フルモデルチェンジしたホンダのミニバン「ステップワゴン」が公開された。実車を見た今尾直樹の感想と思いとは? 前編では開発背景やエクステリアについて触れる。
強力なライバルたちに押されていた5代目
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初代ステップワゴンの登場は1996年。とっても明るいテレビCM、♪オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダというビートルズの軽快な曲と「こどもといっしょにどこいこう。」というクレヨンで書いたようなカラフルな文字、そしてシンプルでフレッシュな四角いデザインをご記憶の方も多いことでしょう。
当時の国産ワゴンはエンジンをミドに縦置きするRWDからフロントに横置きするFWDへの移行期で、初代はその先駆け的1台だった。驚くほど広いのに価格は安く、ヒットしないわけがなかった。
あれから四半世紀がすぎ、2015年に登場した現行、もうすぐ先代になる5代目ステップワゴンは、トヨタ「ノア/ヴォクシー」、日産「セレナ」という強力なライバルたちに押されている。
自販連の2021年4~9月の新車販売台数の統計によると、ノア2万578台、ヴォクシー3万1065台、セレナ2万7531台に対して、ステップワゴンは1万6877台。これは半年間の数字なので、年間だと、この差は当然もっと広がる。
ミニバンを求める層とは?
果たして、6代目となる新型ステップワゴンの開発陣はこの劣勢をどうひっくり返すか?
まずは現行モデルの欠点を知らねばならない。調査の結果、ミニバン購入重視点の外観デザインとシート・アレンジで競合車に負けていることがわかった。ここを改善して、ミニバンとしての基本価値を向上させる。
では、ミニバン購入層はどういうデザインを求めているのか?
ホンダの調査によれば、「VIP(高級感)」が12%、「オラオラ(スクエアな)」が30%、「スタイリッシュ」が29%、そして「ナチュラル(クリーン、温かさ、シンプル)」が29%という多数を占めた。
これは全国2000サンプルの調査結果だそうで、ナルホド、トヨタのホームページで2022.1デビューと予告されている新型ノア/ヴォクシーのチラ見せ写真が巨大ロボットを思わせるのは、「オラオラ」、別のいい方をすると、マイルド・ヤンキー需要にストレートに応えているからにちがいない。
せっかくマーケティング調査で、ミニバン購入意向者の意識をつかんだのだから、素直に「オラオラ」に絞るという方法もあったはずなのに、やっぱりホンダというのはチャレンジが好きな会社なのでしょう。
“エア”という秘策
「VIP」「オラオラ」「スタイリッシュ」を好む潜在的ユーザーのひとたちは「従来エアロモデル領域」、「ナチュラル」を選んだひとたちは「新価値兆し領域」と分類し、新価値の兆しでしかないのに、そっちにも可能性を見出して、新たにAIR(エア)というラインを設けた。
「従来エアロモデル領域」は、2代目ステップワゴンのとき、2003年に追加したエアロ仕様のSPADA(スパーダ)に任せる。
これはノーマル仕様をエアと呼び変えただけのようにも思えるけれど、背景に5代目(現行型)でノーマル仕様を“This is(これぞ)ステップワゴン”として開発したのに、実際の販売では、ノーマルはわずか10%、スパーダが90%を占めたことがある。
ノーマルが売れないからいけない。それなら、いっそノーマルは廃止して、シンプル&クリーンなエアと、スタイリッシュ&クオリティのスパーダという、価値観の異なるふたつの“This is”をつくる。そうすれば、顧客の幅を広げられるのではないか。
こう解説を書いている筆者にしても、エアがノーマルだと市場に受け取られたらおなじことでは……と、思っちゃうけれど、価格や装備、営業ノウハウの面で秘策があるのかもしれない。詳細は今春の発売まで、しばしお待ちください。
安心×自由
メイン・ターゲットは、ミニバンだからして、子育て期の30~40代とされている。年収は400~800万円のファミリーだそうで、貧富の差が広がっているとか、少子高齢化で、国内のミニバン市場はてっきり縮小しているかと思いきや、そうではない。2019年は50万台が販売され、そのうちの半分をミドル・クラスが占めているという。ミニバンはSUV並みのマーケットを依然、国内では持っている。
2022年に30歳になるひとは、ステップワゴンが誕生した1996年の時点で4歳である。物心がついたときにはすでにミニバンがあった、ミニバン・ネイティブで、ミニバンは「自分と家族の様々な目的に対応でき、生活をより豊かにできるアイテム」だと思っている。
この世代はテロ(9.11、2001年)や経済恐慌(リーマン・ショック、2008年)、自然災害(東日本大震災、2011年)を経験してきている。だから、欲しいのは“安心と信頼”。
共稼ぎも当たり前で、時間に追われてもいる。それゆえ、わずらわしさから解放されたい、“自由”が欲しい、と思ってもいる。ということで、ターゲット・ユーザーの価値観は“安心×自由”である、と開発陣は想定した。
では、“安心×自由”を求めるターゲット・ユーザーの価値観に、要改善の外観デザインで応えるにはどうすればよいのか?
エクステリア・デザインを担当した花岡久和さんによると、「しっかり守ってくれる塊感」と「グッド・スタンスによる安心感」だと考えたという。
新型ステップワゴン・エアの実物を、筆者は都内某所のスタジオで開かれた事前説明会で拝見した。
ベースになったエアは、主張通り、シンプル&クリーンで清々しい。直立したフロント・ノーズの高さがそのままサイドにまで続くことで、鉄板部分の分厚さを印象づける。幅の広いDピラーがルーフをガッチリ支えている、というのは、たぶんフォルクスワーゲンの初代「ゴルフ」にも通じる手法だろう。
フロント・マスクの造形は「レンジ・ローバー」をちょっと思わせる。全体の四角い印象、フロントのボンネットの切り方、面の構成に共通するものがある。そこで、説明会に出席していた花岡さんに「レンジ・ローバー、好きでしょ」と、唐突に話しかけた。すると、花岡さんは否定せず、「参考にしたのはいっぱいある。レンジ・ローバーもそのひとつ」という意味のことをお答えになった。
なぜなのか? ミニバンなのにタイヤが目立っていて、足腰がしっかり安定している感じがする。花岡さんによると、フロントを絞って、タイヤをしっかり見せるようにしている。これがグッド・スタンスということで、ヨーロッパ車に多い手法だという。
真上から見ると、長方形ではなくて、樽型にすることで、トレッドとホイールベースは先代と変わらない(筆者の推測)のに、SUV用のゴツいタイヤが似合いそうな雰囲気さえがある。
フロント・スクリーンの位置を先代より70mm後ろに下げて、立てていることも好印象を与える。これはドライバーの視界を広くとって、日常の運転をしやすくすることを第一に考えられたものだと説明されている。外観デザインから見ても、室内空間の広さを想像させるし、機能的で価値中立的な「アイテム」っぽい雰囲気、おそらく安心×自由にもつながっていて、エクステリアの担当者にとっても大歓迎だったにちがいない。
問題は空力が悪くなることだけれど、これは風洞実験によって空気の流れを制御する細かい工夫で対応している。フロントのスクリーンの左右の端っこに設けられた小さなプラスチック部品がその代表だ。
後編では室内についてリポートする。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
結果デザイン不評で売れませんでした笑