軽自動車からスーパーカーまであらゆるクルマを所有し、クルマ趣味を追求し続ける自動車ジャーナリスト西川淳氏がスタートさせたチャレンジ企画。タイトル通り、無茶、無謀と思われる究極のクルマ遊びを考案し、それを実践。クルマ好きの、クルマ好きのための冒険連載。今回は世界最速の称号を手に入れた、日本人チューナー製作のフェアレディZを公道で試す!
“ボンネヴィル・ソルト・フラッツ”で時速400km/hオーバーを記録
“ボンネヴィル”という単語を聞いて、皆さんは何を思い出すだろうか。トライアンフのバイクかも知れないし、ポンティアックのクルマかも知れない。ベンジャミン・ボンネヴィルを思い出した方は相当なアメリカ史通だ。
いずれにしてもボンネヴィルとはアメリカはユタ州の地名で、バイクやクルマの名前にその名が流用されたわけは、かの地で世界最大級、否、最速級のスピードトライアル競技が開催されてきたから、だった。この地名には勇ましいイメージが備わっているというわけだ。なるほどボンネヴィルでの最高速競技の歴史は古く、なんと1912年から行なわれているという。
かの地には“ボンネヴィル・ソルト・フラッツ”と呼ばれる大平原がある。そこがトライアルの舞台だ。その名のとおり、見渡す限り白くフラットな場所で、その昔の塩湖が干上がって平原となった。近くにはかのグレート・ソルト・レイクがある。ソルト・フラッツの広さ、百平方マイルというから2.6万ヘクタール、東京ドームであえて喩えれば約5500個分(!)。
いくつかの大会が開かれているようだが、最も大きな大会が8月に開催される“スピード・ウィーク”で、最近では2018年にカワサキのニンジャH2が時速337km/hを達成し、世界最速のロードバイクとなったことで話題となった。
前置きが長くなってしまったけれど、今回の“自動車趣味、究極のチャレンジ”のお相手は、そんな“ボンネヴィル・ソルト・フラッツ”において90年代に時速400km/hオーバーを記録し、世界最速の称号を手に入れた日本人チューナー製作のフェアレディZである。題して、「世界最速のフェアレディZを公道で試す!」だ。
Rei.Hashimotoメカニカル・エンジニアリングの極致、1000馬力の“ソルト・フラッツ仕様”
物語は80年代後半にまで遡る。その昔、東名や第三京浜で最速のしのぎを削ったスピードの申し子たちは、主戦場をアンダーグラウンドから谷田部のテストコースに変えていた。有名メディアのバックアップを得て、ショップの名前を背負った“最高速”という技術的チャレンジを“合法的”に続けていたのだ。
日々塗り替えられていく最高速記録。そのたびに新たなヒーローが誕生し、有名ブランドが生まれていった。電子制御といったコンピューター技術が今ほどモノを言わなかった当時、最高速チャレンジは純粋にメカニカル・エンジニアリングの極致となりえた。ときにその速度域は自動車メーカーのそれをも凌駕する域にまで達していた。それゆえ達成された数字はそのまま、そのショップの技術力として格好の宣伝材料となったのだった。
内燃機関のプロフェッショナルである田中工業の実践的開発部門であったJUNオートメカニックも、最高速トライアラーとしてその名を世界に知らしめた専門ショップのひとつだった。伝説のエンジニアであるJUNオートメカニックの小山進氏は谷田部での最高速チャレンジに飽き足らず、ボンネヴィルのスピードトライアルに挑戦することを決めた。当時すでに彼らの主戦領域は時速320km/hをはるかに超えており、その領域を継続してテストすることが日本の環境では不可能になりつつあったからだ。
最初の挑戦は90年だった。フェアレディZベースの最高速仕様は実績あるストリートチューンの発展系で、すでに700馬力を絞り出していた。記録は228.302mph。およそ370km/hだった。
翌91年にも再チャレンジ。前年のマシンをベースに経験を生かしたチューンナップを施した結果、エアロダイナミクスは完全にソルト・フラッツ仕様となり、エンジンの最高出力はなんと1000馬力に達していた。
8月18日から始まったスピード・ウィーク。エントリー名“ブリッツJUNオートZ”は最終日の23日金曜日、ついにクラス(E/BMS)世界最高となる260.859mphを達する。実に420km/hというから、現代のブガッティでも真っ青な最高速度記録であった。
PROFILE
西川淳
軽自動車からスーパーカーまであらゆるクルマを愛し、クルマ趣味を追求し続ける自動車ジャーナリスト。現在は京都に本拠を移し活動中。
文・西川 淳 写真・橋本玲 編集・iconic
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みんなのコメント
デチューンして、公道仕様で
330km/h overって噂だった。
もう、20年くらい前のことだけど。
ライトあんな事やってるから
FCに見えたぜ