切り札のVTECエンジンが載ったタイプR
近年のモデルは特に、日常的な運転でレブリミットまでエンジンを回す機会は少ない。クルマ好きなら、メカニズムに負担が掛かるということも理解しているだろう。
【画像】アコード、シビック、インテグラ 3台のホンダのタイプR 最新型シビック・タイプRも 全86枚
それでも、8000rpmや9000rpm目がけて回したい衝動に駆られる時がある。明るく輝く炎へ吸い寄せられる虫のように、許されるギリギリの回転数を求めてしまうドライバーも少なくないはず。バルブギアの機械的な響きが、右足を後押ししてくる。
そんな高回転ユニット好きの筆者にとって、今日は特別な日となった。3台のホンダ・タイプRを、グレートブリテン島南部、オックスフォードシャー州の一般道で解き放つことが許されている。
いずれにも、8000rpm以上まで回るホンダの切り札、VTECエンジンが載っている。興奮を抑えることが難しい。
目の前にあるのは、ホワイトのEK9型、初代ホンダ・シビック・タイプRと、ブラックのDC2型、インテグラ・タイプR。さらにもう1台、レッドのCH1型アコード・タイプRにもご登場願った。これは日本のCL1型アコード・ユーロRと、基本的には共通といえる。
英国の日本車ファン、特に1990年代のネオ・クラシック系を好む人は、シャシーやエンジンの型式でクルマを呼ぶことが多い。マニアだとわかってもらえるし、通算で何代目かを数えるよりクルマを理解しやすい。筆者も含めて。
現代の基準では控えめなルックス
最新型のシビック・タイプRには、沢山のエアインテークと大きなリアウイングが与えられている。ホットハッチの代名詞、ゴルフ GTIのテールゲート上にもスポイラーが生えている。
派手なボディキットに見慣れてしまったわれわれにとって、アコード・タイプRの見た目は特におとなしい。ホイールは、スピードライン社の控えめな17インチ。フェンダーアーチとの隙間も広い。
ボディはレッドだが、最近のペイントより彩度は低い。トランクリッドには高いウイングがそびえ、リアバンパーの下で2本のマフラーカッターが鈍く光る。堂々とした雰囲気はあるものの、スポーティさはほどほど。現代の基準では、タイプRらしくない。
インテリアも同様で、アコードに限らずブラックが基調。デザインはベーシックで、殆どがプラスティック然としていて、光沢に高級感はあまりない。少なくとも、作り付けはしっかりしているけれど。
見た目より快適な座り心地のレカロ・シートに、白い盤面のメーター、アルミニウム削り出しのシフトレバーが、ピリッと車内を引き締めている。当時の一般的なアコードと、目立った違いといえばその程度だろう。
しかし、外から見えないシャシーは別物。フロントがダブルウイッシュボーン式、リアがマルチリンク式のサスペンションには、専用のスプリングとダンパー、ブッシュ、アンチロールバーが組まれている。
ブレーキは、オールアルミのスーパーカー、初代NSX譲り。リミテッドスリップ・デフも組んである。
5700rpmを超えると状況は一変する
CH1型の核心となるのが、H22A7という型式を持つ2.2L 16バルブ直列4気筒エンジンだ。2ステージの可変バルブタイミング機構、VTECを採用し、欧州仕様では7200rpmで212psの最高出力を発生する。21.8kg-mの最大トルクも6700rpmと、回転域は高い。
ガソリンは満タン。写真撮影に適した場所へ、きれいなアコード・タイプRを進めることにする。ボディを傷つけることなく、エンジンを回しきりVTECの動作を確かめ、ホンダとドライバーとの一体感を味わう時間だ。
すぐに8000rpmを求めたくなるところだが、筆者は単なる動物ではない。エンジンをウォームアップさせるべく、優しく発進する。普通ならもどかしい数kmになるところだが、CH1型は好印象な質感を伴ってクルージングを始めた。
乗り心地には落ち着きがあり快適。エグゾーストノートも静か。肩透かしに思えるほど、普通のサルーンだ。
しかし、バックミラー越しに赤いウイングが光り、目前にはホワイトの3枚のメーターが並んでいる。ドライバーへ無言で何かを訴えるように。全体が温まったところで、右足に力を込める。
4気筒としては大きめの、2.2L VTECエンジンがアコードを猛然と加速させる。ノイズは低く、こもっている。瞬く間にレブカウンターの針が5700rpmを超えると、そこから状況は一変する。
加速力が1段高まり、エンジンルームから吸気音が響き始める。滑らかにうなり、日本製の量産ユニットにあるような、ぎこちなさは微塵もない。コスワース社が手掛けたBDAユニットのようでもあり、欧州車的といっていい。
この続きは中編にて。
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