デザイン据え置きのホンダ 新型N-ONEで話題。あえて見た目を変えずキープコンセプトでモデルチェンジする新車の狙いとは?
外観を大きく変えないモデルチェンジは、N‐ONEが最初ではなく、これまでも例を見ることができる。同じホンダ車では、軽自動車販売1位を続けるN‐BOXがそうだ。見栄えがほとんど変わらないのに、販売台数1位を持続する人気ぶりは驚異とさえいえる。
ほかにも、スズキの軽SUVのハスラーは、特に写真で見た様子からは外観がまったく変わっていないように思える。しかし実車は造形に立体感が増し、魅力を高めていることを実感させるうまい仕立てだ。
スイフトは、初代のコンパクトSUV風から2代目では標準的な小型2ボックス車へ大きく企画を変更したあと、2代目から3代目はほぼ見た目が同様だった。そののち、現行の4代目ではフロントグリルなどを新しくしている。
日産のSUVであるエクストレイルも、初代から2代目へかけては、多少の変化はあったものの、全体的な印象を維持してのモデルチェンジだった。
トヨタのハイブリッド車(HV)であるプリウスは、初代の小型4ドア3ボックスセダンから2代目へは車体後半がファーストバックの4ドアに外観が替わった。
次の3代目も顔つきなどに変更は受けたが、全体の輪郭は、屋根の中央で盛り上がったあと後ろへなだらかに傾斜していく様子が似ている。現行の4代目も、顔つきは明らかに異なるが、輪郭は2代目からの形に通じている。
程度の差こそあれ、フルモデルチェンジによってまったく新しく開発されたクルマが、前型などの造形を継承する理由はなぜだろう?
文:御堀直嗣/写真:HONDA、SUZUKI、NISSAN
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■外観は機能を示す!? 国産名車は機能美から生まれた
ホンダ N-ONEが外観を変えないのはN360の魅力を継承するという意味合いも込められているはずだ
一番の理由は、あえて変えるほどの新しい造形が思いつかなかったということだろう。だがそれは、開発者やデザイナーの能力が足りないという負の意味ではなく、初代や前型などが、その車種として究極といえる形や、意図を表していたからではないか。
たとえばホンダ N-ONEは、N360のよさを継承する意味が外観に込められたはずだ。そのN360は、当時、国内の軽自動車のなかでFF(前輪駆動)を採用する希少な一台だった。
同じ時代の、スバル360、スズキ フロンテ、マツダ キャロルは後輪駆動でエンジンを客室後ろに搭載するRR(=リアエンジン・リアドライブ)であり、同じ後輪駆動でもダイハツ フェローはFR(=フロントエンジン・リアドライブ)だった。
今日に比べ、FR車が大半を占め、次いでRR車が案外多く、FFは英国のミニあたりから小型車の標準的な価値が認められてきた経緯がある。N360は、いちはやくその手法を採り入れた。そこを外観で表したといえる。
1950~1960年代にかけて次々に国産車が生まれた当時、国内にはまだカーデザイナーと呼ばれるような専門の職業が明確にされておらず、開発者が技術もやれば造形にも関わることが多く、技術を活かした造形、まさに機能美から生まれたのが当時のクルマの姿だといえる。
したがって、N360の特徴的な外観は機能を表しており、N360の次として1971年に誕生するライフも、N360に通じる外観であった。
■究極の機能や性能を実現すると「変えたくても変えられない」!?
現行の4代目で顔つきが変わったスズキ スイフトも、大衆向け小型2ボックスという基本は変わっていない
機能美という言葉を軸に他社の造形もみていくと、スイフトも、2代目から欧州を中心に大衆車として人気を持つ小型2ボックス車の基本といえる姿になり、それを大きく変更する意味はなかったといえる。
たとえば、世界の小型車の規範といわれるフォルクスワーゲンのゴルフも、初代から今日に至るまで、フロントグリルや車体寸法は変わっても、全体の輪郭に差はないといえる。スイフトも、現行の4代目で顔つきは変えたが、小型2ボックス車としての基本は変えていない。
日産 エクストレイルも、道具として使えるSUVという機能を形で表したのが初代であり、2代目もその方向を踏襲した姿だ。四角く見える外観は、室内を有効に利用できる実用性を示し、また悪路に分け入って運転する際に車両感覚をつかみやすくもする。
一方、現行の3代目は、基本的クルマの存在意義は同じだろうが、キャシュカイ(国内ではデュアリス)との共通性をもたらすため合理化が行われたせいか、外観に丸みを帯び、エクストレイルらしさが弱まっただけでなく、車両感覚も把握しにくい外観になった。見栄えを変えたことで、実用性が多少損なわれたといえるだろう。
日産 エクストレイル2代目も初代のコンセプトを踏襲している
プリウスは、世界初の量産HVとして1997年に生まれ、燃費で常に優れた性能を示すことを背負う車種だ。このため、初代では主に動力をガソリンエンジンからハイブリッド化することで燃費性能を2倍に高めることを実現した。
2代目以降では、クルマ全体での効率向上、それによる燃費性能のさらなる改善を進めるため、高速走行時の空気抵抗を少なくする造形が求められたはずだ。それが、2代目以降の輪郭に表れている。
今日、空気の流れはコンピュータシミュレーションで解明できるため、そこで得られた回答は半永久的といえる。しかもそれは世界共通の知見となるので、世界中のクルマの輪郭は似てくることになる。
それでも、2代目から3代目へのモデルチェンジでは、輪郭こそ似ているが、たとえばフロントバンパーの左右両側面は、2代目が丸みを帯びていたのに対し3代目では平面的な造形になった。このほうが気流の剥離が起きにくいという新しい空力性能が発見されたからだ。
変えたくても変えられない、究極の機能や性能を一度形で表現すると、外観がほぼ同じままでのモデルチェンジになりがちだといえるのではないか。
■見栄えの変わらない新車は優れた機能を示す
同じ外観では「新車買った感」に欠けるのは否めない。実際ホンダ N-BOXは対前年比では販売台数を下げている
一方、同じ外観のままでは新車を買った喜びが半減しかねない。外観が大きく変わることが本人の喜びであるのはもちろん、周囲の人からも「新車を買ったのですね?」と声をかけられ、それが嬉しさを倍増しもするだろう。
代わり映えのしない外観のままでは、やがて新車販売の行方も落ちていく懸念がある。実際、好調なホンダ N-BOXも、対前年比では販売台数が下がっている。
また、時代が進むにつれて、技術の内容が変わったり、さらに新たな発見があったりして、機能美が現代とは違ってくる可能性もある。
最もわかりやすい例が、電動化だろう。ことに電気自動車(EV)になれば、エンジン車のようなラジエターグリルはいらなくなる。エンジンルームがなくても、バッテリー/モーター/制御機器などは、床下などに収められる可能性がある。
1886年にドイツのカール・ベンツがガソリンエンジン自動車を発明した当時、乗り物といえば馬車が代表であり、その延長のような姿でクルマは生まれた。そして約15年後にダイムラーが車名をメルセデスと名付ける1900年から、フロントエンジン・リアドライブ(FR)の原型が一つのひな型となる。
それから120年を経た今日、市販されるEVはまだ車体前方にエンジンがある時代と同様の姿をしているが、この先、EVでしか実現できない外観が生まれるかもしれず、それが次世代の機能美を生み出していくのではないか。
クルマの造形は、芸術作品ではない。美しさは求めても、あくまでそれは機能美であるべきだ。それが、工業製品というものである。
前型と同じ造形でのモデルチェンジは、機能も優れていることを示しているといえる。一方で、モノを買うことが喜びの一つであり、買ってよかったといえる性能だけでなく、外観の新鮮さも無視できず、常にそこが開発者たちの悩みどころでもあるだろう。
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