ワクチン保冷輸送に抜擢 70ランクル
text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)
【画像】世界をかけるランクル70【最新型300系や歴代と比較】 全69枚
editor:Taro Ueno(上野太朗)
2021年3月、トヨタ自動車から「世界初、ワクチン保冷輸送車のWHO医療機材品質認証を取得」というプレスリリースが発行された。
途上国で、道路インフラが未整備の場所でもワクチンを低い温度に保ちつつきちんと病院や診療所まで輸送するための車両なのだという。
車両自体は新型コロナウイルス用ではなく新生児用ワクチンを想定して開発されたようだが、新型コロナウイルスの輸送手段としての活躍も期待されている。
いま、世界ではワクチンの適切な保冷輸送手段がないために、輸送中の温度変化が原因で新生児用のワクチン供給量の約2割が毎年破棄されている。
それも理由の1つとなって、ワクチンで予防可能な感染症により毎年150万人ほどの子供の命が奪われている現状があるのだ。
今回、世界ではじめてPQS認証(世界保健機関が定める医療機材品質認証のPerformance, Quality, Safety)を取得した車両は車体後半が396L(ワクチンパッケージ400個分)と巨大なワクチン専用の冷蔵庫になっていて、冷蔵庫は独立したバッテリーにより電源なしで約16時間稼働、冷蔵庫のバッテリーは走行中には車両から充電し、駐車中は外部充電から充電可能という。
この車両はトヨタ自動車が車両を、Bメディカル・システム社がワクチン専用冷蔵庫を提供し、車両はアフリカに贈られることになっている。
驚くのは、そのベース車両だ。
走破性の高いランドクルーザーなのだが、なんと78(70系モデル)なのである。
先日公開された最新の「300」でもなく、その前の「200」でもなく、すでに40年弱も作り続けられているクラシックな「ランクル70」というのは意外に感じる人もいるのではないだろうか。
どうして70が選ばれたのか? そしてなぜいまだに古いタイプのランドクルーザーがつくられているのか? 背景には70でなければならない大きな理由があるのだ。
登場36年前 いまだに新車販売続く地域とは?
ランドクルーザー70のデビューは1984年だから、もう36年も前だ。
日本での販売は2004年にいったん終了したが、2014年に復活して1年弱の期間限定で販売された。
なぜ期間限定かといえば、2015年7月からの保安基準に対応できないためだった。
後方から追突された際の、車体下への車両の潜り込みを防ぐルールに適応できないのである。
もちろん後部車体下にガードバーのようなものを装着すれば法規には対応できるが、それを装着するとデパーチャーアングルが犠牲になり悪路走破性が落ちてしまうため「ランクルとしては受け入れられない」として日本販売終了を選んだのである。
期間限定の復活はこれを見越したうえで、「販売できるうちに日本で復活させよう」と企画されたものであった。
一方、海外に目を向けると、ランドクルーザー70はいまだに新車販売が続いている地域がある。
中心となるのは「極地」と呼ばれる、人間が生きていくのに過酷な、先進的な都市の対極ともいえる場所だ。
なぜ、過酷な場所で古いランクルがいまだに必要とされるのか。悪路を走るためだけなら新しいランドクルーザーで統一すればいいではないか?
そう思うのも自然なこと。しかし、その答えは、2つの側面からみると理解しやすい。
走破性だけではない 70でないといけない2つのワケ
1つは価格。
現行モデルとなる200系の日本での販売価格は500万円弱から。
日本でも高額な車両であり、たとえ装備を簡略化した仕様を作ったとしても物価の安い新興国ではさらに割高な車両となってしまい、多くの人には手が届かない。その点、シンプルならランクル70なら最新のランクルより価格が安いから手が届きやすい(中古も含めて)。
もう1つは、信頼性と耐久性、そして整備性へのこだわりである。
世界の頂点に立つほどの悪路走破性の高さから「世界にはランドクルーザーでないと行けない場所がある」といわれ、同時にそんな場所では「ランドクルーザーが止まると命を失う」という人もいる。
人もめったに通らないような極地の道において、クルマの故障はすなわち乗員の死を意味するのだ。
そうならないためにはクルマには信頼性と耐久性が欠かせないのだが、構造がシンプルなランクル70は命を預けるのにうってつけなのである。
構造がシンプルだと、まず故障が少ない。
たとえば期間限定で日本に導入されたランクル70は悪路走行系の電子デバイスを持たないだけでなく、サスペンションも4WDシステムもコンベンショナルな機械式で「走行機能系の電子制御はABSのみ」という潔さだった。
よって電子制御系のトラブルで走れなくなる心配はほぼない。
電気仕掛けがないことで、修理作業に特殊な技術や機器もいらないから、故障しても修理が簡単にできるようになる。
また、完成されたシンプルなメカニズムは寿命だって長い。これは機械として考えたときにとても重要である。
ランクル70には「壊れないし修理しやすく長寿命」という、「現代のクルマ」には真似できないメリットがある。最新のランドクルーザーも含め「ほかに変わるクルマがない」のだ。
だから、いまだに世界各地で活躍しているだけでなく、生産/販売も続いているのである。
70がないと生活できない人のために
トヨタ以外の車両をみると、少し前まで、ランドクルーザー70と同じ役割を担っていたのはランドローバーの「ディフェンダー」だった。
悪路走破性が高いうえに構造がシンプルで、値段も控えめ。たとえばアフリカのサファリツアーの様子などを見ると、使われているクルマがランクル70もしくは旧型ディフェンダーという状況はよくある。
しかしディフェンダーは2019年に70年ぶりの完全新設計として新型へ切り替わり、遡って2013年には従来モデルの生産も終わっている。
新型はシンプルな旧モデルとはまったく異なる今どきのクルマなので、もう極地で使われることはないだろう。
すなわち、本当に質実剛健が求められる場所ではランクル70以外に選択肢がなくなってしまったというのが現状なのだ。
単純に商売を考えれば、高いクルマだけを売ったほうが効率はいいだろう。それはトヨタだって同じだ。
しかし、トヨタのまじめさは「そこにニーズがあるなら、その人たちからクルマを奪いたくない。ランクル70を失うことで困る人を生みたくない」という精神。
世の中には少なくない数の「ランクル70がなければ生活ができない」という人がいて、その人たちに向けた誠意なのだ。
それは「クルマで多くの人を幸せにしたい」というトヨタの願いを具現化したトピックといっていいだろう。
デビューからもうすぐ40年。もはや生きた化石となりつつあるランクル70だが、いまだに作り続ける背景には、そんな事情があるのだ。
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みんなのコメント
例えば燃料ポンプ故障して止まっても古めのMT車なら2速かRに入れてセルモーター回せば移動出来ますし。
例えパンクしても純正サイズのスペアタイヤと工具積んでれば普通に交換して目的地迄行けますしね>