ホンダ ゴールドウイングはこれまで、個人的には「苦手だなぁ」と、思う車種だった。ともすれば4輪にも匹敵するのではないか、と思えるほどの車格と装備がその理由だ。
フロントまわりのカウルと風防はライダーの全身を覆うほどに張り出し、リアにある大容量のトランクも圧倒的な存在感を放つ。これ見よがしに並ぶ大量の操作ボタン類に、ラジオや音楽が流れる大口径のスピーカーグリル、重役室のソファみたいな豪華なクッション……。とにかく押し出しの強さは群を抜いている。
今、小さいクルマが面白い!──GQ CAR'S アクセスランキング 2018年8月
一般的な大型バイクにつきものの真夏のエンジン熱、あるいは真冬の凍える走行風とは無縁のゴールドウイングに対し、熱や寒さと常に向き合いながらバイクに乗っていた当時の筆者は、ゴールドウイングを“バイク”と呼んでいいのか、と反発する気持ちが少なからずあった。
しかし、「苦手」な気持ちの奥に「憧れ」の感情が入っていたことも否定しない。ゴールドウイングにまたがった初老の夫婦が、タンデムで颯爽と走り去るのを見かけるたび、なぜか自然と目で追っていた。バイクらしくないバイクに、いつか乗ってみたいという思いもあったのだ。
そんなゴールドウイングに、あらためて乗る機会を得た。試乗したのはフルモデルチェンジした2018年型だ。新型は、周囲を威圧するようなかつての豪華さは抑えて、少しスリムになっていた。
いざ新型を間近で見て、触れて、走らせてみると、“バイクらしくないバイク”、という固定概念はあっさり裏切られてしまった。
新しいゴールドウイングは3モデルをラインナップする。6速マニュアルでトランク類を装備しないGold Wingと、トランク類を装備するGold Wing Tour、そして今回試乗したDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を採用するGold Wing Tour Dual Clutch Transmission〈AIRBAG〉だ。DCTは、走行中にシフト操作を一切必要としない、ホンダバイク独自のオートマチックトランスミッションの一種だ。
それに組み合わせるパワーユニットは、ゴールドウイング伝統の水平対向6気筒である。400kg近い超重量級の車体を軽々と走らせる最大トルク170Nmを発揮する1833ccエンジンは、旧モデルに対し最高出力が引き上げられ、126psとなった。向上した動力性能に対応するべく、フロントブレーキには新たにラジアルマウントキャリパーを採用した。これにより、コントロール性とブレーキング力を高めたとうたう。
ボディは、直線を多用したシャープなデザインとなった。従来モデルにあった、幅広のフロントまわりからくるどっしり感、そして鈍重さは解消された。なお、今回試乗したDCT採用モデルは、従来モデルに対し車幅が数10ミリ絞られ、反対に車高は高まっている。“細身”になったことで、格段にバイクらしい面構えになったと感じる。
全長も若干縮まったものの、リアトランクとサイドバッグの合計容量は110リッターを確保する。リアトランクにはフルフェイスヘルメットが2個収納でき、フロント周りにも小物入れを用意するため、ロングツーリングでの実用性の高さは群を抜く。グリップヒーターや走行風を導入するダクト、クルーズコントロール、エアバッグといった多種多様な快適装備、安全装備を引き続き搭載するのも特徴だ。
新型ではさらに、メーターパネル内のディスプレイにiPhoneの画面を映し出す「Apple CarPlay」にも対応した。いまだ決定版的なバイク用ナビゲーションシステムが存在せず、スマートフォンをハンドルまわりに後付けし、ナビ代わりにするライダーが多いなか、このビルトインディスプレイは視認性に優れかつ使い勝手も良好なだけに、ほかへの普及も望みたい。ただ、ゴールドウイングの場合、Androidスマートフォンユーザー向けの車載モード「Android Auto」に対応していないのは残念ではある。
さっそく試乗するため駐輪場からゴールドウイングを引っ張り出す。低重心設計のせいか、その車重にもかかわらず思いのほか苦労せず取りまわせる。しかも、若干傾斜している場所に駐輪するときはパーキングブレーキで確実に停車でき、入庫・出庫時にはDCTが備えるリバース機構によって微速後退と微速前進が行える(6速MTモデルは電動バックギアを備える)。ほかの大型ツアラーより、低速域のシチュエーションは扱いやすい。
ハンドル右のスイッチボックスにあるボタンでニュートラルからドライブに入れ、アクセルをわずかにひねって発進すれば、その有り余るトルクで前へ前へと車体を押し出してくれる。ゴールドウイングのDCTは7速だ。6速MTと比べて1速から4速までのギア比が接近していることもあり、変速時のショックはほとんど感じられず、CVTのように驚くほど滑らかに加速する。
いわゆるオートマながら、スクーターの遠心クラッチとは明らかにフィーリングは異なる。アクセルレスポンスの鋭さは通常のマニュアルトランスミッションと同じ。渋滞路などで極低速で進む際、遠心クラッチのようにアクセルオフで突然トルクを失ってバランスを崩したりすることもない。見えない左手が見えないクラッチレバーを賢く操作してくれているような、そんな不思議な感覚だ。
さらに不思議なことに、乗り初めは大柄だと思っていた車体が、下道で少し走らせるうちに「これが普通だろう」と思えてきたのだ。目の前には身体の前面をすっぽりと覆い、風を通さない大型カウルがそびえ、中央には大型カラーディスプレイ、その手前には画面操作用のダイヤルやボタンの数々が並ぶものの、それらが視界を必要以上に遮らないため、狭い場所でも不安なく、かつ軽快に操れるのが「普通」と感じた要因だ。
ゴールドウイングが本領を発揮する高速道路では、安定性と直進性の高さが際立つ。横風の強いレインボーブリッジを走行したときも、車体は極めて安定したまま直進する。並みの大型バイクなら、風圧の影響でわずかに速度が低下しそうな場面でも、ゴールドウイングはアクセル調整するまでもなく一定速度で突き進む。7速巡航時は、低くうなる排気音が身体に響き、静かすぎず、耳障りにもならない適度なサウンドで快適さを損なわない。
ローシートで、やや尾てい骨側に体重を預けやすくなるスクーターに近いライディングポジションも、通常であれば長時間座り続けるのは苦痛なはずであるが、沈み込みすぎないコシのあるシートにくわえ、風圧に人間が耐える必要のないカウル・スクリーンのおかげで、同じ姿勢で乗り続けても苦にならないのがうれしい。
「スポーツ」、「ツアー」、「エコノ」、「レイン」4つのライディングモードを切り替えることで、走りの性格を変えることもできる。のんびり巡航したいときは「ツアー」や「エコノ」で、力強い加速を楽しみたければ「スポーツ」といった具合だ。
ヘルメットの中で滝の汗が流れるほど、猛暑日の試乗だったにもかかわらず、ゴールドウイングにいつまでも乗っていたいと思った。進化した車体設計や多くの快適装備は、ロングツーリングを一段と楽に、そして面白くし、街乗りでの扱いやすさにもつながっている。完成度の高いDCTや前述のライディングモードも手伝って、走りの自在さはこれ以上なくバイクらしかった。
もしかすると、筆者と同じように、その押し出しの強さからゴールドウイングに対し苦手意識を持っている向きも多いかもしれない。しかし、かつての面影は、新しいゴールドウイングにはあまりない。代わりにあるのは、フラッグシップとしての洗練された優雅さとスポーティさだ。
いつかまたどこかで、この洗練された新型ゴールドウイングを見かけるたび、これからは筆者のなかで「憧れ」が募っていくだろう。走り去るその姿を目で追いかけながら。
衣装協力:岡田商事株式会社 Alpinestars http://www.okada-corp.com/
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