トヨタがレクサスブランドを北米で開業してから約30年、日本で開業してから約14年が経つ。
開業以来、レクサスディーラーでは、丁寧な接客と「おもてなし」で、トヨタブランドとの差別化を図ってきた。
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さて、時代は平成から令和に変わり、新たな節目を迎えるにあたり、レクサスは本当に成功したと胸を張って言えるのだろうか?
それとも志、道半ばで失敗したのだろうか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部 ベストカーWEB編集部
■日本開業から紆余曲折の14年
2005年8月の開業当時にレクサス高輪ショールームに取材に訪れたが、これまでのトヨタディーラーとはまったく異なる高級感溢れるもので驚いた。営業マンもホテルマンなど異業種からの転職組も多かった
レクサス開業当初にラインアップした、左からGS、LS、IS
ソアラ改めレクサスSCもレクサス日本開業当初にラインアップ
レクサスはトヨタの高級車ブランドだ。1989年に北米で開業して30年、日本では北米での開業から16年後の2005年8月30日から営業、14年を迎えた。
最初に北米で開業した理由は、トヨタを含む日本車が、低燃費で価格も安く、壊れにくいことをセールスポイントにしていたからだ。
これらの特徴が1970年代初頭のオイルショックによるガソリン価格の高騰で歓迎され、日本車は北米で「実用車」として普及した。
そのために日本車は高級なクルマとは相性が悪く、トヨタはレクサスという別のブランドを立ち上げた。
一方、日本国内のトヨタは総合自動車メーカーで、実用車のカローラから高級車のクラウン、VIPモデルのセンチュリー、悪路を走れるランドクルーザー、トラックなどの商用車まで豊富に用意する。
1960年代の中盤には、トヨタは既にこれらの車種をそろえていたから、レクサスは必要はなかった。
■日本開業当初は4車種だけだった
レクサスディーラーといえば「おもてなし」。PCが横にあり、対面形式で営業マンとユーザーが座る商談スペースで、営業マンがまるでコンシェルジュのように話を聞くやりとりは、それまでの日本のディーラーにはなかったもの。心地よく感じたユーザーも多いはずだ
それなのに2005年8月になってレクサスを国内で開業したのは、トヨタの高級セダンの販売が伸び悩む一方、メルセデスベンツやBMWなどの輸入車が売れ行きを伸ばしてきたからだ。
日本の国内販売台数は、1990年がピークの約778万台で、2000年は約596万台に減っていた。比率に換算すると、この10年間で約23%の減少だ。
対するメルセデスベンツの日本国内登録台数は、1990年が3万8985台で、2000年には5万1613台まで増えている。比率にすれば1.3倍に達する。メルセデスベンツは、バブル経済が崩壊した後の1990年代に売れ行きを伸ばした。
そこでプレミアムブランドのメルセデスベンツには、レクサスで対抗しようと考えて、国内でも開業したわけだ。つまり同じレクサスでも、北米などの海外と日本では、開業の目的がまったく違っていた。
日本で売られるレクサスの車種数は、2005年の開業時点では、セダンのISとGS、4代目ソアラをマイナーチェンジしたSCであった。この後、2006年に最上級車種のLSを加えている。
ただし2008~2010年頃のレクサスの国内登録台数は、経済不況のリーマンショックも影響して、2万5000台から3万台にとどまった。
車種別に見ても売れ行き下げている。例えば最終型のセルシオは、2004年頃に1か月平均で800~1000台を登録したが、レクサスの国内開業で海外と同じレクサスLSにフルモデルチェンジされると、2010年の時点で500~600台にとどまる。
売れ行きが伸び悩んだ理由として店舗数の減少も大きい。セルシオは、トヨタ店とトヨペット店の合計約2000店舗が扱ったが、レクサスは全国に170店舗しかない。販売網が10%以下に縮小した。
しかも現時点を含めて、レクサスの出店は都市部に集中している。東京都内には26店舗もあるのに、1県に1店舗しかない地域も多いのだ。
海外はともかく、日本のレクサスは、トヨタの付加的な上級ブランドに位置付けられる。トヨタブランドと同様、全国のどこでも公平なサービスを受けられることにメリットがあるが、実際にはそうなっていない。
レクサスに比べるとメルセデスベンツやBMWは、正規販売店の乏しい地域でも、業販店が発達している。
修理工場などに併設された小さな店舗で、正規販売店から車両を仕入れて売っている。レクサスはトヨタの販売店で売ることは禁止しているから、今でもレクサスを購入しにくい地域が残ってしまう。
2005年に日本で開業したレクサスは、初期段階では、後輪駆動のセダンにこだわっていた。後輪駆動は運転感覚が上質で、スポーティな雰囲気も備わり、プレミアムブランドに相応しいと説明していた。そこでGS、IS、LSをそろえ、SCもクーペではあるが後輪駆動であった。
■レクサスRXの販売はレクサスブランドの限界を示していた
2009年1月から日本で発売されたレクサスRX
ところが前述のように売れ行きが伸び悩むと、取り扱い車種を限定してはいられない。そこで2009年1月にレクサスRXを発売した。
RXは前輪駆動をベースにした上級SUVだから「日本のレクサスは後輪駆動のセダン」というそれまでのコンセプトを覆す車種だった。
また従来の流れでは、日本版のセルシオやアリストを廃止して、フルモデルチェンジされたグローバルモデルのレクサスLSやGSを導入していたが、RXでは対応が異なった。
従来型RXとなる日本版のハリアーを継続販売しながら、新型のレクサスRXも発売した。つまり新旧併売で、レクサスRXと、日本版だったハリアーを分離して独立させたわけだ。
これはレクサスブランドの限界を意味していた。レクサスRXでは売れ行きを伸ばすのが難しく、トヨペット店の要望もあって、2003年に登場した設計の古い2代目ハリアーを残したからだ。その後2013年まで販売され、現行ハリアーに切り替わった。
■車種を拡大し2010年には開業時の1.6倍に売れ行きを延ばした
2009年には前輪駆動セダンのレクサスHS、2011年には同じく前輪駆動で、ハイブリッドのみを搭載するミドルサイズハッチバックのレクサスCTを加えている。
2014年にはRXよりもコンパクトなミドルサイズSUVのNXも登場して、流行に沿った幅広いバリエーション展開になった。
その結果、2010年におけるレクサスの国内販売は約3万5000台、2015年は約4万8000台に増えて、開業直後の2万5000~3万台に比べると、1.6倍以上に売れ行きを伸ばした。
■国内ではメルセデスの販売台数にまだ届いていない
メルセデスベンツの国内ディーラーは高級感こそ感じさせるものの、AクラスやBクラスなどのエントリーモデルの登場もあるのか、レクサスほど「おもてなし」を出しておらず、逆に親しみやすさが感じられる。アウディやBMWの方が敷居が高い感じがする
この後、2017年にLSが現行型にフルモデルチェンジを行い、2018年には前輪駆動セダンのES、コンパクトな前輪駆動SUVのUXも加わった。これらの相乗効果もあり、2018年のレクサスの国内登録台数は約5万5000台になった。
ただしメルセデスベンツの売れ行きには、いまだに届いていない。メルセデスベンツは2018年に、約6万8000台を登録したからだ。BMWも約5万1000台で、レクサスに迫っている。
近年のメルセデスベンツやBMWは、SUVを中心に車種を増やして、セダンだけでなく幅広いカテゴリーで日本の上級車市場を浸食している。
■トヨタと販売会社から見ると「成功」
2018年11月の発売後1カ月で8800台を受注し幸先のいい販売をスタートさせたUXは現在レクサスの稼ぎ頭(2019年1~6月、5087台)
この状況から、日本におけるレクサスの成否を判断すると、2つのとらえ方ができるだろう。
まずトヨタと販売会社にとっては、登録台数でメルセデスベンツに負けているものの、成功していると判断できる。
海外向けに開発した高価格のレクサス車を、ほとんど値引きもせず、1年間に5万台以上も売っているからだ。
店舗のコストなどは高いが、トヨタブランドを含めて日本車全体が低価格化している状況を考えると、レクサスはかなりオイシイ商売だ。
実際、車両販売に伴う1店舗当たりの利益という見方をすると、日本車の販売店ではレクサスが突出して高い。
ちなみに2位はスバルになる。スバルも価格が比較的高い車種が中心で、店舗数は460店舗前後しかない。賢い商売をしているが、レクサスはそれ以上だ。
■ユーザー側から見ると成功したとはいえない
一方、レクサスをユーザーの側から見ると、成功したとはいえない。特に東京都内は26店舗、それ以外の地域には1県に1店舗の地域が多いというサービス格差は、ユーザーに対して不親切でトヨタらしくない。
クルマの商品力も、往年のセルシオはレクサスLSを上まわり、ユーザーの憧れになっていたように思う。アルテッツァもレクサスISより楽しいクルマだった。しかも価格が割安だ。
つまり2005年に日本国内でレクサスが開業してから、クルマ造りは海外指向を強め、販売店も馴染みやすいトヨタ系列から敷居の高いゴールドのロゴ&黒っぽい店舗に変わった。
これがレクサスとユーザーの間に、妙な距離感を生じさせている。もともと日本は「トヨタの国」だから、海外向けの戦略ブランドを持ち込む必要はなかった。
正々堂々と、トヨタブランドの優れた商品力で、メルセデスベンツやBMWに立ち向かうべきだった。ユーザーもそれを期待しているのではないだろうか。
2012年に4代目GS(日本では2代目)で初採用されたスピンドルグリル。これまではトヨタ車と明確なデザインの差はなかったが、スピンドルグリルで差別化を図り、強烈なインパクトを感じさせた。このスピンドルグリルがレクサスを伸張させた要因のひとつかもしれない。またRCやLCなどのラグジュアリークーペの存在も欧州製に肩を並べるプレミアムブランドとして成熟してきた証だ
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