ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第二十二回目となる今回は、空前の好決算を叩き出した日本の自動車メーカー各社。そのカラクリと、裏で進む中国市場の深刻な落ち込みについて解説。
本当に大丈夫?? 空前の好決算なんだけど… 日本車が中国に「届かなく」なってきている
※本稿は2023年8月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真・画像/TOYOTA ほか
初出:『ベストカー』2023年9月26日号
■メーカー各社の決算は絶好調 だが中国市場の落ち込みは危険水域に入っている
2023年度第1四半期決算(通期予想)。各社発表資料よりナカニシ自動車産業リサーチ作成
自動車メーカーは2023年度の第一四半期(4~6月期)に空前の好決算を叩き出しています。
トヨタの四半期の営業利益が日本企業として初の1兆円の大台に乗ったことで、多くのメディアの見出しを飾りました。同社の営業利益は前年同期から94%増加した1兆1209億円に達し、年間の計画に対する進捗率は37%となりました。
ホンダの4~6月期営業利益も4000億円に迫り、同率は39%にも達します。マツダを除いて市場の期待値(コンセンサス)を超える決算が続出した結果、完成車7社合計の営業利益は1兆9034億円に達し、四半期として過去最高を更新。営業利益率は8.7%に達し、過去最高の9.0%に肉薄しました。
自動車産業の収益性がこれほどまでに上がっている要因は大きく3点あります。
第1に、コロナ禍の置き土産ともいえる、高効率で好採算な新車販売環境がいまだ強力に残存していることです。
需給がタイト化したことで新車価格は上昇、豊富な受注残とディーラー在庫の高回転率、低インセンティブ(値引き)と広告宣伝費など、1台当たりの儲けは過去最高レベルになっています。
第2に、半導体の供給不足の緩和に伴い車両生産数量が大きく好転し、北米向けを中心に出荷台数が3割前後も増加しました。
第3は、4~6月期平均で1ドル=137円という歴史的な円安です。
例えばトヨタの場合、車両価格の値上げで2650億円、台数増加で2600億円、為替で1150億円の利益が生じ、前年同期の5786億円を1兆1209億円に引き上げる原動力となったわけです。
7~9月期にかけても現在の好環境が急激に変化することはなさそうで、自動車産業はポストコロナの勝ち組産業として国内経済をけん引する見通しです。
課題であった国内における重い受注残と長期納車にも改善の兆しが見えてきました。4~6月期の国内生産台数は前年比30%近く増加、国内販売台数は同20%増加しています。
長く待たされた国内ユーザーにも納車期間が少しずつ短縮され始めました。
値引きをしなくても、出せばすぐに売れるクルマが続出。自動車産業はポストコロナの「勝ち組」になっている
■中国市場の潮流に乗り遅れた日本車
好調な欧・米・日市場に対し、深刻な停滞が見えているのは中国市場となります。
4~6月期の日本車メーカーの中国工場出荷台数は前年比23%減と落ち込み、市場シェアは15%にまで落ち込みました。ピークの2020年が24%であったわけで、近年の凋落は著しいものがあるのです。
トヨタの中国連結子会社の営業利益と、中国合弁企業の持ち分法利益の合計利益は前年4~6月期の1518億円から1079億円へ、約3割の減益となっています。
ホンダの持ち分法利益に含まれる中国合弁会社利益は200億円に落ち込んでおり、好調時には四半期で500億~600億円を稼いでいただけに、半減以下に落ち込んでいます。
日産はもっと厳しく、今回の1Q決算に連結された1~3月期の中国からの比例連結営業利益は収支トントンへ落ち込み、前年同期の340億円から激減しているのです。
中国における日本車の惨状の背景には大きく2つの理由があります。
第1に、日本車が提供してきた低燃費、経済性、高品質という価値が中国ユーザーに届かなくなってきています。
第2に、新エネルギー車(NEVと呼ばれEVとプラグインハイブリッドが含まれる)が中国の主力市場に成長し、激しい価格競争に日本車も飲みこまれているのです。
2020年には132万台に過ぎなかったNEV市場は、2022年に655万台に達しており、2023年は850万台、市場全体の35%を占める公算です。
NEVが提供する電気による走行体験、安い維持コスト、NEVならではのデジタルな提供価値が気に入られ、消費者がNEVを求めています。
■中国での生き残りをかけた戦いへ
独自の発展を続ける中国市場で日本車の存在感は薄まるばかり。NEVとSDVでの挽回を急がなければならない
NEV市場は、まずはテスラが高級車市場の拡大に火をつけ、そこにNIO(蔚来汽車)のような新興企業が大量に生まれました。
低価格帯で50万円からでも購入可能な上汽通用五菱汽車の「宏光MINI EV」が2020年以降、低価格EVの市場を切り拓きました。
それでも10万~20万元(200万~400万円)の価格帯にある大衆車市場はエンジン車の独壇場でしたが、その市場でひとり勝ちしているのがBYDなのです。
現在、多くの中国地場や新興企業がこの大衆車NEV市場に雪崩を打っての参入が続いています。
例えば、BYDのプラグインハイブリッド車の「秦プラス」は10万元を切り、EVの「ドルフィン(海豚)」は12万元を切ります。
ガソリン車のトヨタカローラよりも安く購入でき、10%の購置税(消費税)を免除され、燃費コストは10分の1で済むわけですから、NEVを買わない理由がないのです。
さらに、近年の中国消費者はスマートフォンのような顧客体験を提供できる、ソフトウェアディファインドビークル(SDV)としてNEVを選好する傾向が顕著となっています。また、自動運転機能に対する要求も強まっています。
ポストコロナの大潮流として、中国市場においてはクルマのデジタル化が大衆車市場で急激に進んでおり、日本車に限らずグローバルメーカーはこの潮流に乗り遅れているのです。
世界とまったく違うペースで中国NEVがSDVとして独自の進化を始め、世界の先頭に立って今後も進化を加速させるでしょう。
この結果、グローバルモデルを開発し、それを中国合弁企業に移植するというビジネスモデルは崩壊しました。
グローバルモデルとは別に、日本車メーカーは中国パートナーの技術を用いて中国専用NEV/SDVを開発・現地製造することが求められます。
これができなければ、その先には中国地場メーカーのNEV/SDVが攻め込む東南アジアや新興国での敗戦の連鎖が待っているわけです。
是が非でもそれを避けなければ日本車の未来が封じ込まれてしまいます。中国事業は当面、利益よりも競争力挽回に注力しなければなりません。
●これまでの連載はこちらから!
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
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みんなのコメント
EVはあと10年後でも何ら問題ない
急いで買う必要がどこにもない
今位が丁度よい、いつ不買運動が起こるかも解らない国に力を入れるべきではない。