BMWジャパンは2021年1月末、オンライン発表会にて、BMW初のフル電動SUVのiX3、スペシャリティSUVのiX、4ドアクーペのi4という3台のEVを2021年に発売すると予告し、日本でも電動化戦略を強化していく姿勢を強く示した。
その一方で、2021年に発表した新型車第一弾は、エコカーとは対極にあるMハイパフォーマンスモデル、M3/M4であった。このギャップには、戸惑いを感じる人もいるかもしれないが、実にBMWらしさに溢れた前向きな戦略とも解釈できる。
コロナ禍時代 触れずに操作できるクルマのジェスチャー機能はどこまで進む?
クルマ好きにとってBMWは「駆け抜ける歓び」という企業スローガンの通り、走りを期待する人が多い。そこで、BMWが進めている電動化は今後、どんなものになるのか、迫ってみたい。
文/大音安弘、写真/BMW
【画像ギャラリー】充実しつつあるBMWのEVラインナップ
■電動車へシフトが進むBMW
2020年のBMWグループ(MINIを含む)のエレクトリックヴィークルのモデルラインナップ
コロナ過による世界的な新車販売の減少を受けた2020年は、BMWグループ全体で前年比-8.4%となる232万4809台に留まった。ただ第4四半期販売台数は、前年比+3.2%の伸びを見せており、世界的に販売が巻き返したことで、痛手を最小限に留めたことが分かる。
そのなかで大きな影響力をみせたのが、電動車(※EVおよびPHEVを指す)の存在だ。欧州でのCO2規制の強化を受けたモデルラインの拡大に加え、各国政府によるエコカー補助金による後押しもあり、販売を伸ばしている。
2020年、世界で販売されたBMWとMINIの電動車の総数は、前年比+31.8%の19万2646台にも上った。販売全体からみれば、わずか約8.3%に過ぎない。
しかし、仕様別で見ると、BEV(Battery Electric Vehicle=純電気自動車)は+13%、PHEVが+38.9%と、BMWユーザーの生活のなかに、電動車がより積極的に取り入れ始めていることが感じられる。欧州販売では、全体の15%が電動車へとシフトしているという。
ちなみに、BMWでは非充電の48Vマイルドハイブリッド仕様は、電動車のなかに含めていない。もちろん、CO2削減のために、搭載モデル自体は拡大傾向にある。
■電動車は現在の13モデルから2023年までに25車種まで拡大
2020年に行ったプレゼンテーション「#NEXTGen 2020」では、電動化を含む未来のモビリティにおいて、BMWが主導的役割を果たすという目標を掲げている
現時点の電動車のラインナップは13モデルに過ぎないが、2023年までにほぼ2倍となる25車種まで拡大。そのうち半数をBEVと明言している。そのため、日本でもBEVの拡大はマストだ。
その反面、好調な伸びをみせたのが、Mモデルなのだ。全世界で昨年の+6%となる14万4218台を記録。世界的には、XシリーズのMハイパフォーマンスモデルとMパフォーマンスの新型「X6 M50i」が販売に大きく貢献。
その流れは、日本市場も同様で、前年比+7.7%の成長をみせた。ただ日本市場では、「M8」シリーズや「M235iグランクーペ」の貢献が大きかったとのこと。
つまり、全体的な販売が落ち込んだ状況でも、電動車とハイパフォーマンスカーは成長をみせたのだ。コロナ過でのハイパフォーマンスカー人気の背景には、富裕層の生活の変化にあるのだろう。
これまでブランドファッションや贅沢な旅行などのアクティブな志向に使われていた資金が、クルマに流れたと思われるからだ。それを裏付けるように、日本でもフェラーリが+24.7%、ロータスが+35.5%と成長。販売台数自体は多くはないものの、販売台数を伸ばしている。
また2輪車であるBMWモトラッドは、前年比+11.1%増の5007台を販売。輸入オートバイ全体も前年比+2.3%となる好調ぶり。
しかもオートバイは、ハーレーダビッドソンやドカティ、モトグッチなどのメジャーどころの販売が少し落ち込んだのに対して、トライアンフやハスクバーナーなどの通好みなブランドは+20%を超える伸びを見せているのも興味深いところだ。
つまり、お金を使える人たちの志向が、より拘りの強いもの、価値あるものに向いたともいえるわけだ。これは、経済的に厳しい状況にあっても高付加価値のものは、大きく販売が落ちないこととも解釈できる。
■2013年に登場したEVに特化したiブランドを強化
BMW iの第一弾モデル「i3」。現在は新型のバッテリーを搭載して、新燃料消費率基準であるWLTCモードで360km、さらにレンジ・エクステンダー装備車では466kmを達成
BMWの電動車戦略も同様で、普及促進という色合いよりも、新たな高付加なクルマとして売り込んだという流れがある。その象徴が電動ブランド「BMW i」の存在だ。
2013年に発表されたBMW iの第一弾モデル「i3」は、実用性も意識したEVであったが、RR駆動とカーボンファイバーモノコックボディなどの特徴を持つ拘りのEVであった。航続距離や価格の意見は賛否があったが、その一方で、BMWの「駆け抜ける歓び」を備えた走りの評価は高かった。
そして、第2弾としてプラグインハイブリッドのスーパーカー「i8」を投入。電動車でも面白いクルマが作れることを熱心にアピール。その後、PHEVの「アクティブハイブリッド」シリーズでも、電動化による環境負荷低減とともにエンジン+モーターのクロスオーバーが生む高性能な走りを売りとしていた。
プラグインハイブリッドスポーツカーの「i8」。クーペに加えオープンモデルの「i8ロードスター」もラインナップする
高性能化と特別感の演出という面では、「BMW M」と「BMW i」の親和性は極めて高い。それ故、「BMW i」も、将来的にはエンジン車同様に、普及型と高性能モデルへと棲み分けが図られるだろう。
しかし、普及型にせよ、高性能型にせよ、まずは消費者のショッピングリストに加えてもらうことが最重要だ。そのためには、一人一人のニーズにマッチした多様な車種が必須となる。
そのためにも、市場への積極的なアプローチが試みられるのだ。ただ現時点では、バッテリーや充電器など電動化部品のコストが車両に重くのしかかる。
そのため、スペシャルティSUV「iX」や4ドアクーペ「i4」というファッション性も重視したモデルに力を入れる。それに対して、SUVの「iX3」は、普及型に近い存在といえるだろう。
これらのEVの生産は中国の合弁工場に集約し、世界的な供給を行うというからだ。SUVという多様性に加え、BMWエンジン車にできるだけ価格を近づけられれば、消費者の関心をひけるだろう。
■2021年に日本導入予定の3モデルはどんなモデルなのか?
BMWでは電動SAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)として位置付けられている「iX3」。日本導入は2021年以降を予定している
まずはBMW iブランドのEVに続く、BMWブランドとして初となるEVのiX3。iX3は、第5世代となったBMWのeDriveテクノロジーを搭載する最初のモデルでもある。
iX3に搭載される第5世代のeDriveテクノロジーは、電気モーター、走行システム、トランスミッションをひとつのハウジング内に収められており、これによってドライブトレーンの設置スペースを大幅に削減するとともに、重量の削減効果があるという。
また既存の電動化モデルと比較して、出力密度が約30%向上したという。この第5世代のeDriveテクノロジーはiXやi4にも搭載される。
iX3には最高出力286hp、最大トルク400Nmを発生する電気モーターを搭載。80kWhの容量を備えたバッテリーにより、WLTPモードで最大460kmの航続距離を実現する。
BMWによると、0~100km/h加速6.8秒、最高速は180km/h(電子リミッター作動)を達成。また後輪駆動にしたことで、駆動システムの全体的な効率が向上し、電力消費量の削減により航続距離が伸び、ドライバーはクラシカルなBMWのFRドライブを楽しむことができるとのこと。
2021年秋に日本での正式発売を予定している「iX」。現在はBMWオンラインストアで、予約注文の受付を行っている
BMWオンラインストアはこちら(リンク先)
続いて、2020年12月16日、日本のBMWオンラインストアにて、すでに予約受付けが始まっているiX。正式発売は2021年秋となる。
iXは、全長および全幅がX5と、全高がX6と同程度となる大型のSUV。BMWのフラッグシップSUV、X7と同じサイズのホイールを採用することで、ダイナミックなスタイルを実現しているという。
パワートレインは、前後に1基ずつ、計2基のモーターが搭載されており、システム最高出力は500psを発生。0~100km/h加速は5秒未満という。
WLTPモードの複合電力消費は21kWh/100km未満で、一充電あたりの航続可能距離は600km以上。最高200kWのDC高速充電でバッテリー容量の10~80%を40分で充電できるほか、10分の高速充電で航続距離が120km延ばせるとのこと。
「i4」のコンセプトモデル。現在はテスト車両での走行が行われている段階だ
i4は、BMW iブランド初となる4ドアのグランクーペ、つまり4枚ドアを備えたEVのクーペとなる。iX3やiXと同じ第5世代のeDriveテクノロジーを採用。
530hpを発生する電気モーターと、約550kgの最先端技術を投入した高電圧バッテリーユニットを搭載。エネルギー容量は約80kWhで、航続距離WLTPモードで最長600kmに達する。
世界的な市場の必須要件として電動車は絶対的に必須。とはいえ、当面、エンジン車が失われることもないが、より限定的な存在になるだろう。
しかし、BMWの顧客には、ブランドの性質上、趣味人も多い。性能面でのEVの優位性も見受けられるようなってきたものの、まずエンジン車のように重量を軽くすることはできないため、クルマを操る歓びという面では、エンジン車に分がある。
そして、何よりも許される限りエンジン車に乗りたいというニーズも決して小さくはない。もちろん、今後、エンジン車に対する規制は強化されることはあっても、緩むことなどありえないのが現実だ。
そうなると課税分や環境対策分を価格に上乗せする必要も生じる。それを加味しても、商品として成立するのが、BMWのエンジン車では、「M」だけ。
走りの象徴である新型M4クーペ(右)とM3セダン(左)。BMWはi4にもMモデルの設定を予定している
BMWは、将来的にはi4にもMモデルを用意する、と明らかにしている。またi8のようなBMWらしさ溢れる電動車も登場するだろう。しかし、それには、現在のM同等、もしくはそれ以上の魅力を感じさせるサプライズがなくてはならない。
その技術開発にもMモデルの成長と熟成は重要なキーであり、同時に次世代のための開発資金を稼ぐ手段でもあるのだ。
電動化の象徴「BMW i」とエンジン屋BMWの伝統が生んだピュアスポーツ「BMW M」は相反する面を持ちながらも、BMWの両輪となって未来を支えていく。端的に言えば、「M」は儲かるビジネスへと成長を遂げ、花を咲かせたのである。
その価値をいかに「BMW i」に受け継いでいくかが、今後のBMWの正念場だろう。そのクロスオーバーが起きる瞬間が、新生BMWの本当のスタートといえるかもしれない。
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みんなのコメント
以前にもどこかでイメージ画像みたいなのを
見たことがある気がしましたが、ネタだと思ってた。