ルノーのEV先駆者 今でも見た目は古くない
多くの量産車は、そっと寿命を迎える。一般的なモデルライフは6年前後。販売台数のピークは生産終了の数年前に迎え、ディーラーでは話題が減り、後継モデルの準備が水面下で進められていく。
【画像】ルノーのEV先駆者を振り返る ゾエ R110 競合した電動ハッチバック 新型5も 全129枚
欧州全土で約40万台が売れた、ルノーのバッテリーEVの先駆者、ゾエも同じ。既に2023年末で生産は終了している。
ルノー5(サンク) E-テックという後継モデルは、同社のCEO、ルカ・デ・メオ氏が掲げた改革プラン、「ルノリューション」へ先行するカタチで発表され、話題を集めている。4(カトル)とトゥインゴの電動版も、控えているという。
12年もモデルライフが続いたゾエは、フェイスリフトを何度か経たことで、モダンな容姿を維持してきた。すぐに買い替えたいと思うほど、古くは見えない。
クリオ(ルーテシア)の影響を受けた、インテリアのパッケージングも優秀。英国市場で購入できる、最も小型・軽量なバッテリーEVとして、最後までしっかりその役目は果たしてきたといえる。
全長は4087mmしかないのに、車重は1520kgだから、内燃エンジンで走る同クラスのハッチバックより300kg前後重いことは間違いない。それでも、ひと回り大きい電動のSUVと比べれば、数100kgは軽い。
多くの場合、電動SUVは不必要に大きく、われわれには値段が高すぎる。機敏に走るわけでもない。しかし収益性の維持を目的に、各自動車メーカーは積極的に市場へ投入している。筆者には、ゾエが丁度イイ。
過去には英国のベストセラーEVに
自分は、2009年にゾエのコンセプトカーを目撃してから、ずっと高く評価してきた。2012年の発売後、ステアリングホイールを握った時は、仕上がりを称賛せずにいられなかった。
バッテリーEVを所有すること、走らせることを身近なものにした、先駆者だったと思う。シンプルで実用的。ルノーの小さな量産車へ共通する、ユニークなデザインもまとっていた。
ただし、モデルライフは少々長すぎた。既知のクルマとして、最近はAUTOCARのページを飾ることもなかった。そこで筆者は、しっかり「さようなら」をゾエへ伝えるべきだと考えた。
ルノーによれば、英国で売れたゾエは延べ3万台に達するという。協力関係にある日産は、リーフをグレートブリテン島で生産しているが、2015年から数年間はこの国のベストセラー・バッテリーEVに輝いてきた。
今回お借りしたゾエは、R110という仕様。数字のとおり、最高出力は110psを発揮する。駆動用バッテリーの容量は52kWh。この上の仕様として、135psのR135も存在するが、このクルマの場合、スペックの差は印象に大きな違いを生まない。
ロンドンから150kmほど離れた住宅地に住み、定期的に首都へ通う必要がある筆者のような人間にとって、最高のバッテリーEVとは小さなハッチバック。自宅に充電器が設置されていれば、必要なエネルギーは毎晩蓄えておける。
最近の電動SUVより優秀な電費 モダンな車内環境
とはいえバックアップとして、内燃エンジンで走るクルマも1台あった方が安心。充電器の設置環境がわからない、遠くの目的地へ向かう場合も心配が減る。年間での出番は数回かもしれないが、維持費は節約したガソリン代でまかなえる。
そんなアーリーアダプターによる、進化途上のバッテリーEVとの付き合い方を、ゾエは一般化した。実際、セカンドカーとして家庭に普及していった。ところが、実際に所有してみると、ファーストカーとして活躍することも多かったはず。
今回、筆者がしばらくお借りしたゾエは、最寄り駅やショッピングモールまで、元気に走ってくれた。家族や親戚を迎えに行き、送り届けた。少なくとも走行時は、ゼロエミッションで。
不用品を詰めた大量のダンボールを積んで、リサイクルショップにも行った。生活の一部といえた、自宅から100km弱離れた目的地までの往復にも、問題なく使えた。
生産終了間際のゾエは、装備がアップデートされていた。ヘッドライトはLEDで、オートワイパーにオートロックが標準。スマートフォンと連携する、インフォテインメント・システムも装備され、車内環境は至ってモダンだった。
電費は6.4km/kWh。最近の電動SUVより、高効率なことも証明してみせた。
別れが寂しい 運転の楽しい小さなEV
そして、運転が楽しかった。乗り心地は柔らかく、適度に減衰力が効き、古き良きフランス車へ通じる味わい。ロータリー交差点を素早く回っても、大きくボディロールしたり、タイヤが鳴いてアンダーステアへ転じることはなかった。
最高出力は110psでも、最大トルクは22.9kg-mと太く、加速力は鋭い。MT車のようにクラッチペダルを踏んで減速する手間なく、AT車のようにキックダウンを待つことなく、アクセルオンでさっそうと加速する。滑らかで静か、高効率だ。
価格の高い上級ブランドのクルマでも、実際に運転してみたら期待外れということは少なくない。生産終了を迎えても、なんとも思わないモデルも多い。しかしゾエは、お別れが寂しい。筆者の家族も、英国編集部の多くも、そう感じているようだ。
ゾエを返却する日、筆者の家族は玄関口で手を振って、別れを惜しんだ。自宅の前を出発し、少し進んだところで、悔やまれる気持ちになった。ルノーのCEOへ、本当にこの決断は正しかったのか聞いてみたいと考えた。
もちろん、それはナンセンスだ。もし問うなら、数年前であるべきだった。後継モデルの計画は、3年以上前に知られていた。もしかすると、ゾエの正当な2代目の計画も、存在したのかもしれない。筆者へ強く響く、小さなバッテリーEVだった。
ルノー・ゾエ R110 ZE50(英国仕様)のスペック
英国価格:−ポンド
全長:4087mm
全幅:1730mm
全高:1592mm
最高速度:135km/h
0-100km/h加速:11.4秒
航続距離:384km
電費:7.2km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:1520kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター
バッテリー:51.5kWh(実容量)
急速充電能力:−kW
最高出力:110ps
最大トルク:22.9kg-m
ギアボックス:1速リダクション(前輪駆動)
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