ベントレーの「コンチネンタルGT」に新しく追加されたスポーツモデル「S」に小川フミオが試乗した。
時流に合わせつつリデザイン
ハーレーダビッドソン最高峰の進化──新型CVOシリーズ試乗記
ベントレーといえばV8……と、思っている自動車好きには、これが最後のチャンスかも。4.0リッターV8搭載の新しいコンチネンタルGT Sは、バランスのいい完成度の高いモデルだけに惜しい。乗るなら今だ!
コンチネンタルGTは、ラグジュアリークーペのデザインにおける金字塔であり続けた。2003年に発表された初代の斬新なスタイルを、2017年登場の現在の3代目にいたるまで、うまく時流に合わせつつリデザインしていた感がある。
ロングフード、ショートデッキ、メッシュグリル、丸形4灯ヘッドランプ、小さなキャビン、独立したようなリヤフェンダーの造型、そして、車輪の大きな存在感、といった要素がうまくまとめられている。
おなじフォルクスワーゲングループにあっても、ランボルギーニやクプラといったブランドのカッティングエッジ的なスタイルとは正反対。保守的なマーケット戦略なのだろうが、結果としては、誰が乗っても満足度の高い仕上がりになっているように思う。
オールドスクール的な、つまり古典的なデザインの要素をふんだんに活かしたのが、1998年にフォルクスワーゲングループに入ってからのベントレーが成功した要因のひとつだろう。
フロント部はボリューム感をもたせ、そこからテールエンドにかけて、すっとすぼまっていくように流れるようなラインで形成されたボディは、コンチネンタルGT Sの最大の魅力だ。
内装も、ウッドとレザーとクロームで構成され、プラスチック感がほとんどない。ウッドパネルには、キラキラと輝くクロームメッキの操作類が各所に並べられている。
丸形の大きなベンチレーションアウトレットの開閉調整がプッシュプル式ノブなのは古典的で、当初このデザインが現在のベントレーモデルに採用されたときは、おもしろいと思ったものだ。
ただし、コンチネンタルGT Sの、ハイテクも駆使した高性能ぶりを考え合わせると、それでもこの組み合わせをおもしろいと思えるか、それともミスマッチととらえるか。微妙な感じはある。
ドライブを飽きさせない設定電子制御サスペンションシステムによるダイナミックライドや、通常は後輪駆動方式によるドライブ感覚を重視し、万が一のときは全輪駆動に切り替わるアクティブAWDなど、見えないところで走りを支えているシステムの数々も特徴だ。
実際にコンチネンタルGT Sは安定感があり、かつしなやかで、それでいて、カーブなどでの気持ちよさは、優れたエンジニアリングが支えているのだろう。404kWの最高出力と770Nmの最大トルクをもち、静止状態から100km/hまで4秒で加速するエンジンパワーを、ドライバーができるだけ楽しめるような設定だ。
戦前から1950年代にかけてベントレーは直列6気筒エンジンを使っていたが、1959年の「S2コンチネンタル」から強力なトルクを持つV8へとスイッチ。主要市場の北米ではV8の市場価値が高いのだ。
コンチネンタルGT Sが搭載する、4.0リッターV8ガソリンツインターボエンジンは、イイ感じだ。770Nmという太いトルクが2000rpmから発生する設定だけあって、高速道路を80km/hで流しているとき、エンジン回転計は1000rpmにとどまっている。
それでいて、V8がイイのは、ごくわずかにアクセルペダルに載せた足に力をこめるだけで、グーッと加速に移っていく。その巨大な力を感じさせるところだ。
エンジン音のチューニングも上手で、やや太め。でもそれでいて品がよい音が、アクセルペダルの開度(踏み込み量)に応じて聞こえてくる。快感である。乗っていて疲労感はなく、加速性や操舵感覚などがドライブを飽きさせない設定なのがうまい。
このあと、ドライブトレインはハイブリッド化される可能性が高い。エンジンもV6になるかもしれない。それが悪いことではないと思うけれど、感覚的には豊かなトルクを持つ純V8エンジンは捨てがたい。
コンチネンタルGT Sの大きな価値は、このエンジンにあるように思う。買うなら今だ。
文・小川フミオ 写真・田村翔 編集・稲垣邦康(GQ)
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