MotoGP/スーパーバイクレーサーのDNAを継承しながら、まさかここまでフレンドリーな特性が実現できるとは……。2023年から発売が始まるドゥカティ「ディアベルV4」を試乗した私(筆者:中村友彦)は、しみじみそう思いました。このモデルの特徴と言ったら、筆頭に上がるのは現在のクルーザー界では唯一のV4エンジンや、ライバル勢を圧倒する168psの最高出力、強烈な個性を主張する斬新なスタイルなどですが、私にとってはそれらよりも、ドゥカティの最先端技術を気軽に堪能できることが驚きだったのです。
本題に入る前に大前提の話をしておくと、近年のドゥカティは「V4」シリーズに注力していて、その第1弾は2018年にデビューした「パニガーレV4」でした。ただし、それを含む現代のリッタースーパースポーツを心から楽しむためには、相当以上の技量が必要です。おそらく、ドゥカティもそのあたりを考慮しつつ、新規開発したV4エンジンの魅力を幅広い層にアピールすることを念頭に置いて、2020年にネイキッドの「ストリートファイターV4」、そして2021年からはアドベンチャーツアラーの「ムルティストラーダV4」を発売したのでしょう。
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もっとも、ネイキッド仕様になっていても「ストリートファイターV4」はアグレッシブな特性ですし、車高とシートの高さを考えると、「ムルティストラーダV4」は小柄な人には敷居が高いモデルです。でもシートが低くてディメンションが安定志向の「ディアベルV4」なら、既存の3車に馴染めなかった人でも、V4エンジンのフィーリングや多種多様な電子デバイスの効果が堪能できるはずです。
改めて考えると、リッタースーパースポーツ用として開発したエンジン+電子デバイスを、ここまで幅広く展開しているメーカーは、世界で唯一、ドゥカティだけでしょう。と言っても、基本設計の多くを共有する「パニガーレV4」と「ストリートファイターV4」とは異なり、「ムルティストラーダV4」と「ディアベルV4」の場合は、エンジンが多くの専用設計部品を投入したグランツーリスモ仕様で、フレームはモノコックタイプを採用しています(パニガーレV4とストリートファイターは、ツインスパーを独自の理論で進化させたフロントフレーム)。ただし、ルーツがMotoGPレーサーのデスモセディチにあることは「V4」シリーズ全車に共通で、その事実は購買欲をそそる要素になりそうです。
前述したように、世間では「クルーザー」に分類されることが多い「ディアベル」シリーズですが、2011年に登場した初代のコンセプトは「メガモンスター」で(ここで言うモンスターは、ドゥカティのスポーツネイキッドのこと)、ロー&ロング指向の「Xディアベル」を除くと、乗り味はビッグネイキッドに近いフィーリングです。逆に言うならクルーザーという言葉から多くの人が連想しそうな、重ったるさや曲がらなさを感じる場面はほとんどありません。
そしてV2エンジンを搭載していた既存の「ディアベル1260」と比較すると、「ディアベルV4」は運動性能が明らかに向上しているのです。車重が249kgから236kg、キャスター/トレールが27°/120mmから26°/112mm、ホイールベースが1600mmから1593mm、シート高が780mmから790mmになったことで、クルーザー的な雰囲気はさらに薄れ、一方でスポーツライディングは既存の「ディアベル1260」以上に楽しめるようになりました。この変化をどう感じるかは人それぞれですが、ドゥカティ好きなら、運動性能に磨きをかけた「ディアベルV4」の方向性に共感するでしょう。
ちなみに、車重が軽く、キャスター/トレールが少なく、ホイールベースが短く、シートが高いほうが良いのであれば、車重198.5kg/ホイールベース1469mm/キャスター24.5°/トレール100mm/シート高850mmの「パニガーレV4」や、201kg/1488mm/24.5°/100mm/845mmの「ストリートファイターV4」は、もっと良い? という展開になりそうですが、必ずしもそうではありません。
その2機種では緊張感を伴う全開加速やハードブレーキングが、「ディアベルV4」で気軽にできてしまうのは、既存のディアベルより運動性重視でも、十分以上の安定性を確保したディメンションのおかげなのですから。中でも長めのホイールベースと高過ぎないシートは、潜在能力の引き出しやすさに大いに貢献していると思います。
車体に関する話が長くなりましたが、「ディアベルV4」はエンジンに関しても興味深い資質を備えていました。そもそも「パニガーレV4」に端を発する同社のV4エンジンは、高回転域で圧倒的なパワーを発揮する一方で、爆発間隔が変則的な「0→90→290→380→720°」だからでしょうか、低中回転域ではリッタースーパースポーツらしからぬ……と言いたくなる鼓動感を披露してくれたのですが、「ディアベルV4」は常用域がさらに楽しくなっているのです。
その主な原因は、本来は燃費/発熱対策として導入した後方2気筒の休止システムで、既存の「V4」シリーズのアイドリング時のみに対して、「ディアベルV4」は作動領域を4000rpmまでに拡大しています(ただし1速ギアの使用時は除く)。
つまりこの車両のエンジンは、低中回転域では2気筒、高回転域では4気筒のフィーリングが味わえるわけで、4輪が原点の気筒休止システムをそういった形で発展させるのは、近年のMotoGPで斬新なアイデアを次々と導入しているドゥカティならではでしょう。
一昔前の2輪の世界では、V4エンジンと言ったらホンダ、あるいは、ヤマハの「V-MAX」をイメージする人が多かったと思います。もちろんMotoGPの世界では、ホンダ、アプリリア、KTMもV4を採用していますし、アプリリアはドゥカティより先にV4の市販車を手がけていたのですが、今回の試乗を通して、私はドゥカティがV4エンジンを完全にモノにしたことを改めて実感しました。
いずれにしても、ドゥカティがここまでV4の可能性を広げて来るというのは、私にとっては驚きの展開だったのです。
※ ※ ※
ドゥカティ新型「ディアベルV4」の価格(消費税10%込み)は299万9000円からとなっています(カラーによって異なる)。2023年5月よりドゥカティ正規販売店ネットワークにて発売開始となります。
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