ここ数年、日本車は海外向けとの兼ね合いもあり、ボディサイズの大型化が進む一方。では、ユーザーの嗜好が変わったのか? というと、実は売れ筋のサイズと価格は、ここ30年間でほとんど変わっていない。その傾向を裏付けるのが「1年で最も売れた車」の変遷だ。過去約30年間の最も売れた車に、日本のユーザーが求めている車のサイズと価格のヒントが詰まっている!
文:永田恵一
写真:編集部、TOYOTA、Honda
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販売1位は今も昔も5ナンバーが多数
ここ30年間の年間販売台数ランキングを見てみると、ボディサイズが3ナンバー(全長4700mm、全幅1700mm、全高2000mm、排気量2000ccのいずれか1つでも超える車)が1位になったことは少ない。
ここ30年で年間販売台数1位になった車は以下のとおり。
・トヨタ カローラ(1988-2001年)
・初代 ホンダ フィット(2002年)
・トヨタ カローラ(2003-2007年)
・2代目ホンダ フィット(2008年)
・3代目トヨタ プリウス(2009-2012年)
・トヨタ アクア(2013-2015年)
・トヨタプリウス(2016-2017年)
・現行型日産 ノート(2018年1-4月)
3ナンバー車が年間販売台数1位になったのはこの30年間でプリウスの6回である。ここからは、この30年で年間販売台数1位になった車のボディサイズ、価格などを掘り下げてみたい。
4代に渡り150万円程度で買えたカローラ
1987年登場の6代目カローラ。全長4.2m未満のカローラはこの代まで。以降、徐々に全長は長くなったが、150万円程度が中心の価格設定は、この後も変わっていない
●1988年 カローラ(6代目)
【全長4195mm×全幅1655mm×全高1365mm、中心価格帯150万円程度&中心排気量1.5L】
1987年に登場した6代目カローラは、当時のバブル景気も後押し、ミニクラウンを目指したクオリティなどの高さやボディバリエーションに代表される豊富なラインナップなどが評価され、1990年には2010年の3代目プリウスに更新されるまで最多となる30万8台を販売した。
●1991年 カローラ(7代目)
【全長4270mm×全幅1685mm×全高1380mm、中心価格帯150万円程度&中心排気量1.5L】
●1995年 カローラ(8代目)
【全長4285mm×全幅1690mm×全高1385mm、中心価格帯145万円程度&中心排気量1.5L】
●2000年 カローラ(9代目)
【全長4365mm×全幅1695mm×全高1470mm、中心価格帯150万円台&中心排気量1.5L】
フィットのヒットが象徴する2000年代
33年連続首位のカローラを破り、2002年の年間販売台数でトップに立った初代フィット
●2002年 フィット(初代)
【全長3830mm×全幅1675mm×全高1525mm、中心価格帯110万円台&中心排気量1.3L】
2001年に登場したフィットは、コンパクトカーながらセンタータンクレイアウトの採用による広いキャビン、ラゲッジスペース、燃費の良さ、明るい雰囲気の内外装、コンパクトカーの価格に風穴を開けてしまったほどリーズナブルな値付けなど“これ1台で十分!”と断言できる車に求められる各要素をバランス。
当時はもちろん、今考えても「売れない方がおかしい、そりゃ売れるわな」と思うほどの完全無欠に近い車だった。
●2006年 カローラ(10代目)
【全長4410mm×全幅1695mm×全高1460mm、中心価格帯150万円程度&中心排気量1.5L】
2006年フルモデルチェンジの10代目モデルから、セダンには「アクシオ」のサブネームが付いた。
基本的なメカニズムは9代目モデルをほぼ踏襲し、ユーザーの高齢化に対応。初期モデルではアクシオ全グレードにバックモニターが標準装備された。
●2008年 フィット(2代目)
【全長3900mm×全幅1695mm×全高1525mm、中心価格帯120万から130万円&中心排気量1.3L】
2007年のフルモデルチェンジで2代目となったフィットもキープコンセプトながら、すべての性能をさらに向上。
2010年に加わったハイブリッドも6年間のモデルサイクル中盤に、年間販売台数ランキングでベスト3までをキープした2代目フィットの成功を後押しした。
●2009年 プリウス(3代目)
【全長4460mm×全幅1745mm×全高1490mm、中心価格帯220万円程度&排気量1.8L+モーター】
2代目プリウスからキープコンセプトながら、ボディサイズや排気量を1.5Lから1.8Lに拡大した上で、価格はリーマンショック後の不景気にいち早く対応し大幅に値下げ。
さらに景気対策として行われたエコカー減税や古い車からの買い替えの際の新車購入補助金という強烈な追い風も吹き、発売から1年ほどは納期が半年にも及ぶ空前のヒット車となり、ハイブリッドカー普及の大きなきっかけとなった。
「ハイブリッドの小型車」アクアが大ヒット
プリウスが徐々に大型化しつつあったなか、5ナンバーのハイブリッドとして登場したアクアはまさにユーザーの嗜好を反映した1台だった
●2013年 アクア(初代)
【全長3995mm×全幅1695mm×全高1445mm、中心価格帯190万円程度&排気量1.5リッターハイブリッド】
2011年末に登場し、今も現役の初代アクアはヴィッツをベースとしたハイブリッドカー。
3代目プリウスのヒットもあり「ハイブリッドのコンパクトカーが欲しい」という声にぴったりマッチしたこともあり、車自体の出来はともかくとして登場以来7年目となった今でも、年間販売台数ではベスト3をキープする。
●2016年 プリウス(4代目)
【全長4540mm×全幅1760mm×全高1470mm、中心価格帯250万円程度&排気量1.8L+モーター】
4代目プリウスもキープコンセプトながら、3代目モデルの弱点だった基本性能や安全性能を大幅に向上。3代目モデルほどのヒットではないものの、2017年も年間販売台数1位になるなど、十分成功と言える販売実績を残している。
●2018年1-4月 ノート(2代目)
【全長4100mm×全幅1695mm×全高1520mm、中心価格帯200万円程度&中心排気量1.2L+モーター】
2012年登場のノートにスポットライトがあったのは2016年秋にハイブリッドのe-POWERが加わってからである。
電気自動車に近い静かさや爽快な加速、アクセル操作だけで通常の走行なら停止まで可能なワンペダルドライブの新鮮さが注目され、もともと広さには定評のあった車だけに、日産車としては30年ぶりの月間販売台数1位に何度もなるという大ヒットを飛ばした。
今も変わらぬ“適度な”サイズと価格の条件
3代目プリウス。3ナンバー車ではあるが、全幅は1745mmと現在のVWゴルフなどより狭く、“日本で扱いやすいギリギリサイズ”に収まっていた
このように最も売れた車には5ナンバーサイズ、キープコンセプト、価格は200万円までを中心に250万円程度まで(大卒初任給を基準にした物価の移り変わりとも概ね呼応している)、というキーワードがあるように思う。
また、ここ30年の年間販売台数ベスト3を見ても、このキーワードから外れた車はバブル期のクラウンとマークIIを除くと、片手で数えられるくらいしかない。
一般の人が求めている車は、ミニバンのようなボディタイプもあるにせよ、比較的慎ましやかなものであることがよく分かる。
それだけに普通の人が買える上限の車の輸入車への流失を防ぐためにも、コンパクトカーだけでなく、できれば「車は大きくなっても道路は広くなっていない」日本の道路で使いやすい5ナンバーサイズの車が欲しい。
それが無理であれば、3代目プリウスに近い全幅1750mmまでで、世界中の市場に対応できる250万円くらいの質の高い車が、プリウス以外にもぜひ欲しいところだ。
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