旭化成AKXY 3世代目のコンセプトカー
一見すると流麗なスポーツカー、かと思うとキャノピーが持ち上がりそこには快適なサロンが広がる。
5月にパシフィコ横浜で開催された「人とクルマのテクノロジー展2022」で展示された旭化成のコンセプトカーAKXY2。まさに移動するキャビンだ。「あまり想像していなかったのですがこの会場の喧騒の中でも、このキャノピーが会話を反響して聞きやすく意外にも話がしやすいですね」
デザインを担当した、フォートマーレイの代表取締役社長でありデザイナーの石丸竜平さんだ。この旭化成のコンセプトカーAKXY2の取材は、展示された会場でキャノピーをライズアップしたキャビンで行なわれた。確かに喧騒の中でも静かで、話しやすいのは意外だった。
AKXY2を文字通り”クラウド”と意識するのも面白い。フォートマーレイ代表取締役の石丸竜平さん(右)と、フォート
マーレイ・イタリアオフィスのIvo ter Hennepeさん。(右)
海外オフィスを持つことで作業が夜間に途切れることなく行える
メリットもあるという。クルマとして移動することはもちろんだが、駐まった時にも価値がある。そんなクルマがこのモデルの示すところだ。
当初のアイデアが写真中央の大型デスク。室内から外へ移動できるオフィスユニットのイメージ。エクステリアもクルマとはかけ離れた、インテリアとしての存在感を持つ。パッケージ&インテリアの検討。室内でなにをするのか、その最適なボディシェルとは? クルマを内部から考えることで生まれたクルマだ。このAKXY(アクシー)は旭化成のコンセプトカーで、2017年にはAKXYを、そして2019年にはAKXY PODを発表してきた。もちろんそれらのデザインとクリテエイティブディレクションを手がけたのも石丸氏である。このAKXYとはAsah Kasei ×(かける)Youという意味。単なる一方的な発信ではない、さまざまな世界、人との広い繋がりを求めたネーミングだ。そして19年に発表された2代目AKXY PODは車室空間のコンセプトモデルとなっていた。
いずれも、旭化成の持つ素材技術とともに進化するクルマの提案がなされてきたが、同時に強い提案性も見られようになってきている。
特に最新のモデルAKXY2は室内だけでなくコンセプトカーとして構築したコンプリートなものだが、ひとつのライフシーンを見せてくれている点でも大いに興味深いものとなっている。
「AKXY2は、これまでのAKXYシリーズとは異なるアプローチで制作しました。コンセプトには3つのSを掲げています」という。
この3つのSとは、Sustainability(持続可能なクルマづくり)、Satisfaction(クルマの満足度向上)、Society(社会とクルマのつながり)だという。デザイン的に重要なのはここからで、それらを直感的に具現化することから始めたのだという。
AKXY2。スポーツカーのようなボディに。ボディと内装構築には、旭化成の主に12の技術&素材が採用されている。例えば、フロントウインドウはガラスでなければならないが、こちらのキャノピーは樹脂グレージング用ハードコートを採用。ガラス並みの耐久性を持たせている。モチーフにしたのは循環や自然のサイクルを表現した「輪」。「サスティナビリティ」、「自然との共生」を表現するもので第一弾のAKXYから受け継ぐ面と線の出発点でもあるという。エクステリアやキャノピーの造形、バスタブと表現される内装空間に至るまでこの「輪」が貫かれている。
公には「輪」の表現として示されているが、実際に意識したのは 英語の”Squircle”=スクエアクルだという。日本語訳はあまりされない表現なのだが、スクエア=四角と、サークル=円の合成した造形を示す言葉だ。角の丸い四角という感じで、楕円ともまた違う。単なる輪ではないところに、メカニカルな芯の強さとともに、円のもたらす優しさ、心遣いを感じ取ることができる。
走るだけではない価値を見つめる
室内では底面にマグネット固定式の椅子などを自由に配置することでアレンジ自在の空間とし、さらに全周囲が見渡せるキャノピーは室内を人が立って歩ける高さまでリフトアップできる構造としている。移動すること以上に、停止している状態での価値を高めている。また、このモデルを単に移動した先の空間として完結させるのではなく、外界とのシームレスな関係性を作り上げることも、デザインの手腕として実現させた。
インテリアはアレンジが可能。シートやテーブルはマグネットで固定されるので、配置も自由。例えばボディに腰かけたり、デッキにものを置いたりすることも可能で、外と内のコミュニケーションも円滑に行える造形となっている。移動した先で会議をする、どんな場所でもオフィスとして利用する。あるいはリビングやダイニングをそのまま外へ持ち出す。このクルマを利用すればそんなイメージが湧き出てくる。
このコンセプトを実現するために、旭化成の最先端素材技術がふんだんに用いられショーケースとしての役割も果たしているのだが、加えて重要なことはこの先のクルマが持ちうる価値についての提案がなされていることだと思う。
雲海を求めて。到着した先で何をするのか? 移動するだけではない価値が見えてくる。移動する、人やものを運ぶだけでなく、そのクルマというモノ自体がどう人々の生活や活動に貢献できるのか? 現在ある程度限界を決められてしまっているクルマというものの使い方に、未知の可能性を提案するきっかけでもある。ここからまた、様々なアイデアが広がっていくことにぜひとも期待してみたいと思う作品だ。
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