2005年、当時ハイブリッドに積極的ではないメーカーと言われていたBMWがダイムラークライスラーとGMによるハイブリッド共同開発陣営に加わることを表明した。また2005年秋に行われたフランクフルトモーターショーではBMWはハイブリッドのスタディモデル「X3エフィシェント・ダイナミクス」を発表、市場を驚かせた。そのハイブリッドシステムは高効率化されたバルブトロニックエンジンにトランスミッション内の小型モーターを組み合わせたもので、モーターはあくまで「ブースター」だと主張していたのも印象的だった。2005年当時、BMWは次世代パワーユニットをどのように考えていたのか、北米市場でレクサスのハイブリッドと勝負することをどう考えていたのか。Motor Magazine誌では、2005年秋の東京モーターショーのために来日したDr.ブルクハルト・ゲッシェル開発担当取締役に、次世代のパワーユニット戦略について迫っている。(以下の記事は、Motor Magazine 2006年1月号より。メイン写真は2005年の東京モーターショーで公開されたBMWコンセプトX3エフィシェント・ダイナミクス)
BMWは高効率でダイナミクスを実現するエンジンを開発を続けていく
── 「エンジンのBMW」と言われますが、「駆けぬける歓び」をさらに進化させるために、これから大切なもの、技術とは何ですか。BMW:いろんな技術がからんでくると思いますが、まずやはりインジェクションシステムがポイントとなるでしょう。BMWのコアであるダイナミクスを効率よく実現し信頼を得ることのできる新しいエンジンを提供していくことでしょう。もちろんシャシも重要です。まだ発表することはできませんが、新しい機能を盛り込んでいくつもりです。
【くるま問答】アイドリングストップ機能はよいことばかりではない。OFFスイッチはいつ使う?
── BMWはハイブリッドとは遠い存在と思っていましたが、2005年の東京モーターショーではハイブリッドを出品しました。
BMW:BMWグループではすでに1990年代からハイブリッドの試作開発を進めてきました。ただそれは現在市販されているハイブリッドシステムとは少し考え方が異なり、アイドリングやブレーキング時に無駄にしていたエネルギーを回収するというものでした。一方で電気自動車の開発も進めていました。その中でわかったことは、電気モーターによる駆動は走り出しが力強くスムーズであるが、ダイナミクスという部分ではドライバーの感性に合わないというものでした。ただ、滑りやすい路面でも電気モーターがいとも簡単にこなしてしまうのは驚きでした。またこの時、ATとの相性の良さ、電気モーターのジェネレーターがトルクコンバーターに使えるのではないかというヒントも得ました。
── 今後はハイブリッドに力を入れていくということですか。
BMW:いえ、そうではありません。むしろ、BMWが期待される「感動と高効率のダイナミクス」を実現するために、内燃機エンジン以上のものはないと考えています。BMWが基礎とするのは引き続き内燃機エンジンです。ハイブリッドも水素エンジンもそこからの派生であり、内燃機エンジンを補完するものです。ハイブリッドはおそらくBMW全体の5%、多くて10%ほどにとどまるはずです。必要な仕向地に必要なだけ提供することになるでしょう。電気モーターはシティコミューターとしては理想的ですが、BMWが目指すダイナミックな走りには適しません。電気モーターはあくまでも効率や発進時のためと考えています。ただハイブリッドの一歩手前、つまりブレーキエネルギー回収技術とエンジンオートストップ技術だけでもずいぶんと効率は上がると考えています。
── BMWのハイブリッドシステムの特徴はどういうものですか。
BMW:車両内のエネルギーの流れをインテリジェントに管理することが重要と考えています。また前提として、ハイブリッドにしても水素エンジンにしても、わずかな変更だけで使えることという考えがあります。ブレーキエネルギー回収技術、エンジンオートストップ技術、水素エンジンも基本的に既存のコンポーネンツをベースとしています。燃料電池ではなく水素エンジンであるのはそういう意味もあります。ハイブリッドシステムの核となっているのは、高効率の内燃機エンジンと組み合わせたアクティブトランスミッションです。通常と同様のコンパクトなオートマチックトランスミッションに電気モーターと制御ユニットを組み込んでいます。またキャパシタを使うことも特徴と言えるでしょう。
── 高効率エンジンについてもう少し詳しく教えていただけますか。
BMW:BMWのハイブリッドシステムにはこのエンジンが不可欠です。ハイブリッドであることが目的ではなく、高効率であることが目的だからです。このエンジンはガソリンの希薄燃焼直接噴射技術を使って高性能と低燃費という相反する課題を解決するもので、これをハイ・プレシジョン・インジェクション(精密燃料噴射)と呼んでいます。これまでの直接噴射ではBMWの要件を満たすことができず、それとはまったく別の技術であるバルブトロニックを開発し高い燃焼効率を実現してきましたが、ハイ・プレシジョン・インジェクションはこれよりもさらに熱力学的に優れたものになるはずです。また、この6気筒エンジンはVベルトを持たないのも特徴です。パワステのポンプ、ブレーキサーボ、エアコンコンプレッサーなどの補機類は電気モーターが直接駆動します。こうすれば、アイドルストップも簡単なのです。このエンジンは近いうちに実用化する予定です。
── これらはすべて自社の内製ですか。
BMW:最終的にサプライヤーから供給を受けるとしても、BMWはあくまで自社で開発を進めています。そうでないと100%満足できるものはできませんし、熟知していないとサプライヤーに注文を入れることもできません。コストをコントロールすることもできないのです。
── ディーゼルに関してはいかがですか。すでにメルセデス・ベンツが2006年にディーゼルを日本市場に投入すると発表していますが。
BMW:ヨーロッパではすでにディーゼル車の販売がガソリン車を上回っています。ただ日本市場投入の予定はありません。ディーゼルで日本市場での販売台数を伸ばそうという考えはありませんし、メーカーとしては長期的に販売されるものでなければ投入しにくい面もあります。レクサスがディーゼルを販売することになれば、投入することになるでしょう。
── 最後にBMWの今後のエンジン戦略についてもう一度おうかがいできますか。
BMW:そうですね、BMWとしてはあくまでも高効率でダイナミクスを実現するエンジンを開発を続けていくということですね。ハイブリッドもそのためのものです。(Motor Magazine 2006年1月号より)
Dr.Burkhard Goshel
Dr.ブルクハルト・ゲッシェルBMW AG開発/購買担当取締役。1945年、ドイツ・ラーニス生まれ。1999年BMW AG入社。1999年開発担当ディレクター就任。
[ アルバム : BMWのパワーユニット戦略(2005年) はオリジナルサイトでご覧ください ]
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