この記事をまとめると
■トランプ氏がアメリカ大統領に就任したらEVへの優遇策は取りやめると表明している
国家元首はクルマ好き!? ロシアもアメリカも北朝鮮も報道から見えるクルマへのこだわり
■BEVは革新的な政策を重んじる民主党の象徴として見られている
■BEVの普及を阻む理由のひとつに「政治」が大きくかかわっている
大統領選の結果でクルマ業界が変わる
国民が直接内閣総理大臣を選ぶことのできない日本から見ると、アメリカの大統領選挙というものをなかなか肌感覚で理解することは難しい。とはいうものの、以前は民主党と共和党の二大政党による「お祭り騒ぎ」といった印象も強かったが、ここ最近はアメリカ国内での国民の分断の象徴のような、ある意味「格闘技」のようなものにすら見える。
今回の大統領選では、トランプ大統領候補に対しては、演説中に暗殺未遂が発生し、バイデン大統領は選挙戦から撤退。副大統領のハリス氏を後継指名するなど、アメリカらしく話題に事欠かないものとなっている。
その大統領選挙で共和党候補のトランプ氏は公約のひとつに、「大統領になったときはいまアメリカで行われているBEV(バッテリー電気自動車)普及優遇策を撤廃する」としている。トランプ候補は選挙で勝利し大統領に就任したその日に「Drill Baby Drill(ドリル・ベイビー・ドリル)」の方針を採用するとしている。
これはおもに原油を差すとされているが、簡単に言えば「掘って、掘って、掘りまくって増産すれば原油価格が下がり物価下落にもつながる」という考え方。そもそもトランプ氏は気候変動など存在しないと過去に発言していたと記憶している。
その真偽は議論されているところもあるが、トランプ氏から見れば、税制優遇(アメリカは補助金ではなく税控除)してまでBEVを普及させる意味はないと考えるのは、自身の考えから見ても当然かもしれない。
仮にトランプ氏が次期大統領に就任し、BEV普及政策を撤廃すれば、世界第2位の新車市場ということもあり、世界に与えるインパクトは大きくなるだろう。カリフォルニア州は現状2035年以降ICE(内燃機関)の新車販売を禁止するとしている。ややムラッ気はあるものの、カリフォルニア州は民主党支持者が多く、圧倒的に強い州だというのは周知の事実。すでに砂漠地帯に巨大なメガソーラー(太陽光発電施設)や風力発電施設を設け、9割以上は自然エネルギー発電で電力を賄っていることと、政策的に脱炭素社会の実現を本格的にめざしており、すでにアメリカ国内でも突出して多くのBEVが街なかを走っている。
しかし、そのカリフォルニア州では大企業の撤退が相次いでいる。最近では、BEVメーカーであるテスラのイーロン・マスク氏が、カリフォルニア州にあるX(旧ツイッター)と宇宙開発事業を行うスペースXの本社をテキサス州へ移転させることを発表した。
マスク氏の動きはともかく、南カリフォルニア在住の事情通によると、「すべての大企業にあてはまるとはいいませんが、カリフォルニア州から撤退する理由のひとつに法人税が高いことがあげられます。テキサス州では企業誘致のために、税制面をはじめ魅力的な企業誘致のための優遇策が充実しているそうです」と話してくれた。
BEVは民主党の象徴のひとつ
ちなみにトヨタもかつてはロサンゼルス市近郊のトーランス市に北米トヨタ(Toyota Motor North America)の本社を置いていたが、すでにテキサス州に移転させている。日産も過去にはロサンゼルス近郊に北米日産(Nissan North America)の本社を構えていたが、テネシー州に移転させている。
日系メーカーの動きについては、「すでに西海岸に本社機能を必ずといっていいほど置く必要がなくなったことも大きいともいわれています。過去には日本で生産した北米市場向け車両の陸揚げ地が西海岸地域であったので、そこに本社機能を置くことはある意味重要でしたが、いまはアメリカ各地に現地生産工場を設けており、現地生産した車両がアメリカ国内での主力商品となっていますから、アメリカ全土をオペレーションすることを考えれば、西海岸地域に本社機能を置くことにこだわる必要もないのです」(事情通)
筆者が聞いた話では、地理的な距離感やアジア系住民も多いこともあり、日本車は西海岸地域でとくに人気が高まっていった。そのようなこともあり、「西海岸系のクルマ」などともいわれることも過去にはあったそうだ。ところが日産がテネシー州に本社機能を移転させると、「西海岸系の会社」というイメージがなくなり、比較的東西両沿岸部や中西部、南部といったこともなく、フラットに見られるようになったと聞いたことがある。
話は少し逸れたが、エネルギー政策などかなり民主党色の強いカリフォルニア州からは、おもにコスト面を考慮して大企業が将来的にはほとんどいなくなるのではないかともいわれている。
そうなれば当然、地元自治体の税収は大幅ダウンすることになる。そして全社員が移転先に引っ越すということもないが、多くの比較的所得に余裕のある人がいなくなることも考えられるので、法人税収以外の税収も減ることにもなりかねない。
もちろんそこはアメリカなので新しいジャンルでの起業などを促していくのだろうが、そのときにはなんらかの税金に関する優遇策がなければ、それすらカリフォルニア州以外に取られてしまうだろう。
こうなってくると、アメリカではBEVは革新的な政策を重んじる民主党の象徴であり、保守的思考の強い共和党にとってはアンチな存在となってしまっているようにも見える。
その将来性や存在意義などが置き去りにされ、政治と密接に関係して翻弄されてしまうBEVということもあり、消費者がその動きに引いてしまうことにもなるだろう。BEV普及に政治の影が大きい、それがいま世界的に販売苦戦傾向が目立つ一因になっているのかもしれない。「政府から過度な補助金が出ており、そのため割安感の高い価格になっているのでは」などと、どうしても色眼鏡で見られてしまい、正当な評価が得られにくい中国メーカーのBEVもその例に漏れないともいえるだろう。
すべてがBEVになる時代がすぐ先に訪れるとは思わないが、BEVの普及を阻む理由のひとつに、「政争の具」のようなものとなってしまっていることも大きいのではないかと考えている。
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みんなのコメント
EVだろうがHVだろうがアメ車優先に決まってるだろ。