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ピュアEV・タイカンが実現した「ポルシェらしさ」とは? 開発者を直撃インタビュー 【Playback GENROQ 2019】

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ピュアEV・タイカンが実現した「ポルシェらしさ」とは? 開発者を直撃インタビュー 【Playback GENROQ 2019】

Porsche Taycan

ポルシェ タイカン

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タイカンが見せる「新たな魂の息吹」

数ある自動車ブランドの中でも、ポルシェは最もバッテリーとモーターの搭載に積極的だった。そんなポルシェから、ついに登場した初のフルEV、タイカン。電気自動車であり、そして世界最高峰のスポーツマシンとして造られたこのクルマには数々の新機構が投入されている。いずれはこのテクノロジーが同社の他モデルにも投入されていくことを考えれば、タイカンはまさに未来のポルシェの姿を表していると言える。タイカンと共に、ポルシェは新時代へと突入するのである。後半では開発者へのインタビューを交えてタイカンを考察したい。

「ミッションEのビジュアルコンセプトを受け継いだ未来的デザイン」

ポルシェが初の純EVとなるコンセプトカーをミッションEという名前で公開したのは、2015年のフランクフルトモーターショーだった。それから4年の年月を経て、ついにミッションEはタイカン(Taycan)という名前で正式に発表された。

ミッションEのビジュアルコンセプトをそのまま受け継いだデザインは未来的であり、それでいて伝統的なポルシェらしさを感じさせるもの。4ドアという点も、現在のプレミアムEVのユーザー層を考えればベストな選択といえるだろう。グレードの名前がターボ、ターボSという、従来のエンジンモデルと同様であることに違和感を覚える人も多いだろうが、これも既存のユーザーを自然に取り込むことを考えた結果であるはずだ。

「ポルシェがタイカンにかける意気込みの強さが伝わってくる」

タイカンのワールドプレミアは、ドイツのベルリン、カナダのナイアガラの滝、そして中国の福州という世界3ヵ所で同時刻に開催された。それぞれ太陽光発電(ベルリン)、水力発電(ナイアガラの滝)、そして風力発電(福州)という、大規模な自然エネルギー発電が行われている場所であり、電気エネルギーを使用するクルマであることを印象づける場所を選んだというわけだ。3つの発表会場すべてにこの発表会のためだけの建物を建てるなど、ポルシェがタイカンにかける意気込みの強さが伝わってくる。

日本を含むアジア圏の取材陣は中国・福州の発表会に出席したのだが、会場を埋め尽くす中国人の熱気には圧倒された。電気自動車を国家的に推進している国であり、そしてポルシェというブランドに対する興味と期待の強さゆえだろう。おそらく、かなりの数のオーダーがすでに中国の富裕層から入っているに違いない。

「タイカンの登場により、ポルシェの電動化は新たなフェーズに入った」

10年に登場した918ハイブリッドから始まり、市販車でのPHVモデルの拡充や919ハイブリッドによるモータースポーツシーンでの活躍など、ポルシェは近年、プレミアムブランドとしては非常に積極的に電動化に取り組んできた。そしてタイカンの登場により、ポルシェの電動化作戦は新たなフェーズに入ったといえるだろう。

ポルシェはタイカンから始まるEVの生産のために、本社ツッフェンハウゼンのファクトリーに22年までに60億ユーロを投資し、ペイントやアッセンブリー、ボディショップなどの工場を新設し、自走式コンベアベルトの導入なども行っている。今後はワゴンボディのタイカン スポーツトゥーリスモなど、さらなるEVモデルの登場も予定されている。

「EVに対してポルシェが本気であることは、まぎれもない事実だ」

まずは年間2万台の生産計画が発表されているタイカンだが、ポルシェが計画しているEVの生産台数はこれを遥かに凌ぐ数字となるはずだ。

ポルシェの今後の成長戦略の中心には、間違いなくEVがある。その戦略がどんな結果になるのかはまだわからないが、EVに対してポルシェが本気であることは、まぎれもない事実だ。それに対して他のプレミアムブランド、スーパースポーツカーブランドがどのような作戦を取ってくるのか。

戦いの火蓋は切って落とされたのである。

タイカン開発責任者・副社長:ゲルノート・デルナー

「エンジン、PHV、そしてEV。ポルシェは3本の柱で展開していきます」

先行開発を担当し、タイカンの開発責任者を務めたデルナー氏によると、タイカンの開発が始まったのは2010年に発売された918スパイダーの頃からだという。

「今はポルシェにとってもクルマ全体にとっても非常に重要な時代です。様々な規制もありますが、それによって技術は進歩する。そういう意味でEVはポルシェにふさわしいシステムだと言えるでしょう。新たにEVが加わり、今後ポルシェはエンジン、PHV、そしてEVの3本の柱で展開していきます」

だが選択肢が増えることでわかりづらくなったり、また顧客の食い合ったりしないのだろうか、という心配もあるが、「それぞれの個性は区別しますし、ひとつのプラットフォームですべてを造るということもやりません。顧客を食い合うということは起きないでしょう」と笑みを見せた。もちろん、ポルシェは今後EVの柱をどんどん太くしていく予定だ。

「まもなくタイカン クロストゥーリスモが登場し、次はマカンにバッテリーを搭載します。マカンは当初はEVと内燃機関の両方を用意し、いずれはEVにシフトしていく予定です」

そしてポルシェファンとして気になるのは、911にいつモーターが積まれるのか、ということではないだろうか。

「911のプランは未定ですが、EV化があるとしても、おそらく最後でしょうね。まずはハイブリッドが第一歩となるのではないでしょうか。内燃機関にもまだまだポテンシャルはありますから。大事なことはポルシェらしいパフォーマンスができるのかどうか。それが可能となったらEV化もありえます」

タイカンも数字上のパワーやトルクよりも、0-200km/h加速を20回も繰り返せることに注目して欲しいという。

「しかも20回目のタイムは1回目のタイムより1秒遅いだけなのです。このパフォーマンスこそ、ポルシェの真髄なのです」

タイカンの生産計画は年間2万台と発表されたが、すでに世界中で3万1000台の予約が入っているという。「2万台は少なすぎましたね」とデルナー氏は笑うが、注目したいのはその半数が今までのポルシェの顧客ではないことだ。新しいユーザーを獲得するという重要な使命も帯びているタイカンだが、その成果は早くも上がっているといえる。

研究開発責任者・執行役員:ミヒャエル・シュタイナー

「EVのサラブレッドを造る。それがポルシェの選択でした」

「歴史的に見て、ポルシェが楽な方法を選ぶことはありませんでした。何がポルシェにふさわしいのか。EVを造るならサラブレッドのEVを造る。それを示すのが重要です」と語るポルシェ執行役員・研究開発責任者のシュタイナー氏。タイカンの特徴である800Vシステムは世界初採用だが、その有効性を認識したのは919ハイブリッドだという。

「919ハイブリッドも800Vシステムを採用しており、我々はそのメリットを知ることができました。そしてそのテクノロジーがタイカンにも活かされたのです」

モータスポーツで得られたノウハウを市販車に活かすというのは昔からポルシェが得意とすることだが、最新のEVでもそれがしっかりと受け継がれていることがわかる。しかしEVはエンジンと比べて走りの個性などが薄まってしまうのではないか、という心配もクルマ好きの間にはある。

「共有するパーツがあるとしても、すべてを共有するわけではありません。ハンドリングやブレーキ、パフォーマンスなどは差別化が可能です。そこにポルシェの経験が活きるのです」

タイカンの開発においても、ポルシェのDNAはどのようなものなのか、といことを社内で議論を重ねたという。

「例えばワンペダルドライブも検討しましたが、ポルシェの走りには2ペダルのほうがふさわしいと考えました。またサーキットでの走りも考えてPSMを完全にOFFにすることも可能です。そうするとすべてをドライバーがコントロールしなくてはいけない。そんなEVはタイカンだけでしょう」

まずは4ドアのタイカンでスタートしたポルシェのEVだが、今後スポーツカーにEVが搭載されていくのも時間の問題だろう、とシュタイナー氏は語る。

「EVは重量や充電などの課題もありますが、技術はどんどんと進化していますからね。本格スポーツカーにEVを搭載するタイミングも、今後検討して決めていくことになるでしょう。ただし、それが911なのかどうかはわかりませんよ」

そしてシュタイナー氏は「でも内燃機関がなくなるわけではありませんから」と付け加えた。エンジンとモーターを駆使してそのクルマにふさわしい最適解を生み出して行く。今後ポルシェはその路線を歩むことになるのだろう。

TEXT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/Porsche AG/GENROQ

※GENROQ 2019年 11月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

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