのですからわからなくもありません。フェラーリやベントレー、アストンマーティンやロールス・ロイスの生産ラインを見学したことがありますが、それらとはまったく別と言えます。市販されるロードカーのラインですが、やっていることはレーシングカーの開発と同じですね。
そんなマクラーレンが2023年創業60周年を迎えるということで、先日日本でもちょっとしたイベントが行われました。ホテルのボールルームを使ってコメモラティブなモデルが展示されたのです。対象は我々メディアと顧客でしたが、何しろラインナップがすごかった。中には一生に一度拝めるかどうかというものもあります。
最たるものはM6GTでしょう。マクラーレンロードカーの起源となります。当時のレーシングカーM6AのシャシーをベースにGTカテゴリー(耐久レース)に参戦すべくクーペボディをかぶせました。ですが、当時のレースのレギュレーションが最低50台の生産を必要としたためプロジェクトはストップしてしまいます。
M6GT
とはいえ最高のロードカーをつくるという創業者ブルース・マクラーレンの夢はつづきます。自らそれを設計し、プロトタイプM6GTを日常的に走らせました。目指したのは年産250台の量産モデルです。がしかし、レーシングカーのテスト走行中ブルースが他界するというアクシデントがあり、すべては白紙になりました。展示されたM6GTはその時つくられた4台か5台の中の一台だそうです。いやはやそんな歴史あるクルマが日本で展示されるとは恐れ入ります。
実車を見た印象はまさにレーシングカーでした。ル・マンで走るような。空力をメインに設計されているのを感じます。特徴的なのはドアの開け方で、前ヒンジで跳ね上げるように開きます。まさにスーパーカー。でもって太いサイドシルを乗り越えるようにしてドライバーズシートに滑り込みます。シートはまんま60年代でした。ハンドルはもちろん右です。
アイルトン・セナがステアリングを握ったMP4/4
この他では1988年にF1でコンストラクターズチャンピオンとドライバーズチャンピオンを獲ったマクラーレンホンダのMP4/4、いまだ究極のロードカーと名高いマクラーレンF1、マクラーレン・オートモーティブとして初の市販車となったMP4-12C、アルティメットモデルとしての高性能ハイブリッドスーパーカーアルトゥーラなどが飾られました。言わずもがな、見応え十分です。思わずカメラ小僧のごとく久しぶりに写真を撮りまくりました。
なんて感じで今回はかなりマニアックな話になりましたが、レーシングカーを中心に年月を重ねてきたブランドだけにどうしてもそうなりがちです。中にはマクラーレンGTにように少しライフスタイルに振ったモデルもありますが、おおよそストイックなモデルが顔を連ねます。この分だとSUVは出てこないでしょうね。まぁそこは株主次第で変わる可能性がないこともないですが。
それでもこれまでマクラーレンはいろいろなジャンルのブランドとコラボレーションしてきました。
ピレリやガルフはもちろん、超高級時計のリシャール・ミルや鞄ブランドのトゥミなんかもそうです。その辺は今後もっと発展していってもらいたいですね。アストンマーティンがハケットロンドンとコラボするようにラグジュアリーメンズウェアなんかを期待しちゃいます。やっぱサヴィルローブランドですかね。ギーブス&ホークスやヘンリープール、ハンツマンあたり。商品に対してストイックな姿勢はどこもすごいので、相手に不足はありません。マクラーレンからスーツ姿で降りてきたらちょっとカッコイイと思いません? ロードカーですからね、そんなシーンもきっと似合うことでしょう。
そうそう、近日日本発表予定のマクラーレン750Sなんてのも気になります。みなさんご注目を!
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