■王者VW「ゴルフ」を超える新型「Mazda3」の実力とは
一足先に、マツダの新世代商品群のトップバッター、新型「マツダ3(現行車の日本名:アクセラ)」にアメリカで乗る機会が得られました。すべてが新たに生まれ変わった「マツダ3」はどんなクルマに仕上がっているのか、筆者(河口まなぶ)が素直に感じたことをレポートします。
マツダが新型「アテンザ ワゴン」を世界初公開! 新エンジンの2.5ターボも採用
試乗会場のホテルから一般道に出る時点ですでに、筆者は直感でこれはかなりの仕上がりだと感じました。そして数分後には、乗り心地の良さと滑らかさが極まった気持ち良い走りで、このクラスの王者フォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」を超えた、と確信に変わったのです。
その走りを詳しく記す前に、まずはマツダ3の成り立ちからみてみましょう。
マツダの世界販売の約1/3を占める基幹車種であるマツダ3は、2018年11月のロサンゼルスオートショーで4代目となる新型へと進化しました。発表の際、ニュースリリースには「マツダ新世代商品の幕開け」と記されていた。つまり今回の新型マツダ3は、マツダの次世代モデルのトップバッターという重要な位置付けにあります。
マツダはこれまでに第2世代の「CX-5」や新型「CX-8」で、デザインや技術の一部ですでに“次世代化”を先取りしましたが、今回の新型マツダ3はすべてにおいて次世代のものを採用したのが特徴です。
新型マツダ3は、次世代車両構造技術「スカイアクティブ・ヴィークルアーキテクチャ」のスモールプラットホームを最初に採用したモデルです。ユニークなのは環状構造のボディ骨格とし、走りのための徹底した基本骨格を実現したほか、新たに減衰ボンドを使って走行時の入力をいなす構造を取り入れ、骨格の段階で高い静粛性や乗り心地を実現する工夫がなされています。
さらに驚きはサスペンション形式で、フロントはマクファーソンストラット式とクラスの標準的な形式だが、リアは従来のマルチリンク式でなく、トーションビーム式を採用。マルチリンク式からトーションビーム式となったことは、ともすればコストダウンとも取れます。
しかし、実際にはこのトーションビームは相当に検討を重ねて開発されており、驚くべきは前述した通り、走らせてみるとこのクラスの頂点を確信させる性能を発揮していることです。
そしてパワーユニットは、ガソリンの1.5リッター/2リッター/2.5リッターの3種類と、ディーゼルの1.8リッターをラインナップ。
これに加えて市販化世界初の革新的な燃焼制御技術で、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンのイイトコ取りな火花点火制御圧縮着火SPCCIを実現した「スカイアクティブX(しかもこれは新たなマイルドハイブリッドであるM Hybridが付加される)」が、2019年のうちに加わる…というのがこれまでの情報でした。
しかしながら、今回最初に試乗した欧州仕様のハッチバックには、2リッターのガソリンエンジンにベルト式ISGを組み合わせたマイルドハイブリッドが搭載されていました。そうなのです、これまで聞いたことのなかった2リッターのM Hybrid。これは欧州専用とのことですが、これにより新型「マツダ3」にはグローバルで計6種類のパワーユニットがラインナップされることになるのです。
■乗り心地は上級のアテンザをも凌駕する
最初に試乗した欧州仕様のハッチバックモデルは、6速MT仕様で18インチのサマータイヤを装着していました。走り出しですぐに乗り心地の良さと滑らかな感触に驚かされましたが、街中を進むと驚きはさらに増しました。
タイヤが転がってクルマが加速すると、まるで路面をならしたかのような滑らかな乗り心地とともに、路面の上を抵抗感なく進んでいきます。その様は何度もいうようですが、このクラスのベンチマークであるVWゴルフ7を超えていますし、上級のアテンザをも凌駕すると判断できるレベルです。
もしや欧州Dセグメントにも並ぶか…いえ、あれらほど重厚ではなく、もっと軽やかで滑らかな独特の感触があるのです。ムリにタイヤを路面へと押し付けず、路面からの入力をしっかり受け止めてボディを揺らさない。単純に乗り心地がよいと表現するより、実に自然で快適な走りが構築され、走りそのものが実に気持ち良く感じるのです。
なぜこれほど気持ちよく感じるのか、開発陣に聞くと「マツダが謳う独自の人間中心の設計思想が今回、しっかりとマツダ3の設計に反映され、コックピットや室内空間が作り込まれているからでしょう」とのこと。
たとえばドライビングポジションは、「骨盤を立てて座る」というマツダの理想の着座姿勢をサポートできるシートの構造や膝裏のチルト調整機構を備え、まず人をしっかり座らせます。シフトの位置もステアリングから持ち替えがしやすい位置へと移動する、といった具合です。
加えてインテリアは、デザイン的にスッキリと美しいマツダならではの世界観で構築されてますが、それは単なる見た目の美しさだけでなく、運転する際に余分なものを視界に入れないという思想も含めた設計。目の前に広がるインテリアに作り手都合による切り欠きやサービスホールはなく、ワイパーすらもフロントウインドーの下に見えないように格納されています。
こうした空間があるからこそ、運転自体がよりいっそう気持ちよく感じられ、驚くほどの走りの良さを感じるのでしょう。
さらに室内の圧倒的な静粛性の高さにも驚かされました。このクラスならば多少は入ってきても仕方がないロードノイズはほぼ皆無で、エンジン等のノイズも聞こえてきません。今回、新たなスカイアクティブヴィークルアーキテクチャでは、遮音性能を高めるためにボディパネルとマットの間にスペースを設けた二重壁構造もマツダで初採用したといいます。
また騒音の発生源を抑え、それを限りなく小さくし、さらに入ってきた音の変化と方向をコントロールする徹底した対策をとることで、単に静かなだけでなく、質の高い静粛性を実現しています。
■なんだこの魔法のようなハンドリング…
パワートレインに目を向けると、搭載される2リッターのM Hybridが興味深いのはスペックです。2リッターにも関わらず、最高出力は122psと一般的な2リッター車に比べると低い数値なのです。
一方、最大トルクは213Nmと2リッターのNAエンジンとしては標準的な数値です。燃費は日本的な数値でいえば約15.8km/L。ただしこのエンジンは欧州仕様にのみ搭載されるものです。
ちなみにこの後、北米仕様のセダンにも試乗しましたが、こちらには2.5リッターのガソリンエンジンに6速ATが組み合わされ搭載されていました。こちらは最高出力が186ps、最大トルクが252Nmとなります。燃費は日本的数値だと約12.8km/Lくらいです。
ここからは走りの印象を述べます。欧州仕様のハッチバックでは街中から高速に入ったあたりまで、M Hybridは好印象。回転は滑らかで音も静か。ベルト式ISGによるモーターのアシストが入るため数値以上に伸びやかで、加速時は単にエンジンの力ではないプラスαを感じます。
試乗車は6速MTでしたが、シフト時の回転落ちによるショックを生まない工夫もされていました。それだけにシャシーの素晴らしさと相まって、実に軽やかなパワーユニットと思えたのです。
しかし、高速に入って加速するためにアクセルを踏み込むと想像以上にレスポンスしませんでした。また加速自体に、純粋に力が足りないと感じました。たとえば100km/hで5速、6速からの再加速ではアクセルを踏んでから加速するまでに、かなり時間を要しました。
そしてこのパワートレーンの悩ましさは、この後に乗る北米仕様のセダンの2.5リッターガソリンエンジン搭載車でも感じました。
とくに最近はガソリンエンジン+モーターを搭載した魅力的なユニットが多いです。たとえばメルセデス・ベンツ「Cクラス」の1.5リッターのBSGや、ホンダ「インサイト」の1.5リッターi-MMDと比べると、マツダ3のパワーユニット自体の魅力は薄いと思えたのです。
しかしながら、今回試した2.0リッターM Hybridと、2.5リッターのガソリンモデルは真打ではありません。まだ本命のスカイアクティブXはこれから登場します。さらに販売面で主役になるであろう1.8リッターディーゼルや、M Hybridなしの2リッターガソリンも未知数です。そう考えると今後のマツダ3の国内試乗で、今回感じた驚くべきシャシーの実力の高さに釣り合う魅力的なパワートレーンを体感できるかどうかが評価の分かれ目になるでしょう。
最後にワインディングを走ると、エンジンの残念さを忘れさせる強烈な仕上がりの良さを感じました。マツダは新型マツダ3のハンドリングを「クルマの存在を意識させないほどの『究極の人馬一体』」と謳っているのですが、まさにそれを感じさせる、魔法のような驚きのコーナリングが実現されていたのです。
通常カーブに対してハンドルを切ると、ノーズが向きを変えロールが生まれる、という一連の動作があります。しかし、マツダ3は一連の動作が極めて連続的な運動になっているので、ハンドルを切った後は、ロールを意識することなく曲がり終えている感覚になります。
しかも目を見張るのは、操舵に対するクルマの反応が、実に穏やかなこと。穏やかといっても動きが遅いわけではなく、素早い操作に対しても反応を返すのに、感触はあくまでも落ち着いた穏やかさを保ち続ける。ここが実に不思議な部分であり、マツダ3はハンドリングの真骨頂といえるでしょう。
それだけにマツダ3の走りは、「楽しい!」というより、「どこまでも気持ち良い!」という表現が相応しいものになっていました。そうしてペースが高まっても、どこまでも気持ち良さが失われない。そしてその気持ち良さはロードスターのそれとはまた明らかに違う種類のものでもありました。
■本命スカイアクティブXはまだだが全体的に「高い完成度」
この後北米仕様のセダンに乗り換えて帰路についたが、オールシーズンタイヤのせいかトレッドが柔らかく路面の動きをボディに伝える。そのため先のハッチバックほどの感動はありませんでした。ただそれでも走りはクラストップといっても差し支えないレベルではあります。
あらためて、新型「マツダ3」の印象をまとめてみると、デザイン、内外装のクオリティ、静粛性と乗り心地、街中と高速での乗り味の良さ、ワインディングでのハンドリングはパーフェクトといえる内容です。そしてもうこの時点でCセグメントの頂点に位置するといえます。
一方でウィークポイントといえば、パワーユニットでしょう。2リッターM Hybridと、2.5リッターガソリンはともに、パワフルさやレスポンスの良さで物足りず、エンジン自体の魅力があるとは言い難いです。さらにマツダコネクトのHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)は新たにゼロから開発されて扱いやすくなりましたが、先進性に関してはやや物足りなさもありました。
たとえばメーター内の液晶がコストの問題からセンター部分だけで速度表示のみと古臭い。最近のライバルの多くは全面液晶を採用しつつあるが、マツダコネクトの液晶パネルはサイズも小さい。
さらに最近は会話方式によるHMIを持つクルマが登場しているだけに、それらに対抗するような機能は欲しいところです。
こんな具合で不満もありましたが、全体として間違いなく驚きの仕上がりだったのは間違いない。それはマツダが今までコツコツと積み上げてきた価値観と世界観が、ついに世界のベンチマークを凌駕しそうなほどに到達した証でもあるのです。
もちろん、まだまだ手放しで絶賛はできませんが、その可能性を存分に見せているから大いに期待したいところ。それにマツダは最近、事あるごとに商品をブラッシュアップして我々に届けてくれている。そう考えると、日本での発表および試乗や、本命スカイアクティブXが組み合わされる時が実に楽しみです。
このクラスの王者であるVWゴルフも間もなくフルモデルチェンジして我々を驚かせることは間違いないですが、マツダ3も今後の成長次第ではゴルフ同様にクラスのベンチマークとして名前が上がる可能性は高いでしょう。それほどまでに「高い完成度」を今回の新型マツダ3からは感じました。
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