クロカンブームが変化してSUV人気へと
SUV(スポーツ多目的車)人気が真っ盛りだ。自動車メーカーによっては、販売比率が50%近くに達している。その始まりは、1981年(昭和56年)に誕生したいすゞビッグホーンや、翌82年に登場した三菱自動車のパジェロなど、当時クロカン四駆と呼ばれた4輪駆動車に遡る。ほかにも、トヨタのハイラックスサーフや日産のテラノなども現れ、それらはレクリエイショナル・ヴィークル(RV)と位置付けられた。
令和だから振り返る! 昭和に一時代を築いたのに平成になって消滅したクルマ5選
それまでの4輪駆動車といえば、米国のウイリス・ジープをノックダウン生産していた三菱自動車のジープや、トヨタのランドクルーザーのように日常の街乗りには適さない、悪路走破を最大の特徴とした車種と思われてきた。だが、RVの登場とその人気によって、日常的な利用を含め、週末や休暇で郊外へ移動するのに便利なクルマとして広く人気を集めていった。
背景には、1973年に続いて79年に勃発した石油危機を乗り越え、90年のバブル経済絶頂期へ向け経済が回復するなか、人々がより開放的で贅沢を味わえる時代への移り変わりも反映していた。
1987年(昭和62年)には、『私をスキーに連れてって』という原田知世主演の映画が公開され(クルマの主役はトヨタ・セリカGT-FOURだったが)、RVに乗ってスキーへ行くことの憧れを人々の心に満たし、松任谷由実が歌う主題歌もそうした気分を高ぶらせた。まだスノーボードが流行る前の話である。
米国でも、カリフォルニア州のビバリーヒルズなどで富裕層の人々が高級車や高性能スポーツカーではなく、英国のレンジローバーに乗るといったことが人目につきだした。そして米国で乗用車人気ナンバーワンを競ったカムリを基にしたトヨタ・ハリアーの誕生につながっていく。
ビッグホーンやパジェロなどのRV時代から、より乗用車感覚を強めたのがハリアーであったが、以後、日常と非日常の両面での使い勝手をさらに進化させた車種として進化し、ポルシェにカイエンが加わるなどスポーツカーメーカーも巻き込んだSUV人気が高まって、今日に至るのである。
余暇を楽しむ人が増えワゴン人気が高まった
もう一つの流れが、4輪駆動ステーションワゴンの誕生だ。SUBARU(当時は富士重工業)は、RVでもなく、ジープ的な4輪駆動車でもない、ステーションワゴンの4輪駆動車を1972年(昭和47年)にエステートバンとして発売した。これは、70年代初頭に東北電力の依頼により、冬季の系統電線の管理のため積雪した山岳部を移動するため車両が開発され、それを市販化したものだった。
75年には、4ドアセダンの4輪駆動車も加わる。そして、81年(昭和56年)の2代目レオーネで、ステーションワゴン初の4輪駆動車として「ツーリングワゴン」の名称が誕生する。
それらはまだ世界に類を見ない4輪駆動車であり、日本のみならず米国でも人気を呼んだ。当時、レオーネの価格帯で本格的4輪駆動機能を備えた車種がほかになかったからである。
舗装路を高速で走行する4輪駆動の価値として、アウディのクワトロが有名だが、クワトロの登場は80年であり、それ以前からスバルはジープやRVとは異なる乗用の4輪駆動車という価値を生み出していたことになる。
ツーリングワゴンは「リゾートエクスプレス」と価値づけられ、SUVと同じようにバブル期に休暇を楽しむための一台として人気を不動のものにした。それが発展し、現在のアウトバックにもつながっていく。
戦後日本の経済成長の中で、米国型の豊かな生活への憧れが人々の勤労意欲を後押しした。中流階級の米国人には、平日は勤勉に働きながら週末や休暇は家族や仲間と大いに楽しむ生活があり、平成を目前にした昭和末期に起きたバブル時代が、日本でも余暇を楽しむためのクルマ人気に火をつけたといえる。
ハイソカー人気は高度成長期の上昇志向
1989年に、昭和64年から平成元年に元号が変わる。まさに日本がバブル経済真っ盛りの時だ。トヨタ・セルシオ、日産はインフィニティとスカイラインGT-RR、ホンダNSX,そしてマツダ・ロードスターなど、90年に掛けて高級車や高性能車が目白押しであった。
そうしたなかで、一世を風靡したのがハイソカーブームである。ハイソカーとは、ハイソサエティ・カーを簡略化した造語で、ハイソサエティは上流階級の人々のことをいう。そうした人々が乗るような上級車の意味がハイソカーにはあった。
日本は、1970年代を前後して総人口が1億人を超え、昭和30年代から東京オリンピックを経て経済が成長を続けた高度経済成長期に所得が安定し、1億総中流の意識が高まった。その後、石油危機や排ガス規制などを乗り越え日本がバブル期を迎えたとき、より上流であるとの意識が人々に芽生え、人気を得たのがハイソカーだ。
80年に登場したトヨタ・ソアラがスーパーホワイトと名付けられた塗装で人気を得、それがマークII3兄弟(マークII、チェイサー、クレスタ)へも広がって、バブル経済の後押しもあり一気に白いクルマが街を埋め尽くす。
67年(昭和42年)の3代目クラウンで「白いクラウン」の愛称から白のクルマが人気を高めたが、白が単に無難な色であるというだけでなく、憧れの車体色となったのはハイソカーブームによるだろう。
「いつかはクラウン」の宣伝によって、昇進や所有するクルマの頂点へ上昇志向を意識しながら、現実的には上司がクラウンに乗っている以上、部下が同じクルマに乗ることははばかられると、マークIIで辛抱するといった配慮が働くなか、ハイソカーと呼ばれた白いマークII三兄弟に乗ることが優越感を覚えさせもした。
団塊の世代(戦後世代)を中心とした人々のそうした奮闘や悲哀、あるいは達成感のなかで戦後日本が築かれ、昭和から平成へ時代はつながったのであった。
令和のSUVブームには、戦後から培われてきたレジャービークル(RV)、ツーリングワゴン、ハイソカーの大きな三つの流れが合流しているようにも思えるのだ。
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