■過去のモデルから学んで新型車を開発
毎年数多くの新型車が各メーカーから発売されます。どの新型車でも共通していることは、コンセプトが明確になっていることで、コンセプトが決まらないと開発は始まりません。
そうしたコンセプトはライバルを出し抜くために斬新なものを打ち出すケースがある一方、過去のモデルに学ぶケースもあり、いわゆる原点回帰したモデルも存在。
そこで、デザインやコンセプトが原点回帰したクルマを、5車種ピックアップして紹介します。
●マツダ「ロードスター」
日本が好景気にわいていた1989年、当時マツダが展開していた販売チャネルのひとつであるユーノスから、オープン2シーターFRスポーツカーの初代「ロードスター」が発売されました。
決して使い勝手が良いとはいえないオープン2シーター車ながら、軽量でコンパクトなボディに優れた足まわり、ちょうど良いパワーの1.6リッターエンジン、スタイリッシュなボディ、安価な価格と、すべてが完璧に調和したことから国内外で大ヒットしました。
その後、代を重ねてもコンセプトは受け継がれていきましたが、出力向上のための排気量アップや、ボディサイズの大型化が図られたことで、重量増は避けられませんでした。
そこで、2015年に発売された現行モデルの4代目では、ロードスターの原点に立ち返ることをコンセプトに開発。
エンジンを1.5リッターにダウンサイジングし、ボディサイズも全長3915mm×全幅1735mm×全高1235mmとワイド化しつつも、全長を3代目より105mm短縮しています。
また、ボディ各部にアルミや超高張力鋼板を効果的に配置したことで100kgもの軽量化を実現し、エントリーグレードの「S」(6速MT)は車重990kgと1トン未満を達成。
ロードスター伝統の「人馬一体」のフィーリングは、さらに磨きがかけられました。
●スズキ「ジムニー」
1970年に発売されたスズキ初代「ジムニー」は、超小型のボディながら強固なラダーフレームに、ストロークが長く頑丈な前後リジッドアクスル式サスペンション、パートタイム4WDを採用した、軽自動車初の本格的なクロスカントリー4WD車として開発。
プロも使う本物のアウトドアギアとして、代を重ねてもコンセプトはブレることはありませんでした。
そして、2018年にデビューした現行モデルの4代目ジムニーは、クラシカルなデザインと優れた悪路走破性から人気となり、いまも納車1年待ちといわれています。
ラダーフレームに架装されたボディに、サスペンションは前後ともコイルスプリングのリジッドアクスルを継承。
搭載されるエンジンは64馬力を発揮する660cc直列3気筒ターボで、インテークバルブ側に可変バルブタイミングを採用し、低回転から力強いトルクを発生します。
パートタイム4WDも初代から変わっていませんが、トランスファーは先代後期型のボタンで2WDと4WDを切り替えていた方式から、4代目ではシンプルな構造のレバー操作による切り替え方式に戻りました。
一方で、滑りやすい路面で駆動力を確保する「ブレーキLSDトラクションコントロール」や、急な下り坂などでブレーキを自動制御する「ヒルディセントコントロール」を装備するなど、走りの部分では大幅に進化を遂げています。
ジムニーは単に過去のモデルを焼き直したのではなく、初代からの明確なコンセプトを昇華させたモデルといえるのではないでしょうか。
●ケータハム「セブン160」
イギリスを代表する、レーシングカーおよびスポーツカーメーカーといえばロータスです。
ロータスを創業した故コーリン・チャップマンは天才的な技術者で、もともとは裏庭で自らレーシングカーを作ってレースに出るという「バックヤードビルダー」から会社を興し、1950年代にはF1へ参戦するほどの成功を収めました。
レースに出る傍らで、市販車(キットカー)の製造もおこなっていたロータスは、傑作といわれた「セブン」を1957年に発表。
セブンは古典的なロングノーズ・ショートデッキのフォルムで、走るための装備以外は搭載していない、ピュアなFRスポーツカーとして開発されました。
このセブンは大ヒットして1973年に登場した「シリーズ4」まで生産が続きます。そしてセブンの製造権と販売権を引き継いだケータハムによって作られた「シリーズ3」セブンの進化系が、現在のケータハム「セブン」です。
ケータハムは独自の技術によってセブンの改良を続け、ロータス時代とは比べ物にならないほどのパワーを発揮し、ハイグリップなタイヤを採用することで、レーシングカーに近い性能を手に入れました。
しかし、もともとロータス・セブンは優れたシャシに乗用車用のローパワーなエンジンを搭載した、安価なスポーツカーだったことからヒットしたモデルです。
そこでケータハムは2014年に、エントリーグレードとしてスズキ製の660cc直列3気筒エンジンを搭載した「セブン160」を発売。日本で軽自動車登録できるセブンとして、大いに話題となりました。
最高出力80馬力を発揮し、トレッドが狭められてタイヤは155/65R14を装着。車重はわずか490kgに抑えられ、まさにロータス・セブンを彷彿とさせるモデルとなっています。
■最新のEVは往年の大衆車をオマージュ!?
●ホンダ「ホンダe」
1972年にホンダは、新世代のコンパクトカーである初代「シビック」を発売。当時、まだ数少ないFF駆動を採用して広い室内空間を実現し、軽量なボディで優れた走りと低燃費を両立したことから大ヒットします。
その後、シビックは代を重ねるごとにボディやエンジンの大型化が進み、現行モデルの「シビック ハッチバック」は、初代のコンセプトとは大きく異なるモデルとなってしまいました。
そんななか2020年8月に、ホンダは都市型EVコミューターの「ホンダe」を発表。
ボディサイズは全長3895mm×全幅1750mm×全高1510mmと、全長は「フィット」よりも100mmほど短く、全幅は50mmほどワイドです。
外観は全体的にやわらかな曲面で構成され、カタマリ感と安定性が感じられる台形をモチーフにデザイン。
丸形LEDヘッドライトを採用したフロントフェイスや、外観全体のシルエットは、初代シビックをオマージュしたかのようのです。
また、内装では、5つの液晶モニターを水平に配置したインパネを採用し、トレー形状や木目調パネルの意匠は、やはり初代シビックをイメージさせます。
搭載されるパワーユニットは最高出力113kW(約153馬力)、最大トルク315Nmを誇るモーターに35.5kWhのリチウムイオン電池を採用。後続可能距離はWLTCモードで283kmを実現し、30分の急速充電で202kmの走行が可能です。
また、駆動方式はリアにモーターを搭載してリアタイヤを駆動するRRとなっており、前輪の切れ角を大きくすることで最小回転半径は4.3mと、都市部での使い勝手を向上させています。
ホンダeはピュアEVであることやRR駆動の採用など、単にデザインだけ初代シビックをオマージュしたように思えますが、コンパクトカーとしての使いやすさや、環境への配慮といった点で、初代シビックのコンセプトを継承する、正統な後継車ではないでしょうか。
●日産「フェアレディZ」
2020年9月に、日産は12年ぶりとなる新型「フェアレディZ プロトタイプ」を発表。初代フェアレディZをはじめ、歴代モデルのデザインエッセンスを取り入れており、原点回帰したといわれています。
しかし、2008年に発売された現行モデルの6代目「Z34型 フェアレディZ」こそが、原点回帰したモデルでした。
搭載されるエンジンは最高出力336馬力を発生させる3.7リッターV型6気筒エンジンで、高レスポンス、高出力、低燃費、低排出ガスを実現。
ボディサイズは全長4250mm×全幅1845mm×全高1315mmと大柄ですが、先代よりも100mmも大胆にショートホイールベース化されました。
これは、リアタイヤの接地荷重を高めることが目的で、初代フェアレディZから続く独特の操縦性を再現したといいます。
外観は初代をイメージさせるロングノーズ・ショートデッキを強調しており、古典的なシルエットのなかに最新のデザイントレンドを融合。
内装も、伝統のアナログ3連サブメーターをインパネ上に配置した、生粋のスポーツカーらしいデザインを継承しています。
6代目フェアレディZはあらゆる点で初代から大きく進化していますが、フィーリングという数字では推し量れない部分で、原点に立ち返ったモデルです。
※ ※ ※
近年、過去のモデルをモチーフにしたクルマが世界的に増えました。これを「何のひねりも無いただの懐古趣味」と捉える人もいるのは確かで、実際にデザインだけを旧来のモデルに似せたようなクルマもあります。
一方で、そうした懐古趣味なクルマは人気があるのも事実です。
昔のクルマをモチーフにしたデザインは、懐かしさだけでなく、若い人の目には新鮮に映ったということでしょう。このトレンドはまだまだ続きそうです。
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