トヨタ車のデザインは悪い……。そんなふうに言われてから幾年が経ったのでしょうか?
そんななか、2018年6月にカローラスポーツがデビューし、そのスタイルを見て「トヨタのデザインが変わってきたのでは?」と、思った方も多いのではないでしょうか。
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そして、2018年11月の中国・広州モーターショーで発表されたカローラセダンとツーリングのデザインを見て担当は、はからずも「え、マジ? カッコいい!!!」と思ってしまいました。
もしや、トヨタのデザインは、大きく変わったのでしょうか? 何かが起きているのでしょうか?
そこで、現行車のデザインをチェックしながら、トヨタのデザインはマシになったのか、モータージャーナリストの清水草一氏が改めて検証します。
文/清水草一
写真/ベストカー編集部、トヨタ
■トヨタがデザインで攻めの姿勢に転じたのはいつ?
新型カローラスポーツ(ハッチバック)の世界初披露は北米で、カローラツーリング(ワゴン)は欧州で、そしてセダンは中国で実施された。タイミングの問題とはいえ、日本はかなり遅れての披露となり、ちょっとさみしい
クルマ好きの間では、トヨタ車のデザインの評判は概して悪い。かつてトヨタデザインは、万人に嫌われない超人畜無害なものが多かった。
しかし現在は、明らかに変わった。嫌われることを恐れずに、新しいカタチに挑戦している。それが一部のクルマ好きの強い反発も生んでいるが、「挑戦のないところに未来はない」という思いは伝わってくる。
トヨタデザインが「攻め」の姿勢を明確にしたのは、福市得雄氏がデザイン責任者になってからではないだろうか。
福市氏は、初代エスティマや初代アルファード、iQなどのデザインに関わったデザイナーだが、2008年に子会社の関東自動車に出向していた。
しかし、「もっともっといいクルマを!」の掛け声のもと、デザイン改革も志した豊田章男社長より、2011年にトヨタに呼び戻され、デザイン本部本部長に就任。現在も、チーフブランディングディレクターとして、レクサスを含む全トヨタ車のデザインを統括している。
私は数年前、福市氏と一度お話しする機会があったが、「失敗を恐れて守りに入ったら、絶対にダメなんです」という趣旨のことを語られていた。
先代クラウンの逆クリスマスツリーグリルも、そういう攻めから生まれたものだ。あれも万人には受けなかったし、結局新たな顧客層も開拓できなかったが、しかし福市氏の捨て身感は十分伝わってきた。
■現行トヨタ車のデザインを辛口評価
といっても、トヨタ車のデザインがみんなよくなったわけではなく、ダメなデザインも多い。なにしろトヨタはモデル数が多く、幅広い顧客層を持っているから玉石混交。ブランド統一デザインも実行していないし、バラツキが大きいのだ。
そこで、トヨタの主要車種について、簡単にデザイン評価をしてみた。評価は、故・前澤義雄氏(元日産自動車デザイナー)っぽく、「とてもいい」「悪くない」「いまひとつ」「ダメ」の4段階とした。
■ヴィッツ(MC)
顔はアイゴ風で改善されたが、リアは重心を低く見せようとするあまり、とってつけたアーチが浮いている。
大きくなったテールランプの造形も浮いている。現行ヴィッツはフォルムそのものがダメなので、フルチェンジを待つしかない。
評価/「ダメ」
■タンク四兄弟
ハコ型のフォルムを鍛えることなく、安っぽい折り目でごまかしているように見える。
評価/「ダメ」
■クラウン
スポーティに見せるために6ライトに変更したが、それ以外に見るべき部分はなく、逆にバランスを崩してしまった。
評価/「いまひとつ」
■カムリ
ビューティフルモンスターを自称しているが、ぐわっと開いた口(グリル)と、その中のフィンがエグいだけで、フォルム全体はやや凡庸。悪くはないが、特に見るべき部分はない。
評価/「いまひとつ」
■レクサスLS
レクサスLSは、フォルムをスポーティにしただけで、攻めの姿勢が空回りしているように思う。
評価/「いまひとつ」
■プリウス
トヨタの現行モデルのなかで、デザインの評判が最も悪いのは、現行プリウスだろう。
確かにプリウスのフロントフェイスは、ランプ形状があまりにも複雑すぎたきらいはあるが、個人的には、攻めている点に好感を抱いている。
あの顔を斜め上から見ると、歌舞伎の隈取り。そういうところで、日本文化を表現しようとしたのだろう(たぶん)。
顔はともかくとして全体のフォルムを見ると、歴代プリウスのなかでは断然流麗でスピード感に満ちている。明確なウェッジシェイプのサイドビューには、これまでのエコカーの節約イメージはまったくないし、キュッと持ち上がったテールはセクシーさすらある。実を言えば私は、プリウスがテールランプを点灯させた姿が好きなのです。
そんなプリウスだが、主力市場である日本・北米の双方でデザインの評判が悪いため、ついにフツーの顔になってしまう。しかしそのフツーのプリウス、現在に比べると明らかに凡庸で、デザイン的には後退している。これも攻めすぎたゆえではあるが……。
評価/「悪くない」
■アルファード
プリウスに次いでクルマ好きに評判が悪いのは、アルファードの顔ではないだろうか。あれも攻めに攻めている。一度見たら決して忘れられない、蛇女ゴーゴンのようだ。
あのエグさが許せない、景観破壊だという声もあるだろうが、今まで見たことがない驚きに満ちていたことは間違いない。
私はアルファードのあの超絶銀歯グリルも好きだ。クルマのデザインとは、基本的には新しい造形への挑戦であるべきなのだ。
もちろんアルファードを自分で買うことはないし、あの顔にアオられたら気分は最悪だが、しかし凡庸であるよりははるかにいい。
アルファードの顔は、鬼瓦のようなもの。欧米の価値観とは相容れないだろうが、アジア圏では非常に好評だ。アルファードの顔は、確かに新しい世界を切り拓いたのだ。これもまた「悪くないデザイン」である。
評価/「悪くない」
■カローラスポーツ
スポーティに振ってリアガラスの傾斜を強め、ラゲージ容量を犠牲にした割にはカッコよく見えないが、全体のバランスは悪くない。
評価/「悪くない」
■新型カローラセダン
ヴィッツベースで作られた現在の国内向けカローラアクシオ/フィールダーのデザインは、あまりにもやっつけ仕事で安っぽく、どうにもならなかった。マイナーチェンジでデカ口を移植してやや見られるようになったが、しょせんとってつけたエグ味だった。
先日の広州モーターショーで公開された新型のカローラセダンは海外向けで、国内仕様は若干全幅を狭めるなどして登場するが、カローラスポーツ同様、悪くないバランスになると期待される。
評価/「悪くない」
■カローラツーリングスポーツ
セダンに比べると伸びやかでスタイリッシュ。しかし、ラゲージ容量を若干犠牲にしてまでスポーティなフォルムを実現したわりには、それほどスタイリッシュではなく、ほどほどレベルにとどまっている。
発売は、セダンと同時、2019年後半になるだろう。
評価/「悪くない」
■C-HR
C-HRについても、賛否は分かれているが、攻めのデザインである点は同じ。思い切ってアニメ的な造形を取り入れて、未来感を演出しつつ、全体のバランスは良好で、決して取ってつけたようではない。全身でSFアニメ的であろうとしている。力作である。
評価/「とてもいい」
■センチュリー
受け継いできた古臭いモチーフを、見事にモダンに昇華させている。これまでの3代のセンチュリーの中でもベスト。これこそ洗練・熟成のキープコンセプトだ。
評価/「とてもいい」
■シエンタ
このサイズで、実用的な広さの3列シートを持つバッケージングを実現しつつ、顔の隈取りなどのインプレッシブなグラフィックで、とても楽しいデザインに仕上がっている。シエンタをベースに作られたJPN TAXIも、剽軽な味わいがあり秀逸だ。
評価/「とてもいい」
以上、主な現行トヨタ車のデザインを評価してみたが、とてもいいが3台、悪くないが5台、いまひとつが3台、ダメがヴィッツとタンク四兄弟という結果になった。
全車種評価したわけではないが、この結果をみると、マシになったとはいえないようだ……。
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