世界累計1500万台を達成した、BMW屈指のプレミアム・スポーツ・セダンが3シリーズだ。そのジャストなサイズ感から日本でも大人気で、BMWにとって日本は世界6大マーケットのひとつとなっている。
そんなBMW3シリーズの待望の新型、究極のスポーツセダンを目指す7代目がいよいよ上陸した(ワゴン版のツーリングは今秋導入予定)。まず販売を開始したのがガソリンターボの330i M SPORT、および、現時点で日本専用車となる!320iである。その事実からも、BMWがいかに日本市場を大切にしているかが分かるというものだ。ちなみに日本市場でのM SPORTの販売比率は55%に達しているという。
BMWがサーキットの走行性能を高めたV型8気筒エンジンの新型「M5 Competition」を発売
ボディーサイズは全長4715(先代比+70mm)×全幅1825(先代比+25mm)×全高1440(M SPORTは-10mmのローダウンサスで1430)mm。ホイールベース2850mm(先代比+40mm)となり、ひと回り大柄に。トレッドも前後43/21mm拡大されている。
パワーユニットは330 i M SPORTに、トルクアップがめざましい2L直4ターボ、258ps、40.8kg-m、330用の出力調整版となる320が184ps、30.6kg-mユニットを搭載。ミッションはいずれも8ATである。
新型の進化は、全長、全幅のゆとり、ロングホイールベースがもたらす流麗なセダンスタイルにとどまらない。走りに効く、ボディー&サスペンションのアルミ化などによる先代比55kgもの軽量化、フロント回り50%増しの剛性、M3と同じ電子制御ディファレンシャルやバリアブルスポーツステアリングの採用など、多岐にわたる。
そして先進安全支援機能に至ってはもはや世界最先端を行くものとなっている。BMWの先進安全支援システム=ADASはイスラエルのモービルアイ社と共同開発したもので、3眼カメラ+各種レーダーを備え、より遠くの危険を検知できるようになったという。さらに新型8シリーズから導入されたパーキングアシタント、10.25インチのディスプレーと、ナビ表示が可能になった12.3インチのフルデジタルメーターで構成されるBMWライブコクピット、BMWコネクティッドドライブ、オペレーターサービス、AIを活用したBMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント(「オーケーBMW」のほか任意に呼びかけを設定可)も随時導入。そうした先進機能のほとんどが全車標準装備というのも新型のハイライトのひとつと言える。
今回試乗したのは330i M SPORTに19インチのBS ランフラットタイヤ(M SPORTの標準は18インチ)、ローダウンサスなどを装着したOP満載のモデルだった。
例によって低くセットされたスポーツシートに着座すれば、BMWライブコクピットの先進感と3シリーズならではのスポーツムードに包まれる。インパネのセンター下段にある、8つの横並びスイッチに、例えばよく使う目的地など割り当てられる機能も便利このうえない。
M SPORT専用のパドルシフト付きマルチファンクションM SPORTレザーステアリングのグリップは極太で、小さな手の人は太すぎると感じるはずだが、手のひらに吸いつくような形状、革の手触りがいい。
走りだしはプレミアム感たっぷりにスムーズで、意外なほど静か。市街地では19インチのランフラットタイヤを感じさせない乗り心地の良さにも驚かされる。
路面の荒れた西湘バイパスを直進する限り、その快適感の印象は変わらない。きつい段差の乗り超えでも、ショックは軽微。ロングホイールベースとボディー剛性の高さのなせる技というしかないだろう。とにかくステアリング、足の動きに無駄がなく、鉄壁のフラット感にただただ感心するばかり。ドライブモードをコンフォートからスポーツに切り替えても、エンジンレスポンスは格段にシャープになるものの、乗り心地そのものは快適なままだったのである・・・。
えっ、330i M SPORTはそんな安楽なセダンなのか?そんなわけはない。静かで快適な室内も、エンジンを4000回転まで回せば、BMWならではのスポーツフィール満点の咆哮を発し、ドライバーの血を騒がせる。258ps、40.8kg-mの強力な動力性能に言葉をはさむ余地はないが、とにかく、どこから踏んでもトルキーでウルトラスムーズ。緊急回避的な急激なレーンチェンジを試みれば、まさにスッと向きを変え、ピタリと収束するゴキゲンかつ安心安全な低重心感覚溢(あふ)れる挙動、マナーにこれまた感動である。
BMW330i SPORTが本領を発揮したのは、急こう配が連続する箱根ターンパイクであった。極太のステアリングはクイックにして極上の操舵フィールを示し、路面に張りついたような(あるいは路面にレールが敷かれたような)コーナリングマナーを見せつける。ヒラリヒラリとした身のこなしは歴代3シリーズの魅力でもあったのだが、その精度が一段と高まった印象だ。コーナーからのアクセルONでの脱出時に見せる、安定感に満ち、バランスの取れた車体姿勢も理想的だと思えた。
エンジンを高回転まで使う場面では、ペダルとバイエルン製エンジンが直結しているかのようなダイレクト感を披露し、走りやすさに直結。パドルシフトを使うまでもなく介入する自動ブリッピングはけっこうジェントルで、それがまた大人っぽくていい。
短距離ながら市街地、高速道路、急勾配の山道をけっこうなペースで走った際の実燃費にも驚かされた。音声認識で「燃費を教えて」としゃべりかけたときのBMWの答えは10.0km/L。高性能スポーツセダンを気持ちよく走られた燃費としては文句なしと断言できる。
ところで、全車標準のACCなどドライビング・アシスト・プロフェッショナル機能に含まれるステアリング&レーンコントロールアシストの作動もなかなかだ。車線中央をキープしてくれる機能だが、それにステアリングアシストが加わり、例えば白線がS字になっている場所で真っすぐ走ろうとすると、白線内を走行すべく、かなりの力でステアリングを引き戻してくれたのだ。最先端の3眼カメラ+レーダーなどによるワンタッチで作動するACC、ブラインドスポットモニターなどと合わせ、極めて自動運転に近い機能、制御が絶大なる安全、安心につながるのは明白だろう。
そうそう、最後に触れたいのが、全幅が1825mmになって、狭い道のすれ違いや、万一のバックが心配・・・というユーザーへの朗報だ!? 新型3シリーズにはリバースアシストという機能が標準装備され、対向車とすれ違えないような場面で、直近50mの走行軌跡がメモリーされていて、リバースアシストスイッチを押すことで、自動かつ安全にバックしてくれるのだ(自動運転である)。オペレーターサービスやモニター類の充実度を含め、奥さまの了解を得るのにうってつけの殺し文句(の機能)にもなりそうだ。
価格はBMW330i M SPORTが632万円(試乗車のOPは含まれない)。現時点で購入できるもっともリーズナブルな320i SEは452万円。そのM SPORTが583万円となる。進化の内容のすごさ、最先端の先進安全支援システムの充実度からすれば、買い得感が極めて高いと思えたのも本当だ。今年の輸入ガソリンエンジン搭載車、スポーツセダンの目玉になることは確実だと思える。
BMW3シリーズ
https://bmw-3.jp/
文/青山尚暉
モータージャーナリスト。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動車専門誌の編集を経て、現在、モータージャーナリスト、愛犬との快適安心なカーライフを提案するドッグライフプロデューサーのふたつの肩書を持つ。小学館PETomorrowでも「わんこと行くクルマ旅」を連載中。最新刊に「愛犬と乗るクルマ」がある。
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