現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 小さなボディに大きなエンジン アストン マーティンV12ヴァンテージ 全身の感覚が覚醒する 前編

ここから本文です

小さなボディに大きなエンジン アストン マーティンV12ヴァンテージ 全身の感覚が覚醒する 前編

掲載 1
小さなボディに大きなエンジン アストン マーティンV12ヴァンテージ 全身の感覚が覚醒する 前編

全身の感覚を目覚めさせる存在

視覚は凸型の好戦的なフロントグリルと、何本ものスリットが切られたカーボンファイバー製ボンネットに奪われる。聴覚は、周囲に充満するV型12気筒エンジンの唸りに圧倒される。

【画像】小さなボディに大きなエンジン アストン マーティンV12ヴァンテージ 現行モデルも 全124枚

2009年に発売されたV12ヴァンテージは、今でも全身の感覚を目覚めさせる存在だ。アストン マーティンの再興、ルネッサンスを一歩前進させた傑作でもある。

堅牢なアルミニウム製プラットフォームへ積まれたエンジンの最高出力は、自然吸気でありながら500psを凌駕。油圧アシストのパワーステアリングと、マニュアルのトランスミッションが組み合わされ、アスファルト上で鮮烈な運転体験を呼び起こした。

21世紀初頭の10年間には、最高のドライバーズカーといえる上級モデルが何台か登場している。997型のポルシェ911やフェラーリ458 イタリア、ロータス・エヴォーラなどが数えられるが、V12ヴァンテージも間違いなくその1台に当てはまる。

DB7の成功を受け継ぐように登場した2004年のDB9と、V12よりひと足先にV8エンジンを載せて2005年に登場したV8ヴァンテージは、ブランドの重要な新世代といえた。1991年以降はフォード傘下にあり、量産体制も整えられていた。

1999年までにジャガーとランドローバー、ボルボも買収していたフォードは、上位ブランドによるプレミア・オートモーティブ・グループ(PAG)を編成。マーキュリーやリンカーンといった従来ブランドともに、ビジネス拡大を狙っていた。

DB9のV12エンジンをヴァンテージに

事業推進のため、ドイツの自動車業界で活躍する有力者も招聘した。BMWで活躍していた、ヴォルフガング・ライツレ氏もその1人。2000年からアストン マーティンを率いたのは、BMWだけでなくポルシェでも能力を発揮したウルリッヒ・ベズ氏だ。

フォードが期待した幅広いモデル展開に応えるため、ベズは新しいアルミニウム製シャシーの開発に着手。多様性に長けた、軽量・高性能なVHプラットフォームを創出する。

グレートブリテン島の中南部、ニューポート・パグネルの工場で2001年から生産されていた初代V12ヴァンキッシュは2007年に終了。その西、ゲイドンに竣工した新しい工場で、交代するようにV8ヴァンテージの生産がスタートした。

だが、ブランドに流れる血は変わっていなかった。DB9の5.9L V型12気筒エンジンを、ひと回り小さいヴァンテージへ押し込もうというアイデアが実を結ぶまで、長い時間は必要なかったようだ。

V8ヴァンテージは、VHプラットフォームをDB9と共有しており、実現は不可能ではなかった。それでも、フロントまわりの構造には大幅に手を加える必要があった。

V12エンジンは、そのまま収まるサイズでもなかった。オイルサンプが15mm削られ、オイルフィルターは右側へ移動されている。

全体的な容姿の違いは限定的

ユニット自体はDB7にも採用されていたもので、ジャガー由来のV8エンジンより約70kg重い。その結果、前後の重量配分は51:49と、V8ヴァンテージと比べると2%フロント側が増えた。

一方で鍛造アルミホイールやカーボンセラミック・ブレーキディスクを採用するなど、軽量化にも抜かりはなかった。最高出力517psに対し、最終的な車重はDB9より30kg軽い1680kgへ収めている。

ダイエットの成果としては限定的なものの、ホイールベースは約140mm短く、全長は約330mm短い。より躍動的な能力が与えられていた。

サスペンションのスプリングはフロントが80%、リアが45%も引き締められ、アーム類などは新設計。V8ヴァンテージ N24と呼ばれるレーシングカーから派生したエアロキットを採用し、空力特性も磨かれた。

テールゲート上のリアウイングは大型化され、240km/hでの走行時に発生するダウンフォースを2倍以上に増加。カーボンファイバー製ボンネットには冷却用のエアアウトレットが4か所に設けられた。

とはいえ、全体的な容姿の違いはさほど大きくない。最高速度305km/hの超高性能なFRクーペだが、知らなければベースのV8ヴァンテージと混同する可能性もあるだろう。

さらにアグレッシブさを増した「S」

このV12ヴァンテージを一層アグレッシブに仕上げたのが「S」。V12エンジンの排気量は5935ccと変わらないが、最高出力を55ps、最大トルクを5.1kg-m増強。7速セミ・オートマティックが組み合わされ、専用のアルミホイールを履いた。

ステアリングレシオはクイックになり、ダンパーはビルシュタイン社のアダプティブ・タイプを採用。特別な配色のフロントグリルとブレーキキャリパー、ドアミラー・カバーがオプションで設定され、従来のV12ヴァンテージとの差別化も可能だった。

今回ご登場願ったブラックのクルマの場合は、鮮烈なイエローに塗り分けられている。通常のV8ヴァンテージの英国価格は8万5000ポンドだったが、V12のSでは13万8000ポンドへ跳ね上がった。最高速度も329km/hへ上昇した。

V12ヴァンテージのインテリアは、最上級の居心地を叶えていた。シルバーのドアを開けば、スムーズでモダンなデザインを包み込む、高品質なレザーの香りが嗅覚を刺激する。

じっくり観察すると、フォード由来のスイッチ類なども嗅ぎ取れるが、雰囲気を乱すほどではない。職人が丁寧に仕立てたレザー張りのダッシュボードと、工芸品のように美しいメーター、形状が煮詰められたバケットシートで車内は支配されている。

伝統的で上品なアストン マーティンではない

ダッシュボード中央の所定位置にキーフォブを差し込みエンジンをスタートさせると、上質なインテリアと相反する音響に包まれる。エグゾーストから、金属的なザラついた轟音が放たれる。

全長4380mmのボディに巨大な多気筒エンジンが搭載されていることは、技術的なことを知らなくても直感でわかるはず。アイドリング時からタダゴトではない。

グレートブリテン島中南部の閑静なウォリックシャー州の一般道を走らせると、V12ヴァンテージは格段にうるさく感じられる。回転数を高めず素早く変速しても、農家の石壁にノイズが反響しまくる。

低めの速度域で優しくブレーキペダルを踏んでも、カーボンセラミック製のブレーキディスクは悲鳴のような甲高い音を立てる。伝統的な、上品なアストン マーティンとはいえないかもしれない。

それでも、魅惑的なスタイリングは視覚的な喜びをもたらす。愛すべき英国車として、この土地でなら快く迎え入れてくれる人も多いはず。

農村の路地を抜け原野が広がり始めたら、心地良いアルミ製シフトレバーを2速に落とす。アクセルペダルは適度に重く、V12エンジンの獰猛なパワーを正確に調整できる。

気温が低めでも、ピレリPゼロ・コルサは見事にグリップする。アスファルトを確かに掴みながら、猛烈に加速していく。そのバランスには唸らされる。

この続きは後編にて。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

992.2こと後期型911を試す【九島辰也】
992.2こと後期型911を試す【九島辰也】
グーネット
親会社ルノーはアルピーヌF1に干渉しすぎ? 元代表の指摘に現職オークス反論「誰が給料を払っているのか忘れてはいけない」
親会社ルノーはアルピーヌF1に干渉しすぎ? 元代表の指摘に現職オークス反論「誰が給料を払っているのか忘れてはいけない」
motorsport.com 日本版
LM corsaがスーパーGT参戦体制を発表。LC500 GTのカラーリングを初披露/大阪オートメッセ2025
LM corsaがスーパーGT参戦体制を発表。LC500 GTのカラーリングを初披露/大阪オートメッセ2025
AUTOSPORT web
アルファロメオ『ジュニア』日本導入も目前に、欧州で2万台超を受注
アルファロメオ『ジュニア』日本導入も目前に、欧州で2万台超を受注
レスポンス
新しいスバル・フォレスターのウィルダネスが出た! 日本でも乗りたいワイルドSUVに注目!──GQ新着カー
新しいスバル・フォレスターのウィルダネスが出た! 日本でも乗りたいワイルドSUVに注目!──GQ新着カー
GQ JAPAN
趣味人歓喜の遊びバンカスタムが7台勢揃い! 日産カスタマイズコレクションのリア充ぶりに瞠目せよ【大阪オートメッセ2025】
趣味人歓喜の遊びバンカスタムが7台勢揃い! 日産カスタマイズコレクションのリア充ぶりに瞠目せよ【大阪オートメッセ2025】
WEB CARTOP
キーワードは「ひと目ぼれ買い!」レトロでカッコかわいい「Cal’s Motor」に今アルパインスタイルが力を入れるワケを大阪オートメッセ2025で聞いてみた
キーワードは「ひと目ぼれ買い!」レトロでカッコかわいい「Cal’s Motor」に今アルパインスタイルが力を入れるワケを大阪オートメッセ2025で聞いてみた
くるまのニュース
関西~中部の高速道路「完全分断」に阿鼻叫喚!?「すでに雪やばい」「明日のイベント何とか行けないかな」夏タイヤで「頑張る」の声も…国交省は「外出自粛」呼びかけ
関西~中部の高速道路「完全分断」に阿鼻叫喚!?「すでに雪やばい」「明日のイベント何とか行けないかな」夏タイヤで「頑張る」の声も…国交省は「外出自粛」呼びかけ
くるまのニュース
30万粒のスワロフスキーで彩った6000万円の「キラキラベンツ」 17年も展示され続けるDADのアイコン的デモカーとは
30万粒のスワロフスキーで彩った6000万円の「キラキラベンツ」 17年も展示され続けるDADのアイコン的デモカーとは
くるまのニュース
クアルタラロの速さはホンモノ? 最大の弱点が改善「過去5年より、この4ヵ月の伸びの方が大きかった」
クアルタラロの速さはホンモノ? 最大の弱点が改善「過去5年より、この4ヵ月の伸びの方が大きかった」
motorsport.com 日本版
渋滞でうっかり停まってしまっても違反! 消防署や警察署などの前にある「停止禁止部分」に停止した反則金は6000円です
渋滞でうっかり停まってしまっても違反! 消防署や警察署などの前にある「停止禁止部分」に停止した反則金は6000円です
Auto Messe Web
ルノー・ジャポン、「カングー」提供のプロバスケ「横浜エクセレンス」ホーム戦にペア50組を招待
ルノー・ジャポン、「カングー」提供のプロバスケ「横浜エクセレンス」ホーム戦にペア50組を招待
日刊自動車新聞
2025年は予選合算タイム方式を「元に戻す」坂東正明GTA代表がトークショーで語る/大阪オートメッセ2025
2025年は予選合算タイム方式を「元に戻す」坂東正明GTA代表がトークショーで語る/大阪オートメッセ2025
AUTOSPORT web
車内電脳ライフをサポートする、ひと工夫の効いた最新ケーブル&パーツを紹介!【特選カーアクセサリー名鑑】
車内電脳ライフをサポートする、ひと工夫の効いた最新ケーブル&パーツを紹介!【特選カーアクセサリー名鑑】
レスポンス
東京モーターショーで度肝を抜かれたVWスーパーカーの公開! もしも市販されていたら……想像せざるを得ない「W12」の完成度
東京モーターショーで度肝を抜かれたVWスーパーカーの公開! もしも市販されていたら……想像せざるを得ない「W12」の完成度
WEB CARTOP
航続距離の更新に挑戦するルノーのEV実験車両「フィランテ レコード 2025」が初公開
航続距離の更新に挑戦するルノーのEV実験車両「フィランテ レコード 2025」が初公開
カー・アンド・ドライバー
最強軽自動車論争で必ず名前が挙がる1台! アルトワークスはいつの時代もバカッ速だった
最強軽自動車論争で必ず名前が挙がる1台! アルトワークスはいつの時代もバカッ速だった
WEB CARTOP
「名神・新名神」今夜から通行止めへ 名阪間の道路“ほぼ全滅” 予告区間を発表
「名神・新名神」今夜から通行止めへ 名阪間の道路“ほぼ全滅” 予告区間を発表
乗りものニュース

みんなのコメント

1件
  • 短くしたぶんアホみたいに幅があるのだから別に小さくはない。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

-万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1080.04450.0万円

中古車を検索
V12ヴァンテージの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

-万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1080.04450.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村