スポットライトを浴び、多くの人に称えられる「名車」がいる。その一方で派手に注目されることはなくとも、性能を磨き渋く存在感を放ったクルマがいる。それらのクルマは自らが研鑽した性能を後世に託した、いわば「功労車」だ。
黎明期にカテゴリーの確立に寄与した、カテゴリーが不遇の時代に歯を食いしばって存在感を示した、そんなクルマたちを称えたい。
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■今回取り上げるカテゴリーとモデルたち
・セダン…トヨタ 7代目マークII/三菱 初代ディアマンテ/日産 初代セフィーロ/日産 インフィニティQ45/トヨタ アルテッツァ/トヨタ プログレ
・スポーツ…マツダ 3代目ロードスター/ホンダ S2000/マツダ RX-8/ダイハツ 初代コペン/日産 5代目フェアレディZ
・ワゴン…スバル 初代レガシィ/日産 初代ステージア/三菱 初代レグナム/トヨタ 初代カルディナ/ホンダ 初代アコードワゴン
・軽…スズキ 初代ワゴンR/ダイハツ 初代タント/三菱i/スズキ 初代ジムニー/ホンダ ビート
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※本稿は2019年11月のものです
文:片岡英明、渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年12月10日号
■【セダン】 RV全盛期(1991~2000年頃)に存在感を示したセダンたち
RVモデル(SUVやミニバンなど)全盛期、セダンの注目度はそれの影に隠れがちだった。が、存在感を示しファンに愛されたセダンはある。現代のセダンへつながる系譜を紡いだモデルたちを紹介。
●片岡英明が選ぶセダン3台…トヨタ 7代目マークII/三菱 初代ディアマンテ/日産 初代セフィーロ
1990年代半ばになるとミニバンやクロスオーバーSUVが主役になり、セダンは影の薄い存在となった。
この時代に高級パーソナルセダンの魅力を伝え、輝きを放っていたのがトヨタのマークII3兄弟だ。7代目の90系マークIIは3ナンバーのワイドボディをまとい、快適レベルと走りのポテンシャルを大きく引き上げている。
280psエンジンに5速MTも選べた7代目マークII
エンジンは新世代の直列6気筒が主役だ。ガソリンエンジンはすべてDOHCとし、イメージリーダーのツアラーVはツインターボを積む。
サスペンションは4輪ダブルウィッシュボーンをおごり、トルセンLSDやトラコン&ABS、電子制御サスペンションなど、先進装備と安全装備をてんこ盛りする。初めて4WDモデルを設定したのも、この90系マークIIだ。
違うアプローチで高級パーソナルセダンの基準を作ったのが三菱のディアマンテである。
時代に先駆けて小型車枠からの脱皮を図り、駆動方式もFFとそれをベースにしたフルタイム4WDとした。
逆スラントノーズも魅力的なディアマンテ
また、V型6気筒エンジンや4輪独立懸架のサスペンションなどに積極的に電子制御のメカを採用している。4輪操舵や挙動安定システムなども統合制御だ。
新世代のハイクオリティセダンで、2年足らずの間に10万台の販売を記録する。セフィーロもFRセダンの新境地を開拓した。
初代セフィーロ。2Lの直6を積むFRで、走りもイケる
●渡辺陽一郎が選ぶセダン3台…日産 インフィニティQ45/トヨタ アルテッツァ/トヨタ プログレ
1990年頃の日本車メーカーは、今と違って海外の販売比率が80%を超えることはなかった。
それでも50%前後には達して、1989年には高級車ブランドとしてトヨタがレクサス、日産はインフィニティを北米で開業している。この取り扱い車種を国内にも導入して、セダンを充実させた。
個性的な高級セダンとして注目されたのは1989年に発売されたインフィニティQ45だ。
丸みのあるグリルレスのボディに、V型、8気筒4.5Lエンジンを搭載して、セダンのなかでは走行安定性が突出して優れていたモデル。
忘れていないか、インフィニティQ45は新しい高級セダンの提案だった
同じ年に発売されたセルシオは、レクサスLSの日本仕様で上質だが、当時のトヨタ車の集大成といえる。その点でインフィニティQ45は新しい高級セダンの提案だと感じた。
スポーツセダンでは、アルテッツァが話題になった。レクサスISの日本仕様で、全長が4400mmのボディに、直列4気筒/6気筒の2Lエンジンを搭載したFRモデル。
車両重量が1300kgを上回り動力性能は不満だったが、安定性は優れ適度なサイズで運転しやすかった。
トヨタ アルテッツァ
また全長が4500mmのボディに、直列6気筒、2.5L/3Lエンジンを積むプログレも挙げたい。
内外装は上質で、視界もよく扱いやすい。このように当時のトヨタは、セダンの主流と反主流を両方揃え、国内市場を完結させていた。
5ナンバーサイズだが内外装は上質に。プログレは日本車セダンを支えたモデルの一台だ
■【スポーツカー】 “暗黒期”に歯を食いしばり文化をつないだクルマたち
多くのハイパワースポーツが消滅した2002年から、86が復活する2012年までの間はスポーツカーの暗黒期。そんな暗黒期にあふれる個性でカテゴリー継続に貢献したモデルたちを称える
●片岡英明が選ぶ3台…マツダ 3代目ロードスター/ホンダ S2000/マツダ RX-8
世紀末、デートカーの主役に躍り出たのがクロスオーバーSUVだ。それまでデートカーといえば2ドアのスポーツクーペや2人乗りのスポーツカーだった。
が、1990年代半ばからはキャビンが広く、快適性も高いクロスオーバーカーがファミリーだけでなくカップルにも好まれるようになったのである。
以降、スポーツカーは販売台数が激減した。この危機を救ったのがマツダのスポーツカー軍団である。
なかでも驚異的な販売台数を誇り、初代、2代目とヒットさせたロードスターは、満を持して3代目を送り込んだ。排気量を2Lまで拡大し、全域にわたってパンチを増した。また、人馬一体の切れ味鋭いハンドリングにも磨きをかけている。
2005年に登場した3代目ロードスター。当時は2Lエンジンの搭載に「北米市場を意識しすぎ」との批判も
途中で電動メタルトップのリトラクタブルハードトップを追加し、後期モデルでは6速MT車のエンジンに手を入れた。
ロータリーエンジン党には観音開きドアの4ドアクーペ、RX-8を送り出すなど、暗黒の時代にマツダが果たした役割は大きい。
現状、最後のロータリーエンジン搭載車でもある、RX-8
ホンダの創設50周年を記念して発売したS2000もクルマ好きに夢を与えたピュアスポーツカーだ。
デビュー時は2Lの高性能エンジンを積み、6速MTだけと割り切った設定も走り屋好みだった。クイックなハンドリングに魅了され、今でも乗り続けているファンは少なくない。
ホンダが26年ぶりに作ったFR、S2000
●渡辺陽一郎が選ぶ3台…マツダ 3代目ロードスター/ダイハツ 初代コペン/日産 5代目フェアレディZ
1990年代の中盤以降、ミニバンやシティ派SUVが普及すると、スポーツカーは売れゆきを下げ始めた。2002年にはシルビア、スープラ、RX-7などが生産を終えている。理由は排出ガス規制だが、販売する意欲があれば対応できた。
それでもスポーツカーは全滅せず、2002年からトヨタ86が登場する2012年まで、市場を支える功労車がいた。
最も尽力したのはロードスターだ。2002年の時点では2代目で、2005年に3代目の先代型に一新した。排気量を2Lに拡大してボディも3ナンバーサイズになったが、依然としてスポーツカーとしては小さく、国内市場に適していた。
2002年には軽自動車の初代(先代)コペンが発売された。
ビートやS660と違って走りの機敏なスポーツカーではないが、最終型ソアラ(2005年にレクサスSCに改名)と同様の電動開閉式ハードトップを装着する特色があった。
スポーツカーの人気が下がり始めた時期だったので、軽自動車に電動開閉式ハードトップという組み合わせは、当時意欲的なチャレンジと受け取られた。功労車として選びたいモデルだ。
軽で電動開閉式のハードトップを装着。そんな話題も盛りだくさんだった初代コペン
同じ2002年には、伝統のスポーツカーとされるフェアレディZが復活して、5代目の先代型になった。
後席を備える4人乗りを廃止して、2シーターボディに限定している。
“スポーツカー暗黒期”に伝統のスポーツ、フェアレディZが復活。この5代目には勇気をもらった
スポーツカーにとって暗黒の時代を少数精鋭で乗り切った。それがこれらのモデルだ。
■【ワゴン】…商用車だったワゴンに新たな魅力を与えたクルマたち
今でこそ日本車のラインナップ数は少ないステーションワゴンだが、“積んで走る”という商用車から新たに生まれたワゴンはニーズに合致。市場を活性化させたモデルは確かにあった!
●片岡英明が選ぶワゴン3台…スバル初代レガシィ/日産初代ステージア/三菱初代レグナム
昭和の時代は商用のバンも乗用のワゴンも差が少なかった。平成の時代に颯爽と現われ、ワゴンブーム、アウトドアブームを巻き起こしたのがスバルのレガシィだ。
4WDやDOHCターボなどを採用することにより、痛快な走りを実現。バン=ワゴンの図式を覆すとともにスポーツワゴンの世界を切り開いている。
両氏が選出した初代レガシィ。これ抜きでは語れない
高性能で上質な直列6気筒エンジンを積み、ヨーロッパ車とは違うプレミアムワゴンの世界を見せてくれたのが日産のステージアだ。
三菱レグナムも上質なワゴンである。直噴のGDIエンジンで新時代の到来を告げた。
日本車にもLサイズワゴンを! 存在感は際立っていた初代ステージア
●渡辺陽一郎が選ぶワゴン3台…スバル 初代レガシィ/トヨタ 初代カルディナ/ホンダ 初代アコードワゴン
1993~1995年頃、ワゴンが好調に売れる時期だった。筆頭は1989年発売の初代レガシィツーリングワゴン。
これは挙げるべきだろう。同じボディの商用バンを用意しないワゴン専用車。ターボのGTも加わり、適度なサイズと走りのよさ、快適な居住性で人気を高めた。
販売面で際立ったのは初代カルディナ。1992年に発売されながら、1995年に約1万4000台を登録。対前年比も1.6倍だ。ワゴンブームの一角を成し、発売から3年後に販売が急増した。
また、1991年登場の初代アコードワゴンは北米生産の輸入車だ。3ナンバーサイズのボディで居住性と積載性が優れた功労車といえる。
■【軽自動車】とにかくエポックメイキング!
最後のカテゴリーは軽自動車。現代の軽の隆盛を考えると、それを支えた功労車は歴代モデルにはありすぎる! ということもあり「とにかくエポックメイキング」というテーマで功労車を選出してもらった
●片岡英明が選ぶ軽3台…スズキ 初代ワゴンR/ダイハツ 初代タント/三菱i
660cc軽自動車の革命児がワゴンRだ。バブルが弾けて販売が下降線をたどった1993年秋に登場し、発売直後から大ヒットを飛ばしている。
ハイトワゴンブームの火付け役となり、日本の風景を変えてしまった。
“軽維新”といっていいワゴンR
ワゴンRに続くエポックメイキングな軽自動車が2003年デビューのタントだ。ハイトワゴンより背を高くしたスーパーハイトで、軽自動車とは思えない広々としたキャビンが自慢だ。
2006年に登場した三菱iも画期的な意欲作。特異なパッケージングを採用したのはEVのi-MiEVのベース車にするためだった。
三菱 i
●渡辺陽一郎が選ぶ3台…スズキ 初代ワゴンR/スズキ 初代ジムニー/ホンダ ビート
先進的な車種の筆頭は、1993年登場の初代ワゴンRだ。背の高いボディに合わせて乗員の座る位置も高め、足下空間を広げて居住性を向上させた。
3列シートミニバンと同様、全高の拡大で全長を伸ばすのと同じ効果を得ている。今の背の高い軽自動車の礎を築いた、語り継がれるモデルだ。
1970年に登場した初代ジムニーも先進的だ。排気量は360ccだが、ラダーフレーム、副変速機付き4WD、大径タイヤを備え、27.5度の登坂性能を発揮。唯一無比の存在だ。
エポックメイキングならミッドシップスポーツのビートも。ターボを装着せずに64馬力の最高出力を達成。挙げたい一台。
ビートも渡辺氏が挙げた「功労車」だ
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みんなのコメント
縁の下と言うよりは間違いなくそのカテゴリーで主役だと思う