もくじ
前編
ー フィアットは苦しんでいた
ー フィアット500、堂々と
ー レトロスペクティブ強迫症
ー ファッションの虜がまた1台
ー 世界最高峰のファンカー
ゴードン・マーレー、「天才デザイナー」と呼ばれるまでの軌跡 新本社を訪問
後編
ー ミニのデザインはおかしい
ー 量ではなく、質をとった
ー 「乗ると、ミニのほうがイイ」
ー で、結局どっちが勝つ?
ミニのデザインはおかしい
いずれも極めて全開で真っ直ぐの。ヘッドランプといいまたボンネット上のビミョーなヘコミといい、あるいはそこからズーッと下がってアロイホイールにいたるまで、スタイリングの仕事の入念さは他車がお手本とするのにふさわしい。
さしものミニのデザインも、ここまで純愛っぽくはない。だから見るとちょっとシラケる。500からパッと目を転じると、突如としてそういう気分になってしまう。
もっと言うと、今度のミニはプロポーションもおかしい。2代目ニュー・ミニは、リデザインの仕事に関してはオミゴトとは言えない。先代はあんなにステキだったのに。BMWはいったいどうしちゃったのか。
胴が長すぎるみたいに見えるし、幅広になったグリル+ヘッドランプの顔つきはぽっちゃりクリーンなフィアットのと比べるとモッコリしすぎている。端的に言って。
もうちょっとあっさりデザインすることはできなかったのか。やりすぎて失敗しちゃった感じ。ま、あくまで僕の個人的な意見にすぎないわけだけど(ちなみにトリノの皆さんもほとんど僕と同意見)。
量ではなく、質をとった
とはいえミニ、キャビンがイイからあなどってはいけない。主に目につきがちな要素を重点的にふくらませるというリデザイン手法を外観同様こちらについても採った結果、例えばスピードメーターは今やそれ自体の重力場を形成することができるくらいまで巨大化した。
その一方で、ほかのスイッチギアはダッシュボード上にある隙間の奥のほうやセンターコンソールへと避難するのが精一杯。スタイル優先型人間工学が行き過ぎちゃったこれは典型的なケースだと思う。マトモじゃない。
でも見た目やフィールはイイ。クオリティは天高くハイレベルで、文字の書体からしてゴージャスそのもの。
フィアットのほうがチープに感じられるのは値段の安さを考えると別に不思議ではないし、それを補ってあまりあるくらいの魅力が新型500のキャビンにはある。
グーッと凝縮したラグジュアリー空間という網を張って待ち受けているのがミニだとしたら、チンクはさしずめ生まれついてのモテモテ君。人気者。頑張っちゃってる感じなしに。
またミニの場合と同じく、こちらにおいても美的センス方面はちゃんと重視されている。例えばレブカウンター内蔵のスピードメーター。パンダ用のと同じヒーターコントロール。
それと、この個体に関してはパステルクリームとブルーのデカい化粧パネル。ミニと比べて、これならかなりいいとこまできている。ほとんど僅差。ソソる度の強さで言ったら、新型トゥインゴその他のBセグメント各車はテンで相手にならない。
乗ると、ミニのほうがイイ。
「乗ると、ミニのほうがイイ」
乗ると、ミニのほうがイイ。駆けっこでも鬼ごっこでもフィアットに勝つ。額面上95ps対100psだからエンジンのパワーでは少しだけ負けているけど、それを実際の速さに変換するにあたってギアのレシオ設定がより適切であることが効いている。
あえて狙ったのか結果としてそうなっちゃったのかは知らないけど、車重たったの930kgということで500のトンあたり出力の値は3ケタ数字のレベルに達している。
でも実際にはこのエンジン、元気というものがロクすっぽない。もっと速いバージョンがもうすぐ出るとはいえガッカリ。中回転域のトルクをもっと強くする方向でパンダ100HP用エンジンのマッピングをやり直したのがこれだと言うけど、だったらフィアットはその過程でナンか間違いをしちゃったに違いない。
少しのスロットル開度で十分速いというのが本来の姿のはずなのに、実際には気がつくとフルスロットルにしちゃっている。それも、ただ交通の流れについてくだけのために。
2速クリープ状態から踏んでググッと力強く加速できない限りどんなクルマでもシティカーとしては失格で、そこのところが500は残念。
で、結局どっちが勝つ?
シティカー合格水準の動力性能は、この2台のうちではミニにしかない。
そうだとしても別にオドロキはないと思うけど、シャシーもミニのほうがイイ。すなわち乗り心地がベターで(ただし今回僕らが借りた500は16インチだったし15インチのほうはもっとイイと言われた)、B級路ではより楽しい。
とはいえ、この分野に関してはフィアットはそれ自体別に悪くない。グッド・イナフよりもっとベター。
でもって、そこのとこは500の成功の鍵になる部分だと思う。なにしろ、内外見た目その他がこうだという時点ですでに文句なし満点の評価をその商品力に関して下されているクルマだから。
言い換えると、商品として世に出た時点で新型500は必修科目満点が確定しちゃっている。そこへ持ってきて、見て乗ってちょっとでも意外にイイところがあったらそれらは全部加点要素。キャラだとかフレーバーだのは。
プロダクトのデキがフツーにOKのレベルでさえあればこれはイケる、勝ちだ、と僕らは確信したものだった。500の最初のプロトタイプを目にしたその瞬間に。
実際のクルマのデキはごくフツーにOKのレベルより上だし、さらに500は路上の皆さんからアツい愛の眼差しを受けまくってもいる。つまり100点+ボーナスつきまくり、ということだ。
ミニ・ワンは、ミニ全体を代表するベストの1台では必ずしもない。乗るとフィアットよりシャープではあるけれど、停まった状態でアピール力を比べたら負ける。その分野において、500は新たなスタンダードを画した。
人民のための純然たる実用車ではないかもしれないけれど、でも万人向けジュエリー自動車ではある。実際に注文殺到でオーダーブックがパンパンになっているのだから、これこそまさに皆さんの欲しかったクルマそのものだと考えていいのだと思う。
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