大きな話題を呼んだホンダ初の量産電気自動車「ホンダe」。コンパクトでファニーなデザインに、パワフルな動力性能と近未来のインテリア。ホンダの先進テクノロジーを詰め込んだ意欲作だ。
発売から1年経っていろいろと評価が出ているが、良いのか悪いのか意見が分かれているらしい。そこで、内燃機関搭載車しか自動車(要はガソリン車)とは認めない、頑固頭の元F1メカニックの津川哲夫がまるまる1日走ってみた。はたして電気自動車 ホンダeの評価は?
「ビート対ホンダe」?? 「人馬一体の愉しみ」を巡る異次元バトル6選
文/津川哲夫(元F1メカニック) 写真/舘山ちえ
【画像ギャラリー】かわいいホンダeのディテールを写真でチェック
■新時代の超ハイテクEV自動車
初対面したホンダe、そのスタイルには素直に好感を持った。すべてに角がなく、今様の自動車が持つ鋭く威嚇的な目つきや顔つき、エッジーでシャープなライン、必要以上に大きさを誇示する肩肘の張ったいかつさ……、そういった威圧感を全て排除してしまい、緩く丸みのある形状に癒される。
愛らしさのある緩く丸みのあるデザイン
従来車ならばボディから左右に飛び出るドアミラーも、コンパクトなCCDカメラに置き換えられ、通常のミラーよりも広い視界を明るく確実にドライバーに伝えてくれる。これは天候や明暗にも左右されず、大きな安心感を生む。
コンパクトなCCDカメラのドアミラー
天候や明るさに左右されない視認しやすいサイドミラー映像
ボディは4ドアハッチ、大人4人が無理なく乗れる。実際ホンダeの設計思想に5人乗りはなく、法定4人乗り。それで良いのだ。何故なら“e”の存在は疑う事なくアーバンユース、シティ・ランナバウトなのだから。
インテリアは極めてベーシックで好ましい。もちろんキーレスエントリーでメインスイッチをエンゲージすると、真っ暗な1枚のインパネは突然にインパネ一杯のモニターに変身する。扱いはもちろんタッチパネル、現在では決して珍しくはないが、スマホを扱うようにまさにITコネクト、リンクが可能となる。
すっきりとしたモダンなインテリア
インダッシュパネルはすべてタッチパネル。スマートフォン・タブレットさながらだ
USB給電だけでなく、HDMI、ACコネクタも備えている
ドライブシステムはEVだからもちろんモーターで行う。
モーターからファイナルギアボックスが前方に伸び、ドライブシャフトを介して後輪を駆動する。そうモーターの配置は近年稀なるRR(リヤ・モーター、リヤ駆動)方式だ。ギアケーシングとモーターが後軸後方にマウントされていて、その重量バランスが気になるところだ。
確かにモーターとバッテリー搭載の総重量は、このサイズのマシンとしては1.5t超えと重いのは致し方ないが、コンパクトなモーターは車軸後方とはいえ17インチタイヤのほぼ外径内、タイヤの後端を大きく超えるオーバーハングには至らない。
さらにバッテリーの全てが車室の床下全域に敷き詰められ、フロントのボンネット下には充電、出力等を制御するインバーター/コンバーターやECU(電気制御装置)と油圧ブレーキシステム、さらに給電コンセント…… 等々の電気制御システムの全てが集約され、マウントされている。これらは前後の独立したサブ・フレームそしてバッテリートレーに3分割されボディーシェルを造るモノコック構造車体にマウントされていて、後々の整備性は意外と悪くなさそうだ。
ボンネットの下にはハイテクな電気制御システムの全てが集約されている
充電、出力等を制御するインバーター/コンバーターやECU(電気制御装置)と油圧ブレーキシステムがある
うがった見方をすれば、将来的にハイパフォーマンスモーターや高容量バッテリーへの置き換えの利便性も考えられていそうだ。
バッテリーを中心に後方にモーター、前方にECUの配分は、1.5tの重さをかなりの低位置で前後に分散していて、実際のドライビングでもRRを全く感じさせないニュートラルな走行をしてくれる。
もちろんサーキットやワインディングを攻めるような真似はしていないので、限界点近くの挙動を語ることは出来ないが、それはホンダeの目指すところではないので無意味だろう。
いざ走り出すと今や骨董と化した我がペトロールヘッドに一発膝蹴りを喰らった感であった。
通常のシティーモード走行の走り出しにショックはなく、シームレスなスムーズさと静かさは絶品だ。またアクセルペダルを踏み込むと、踏み込んだなりのリニアな加速を見せ、0-100km/hあたりの加速感は快感さえ覚えるほどだ。加えてスポーツモードにすれば、ステアリングの裏側に隠れているパドルシフト形のスイッチで回生ブレーキを4段階に変更できる。これを駆使するとなかなかのスポーツ感が生まれてくる。
それだけではなく、いわゆる電気自動車的ワンペダルモードを使うと出力と回生ブレーキがアクセルペダルのオン/オフだけで発生し、ブレーキペダル無しでの走行が可能となる。回生ブレーキも3段階に変更でき、本当にワンペダルのオン/オフだけで日常ドライブが可能だ。
ただし、残念ながらワンンペダルドライブは、通常のエンジンカーの運転に慣れきっている筆者にはかなりの違和感があり、理屈は解っていても、慣れるまでには時間がかかりそうだ。
ワンペダルモードやスポーツモード。走りを楽しむドライブモードをワンタッチで切り替えできる
もちろんホンダ・センシングなる多くのセンサーを駆使して高度なドライバーエイドも搭載されていて、自動パーキングも可能。かなりの便利さを実現している。
ホンダeの持つドライバビリティや感性は、筆者的にはかなりの高評価となった。もちろんそこには不満もある事も確かだ。
■街乗りには十分なドライブ性能、しかしネックはバッテリー
最も大きいのはやはりバッテリー容量の問題だ。バッテリー自体の急速充電性の良さも、モータードライブの使い勝手の良さや性能も認めるのだが、絶対容量の少なさは、やはりドライバーのストレスになってしまいそうだ。
どんどん減っていくバッテリーには焦らされる。遠出には向いてないだろう
例えシティーユース、アーバンライフに特化したクルマであろうと、夏のエアコン、冬のヒーター、雨のワイパー、夜間でのライトオンなど使用が重なれば、バッテリーのレベルゲージは見る間にそのパーセンテージを落としてゆく。30分の急速充電で80%充電が可能でも、あっという間に30%を切ってしまえば、即座に給電ステーションを探さなければならない。
そしてインターフェースを司るタッチパネルは使い勝手は良いが、肝心のナビゲーションシステムが不親切だったのは残念。混んだ街なかでの複雑な車線変更やターニングポイントの指示の遅さや解り難さが気になり、市販のナビに負ける印象。ドライバーの生活に根ざしたコネクトの良さを自称するなら、ここはまだまだ開発の余地が残るところだ。
試乗したホンダeを俯瞰して見つめれば、もちろんかなり良くできたEVである。ただし筆者的にはこのホンダeはあくまでもホンダEV戦略のスターティングポイントだと思うのだ。
内燃機関で生まれ内燃機関で築いてきたホンダがその内燃機関に見切りをつけ、あらたなホンダの第一歩として世に送り出した、正に“走る実験室”的な……それがホンダeならば、そのホンダの新たな出発に、筆者は大きな拍手を惜しまない。
TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.
■Honda e Advance主要諸元
新車価格:495万円
発売日:2020年10月30日
型式:ZAA-ZC7
駆動方式:RR
トランスミッション: -
ハンドル:右
動力分類:電気
全長:3895 mm
全幅:1750 mm
全高:1510 mm
前輪サイズ:205/45R17
後輪サイズ:225/45R17
最小回転半径:4.3 m
車両重量:1540 kg
定員:4 人
最高出力 kW[PS]:113[154]
最高トルク N・m[kgf・m]:315[32.1]
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津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などあり。
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