5月30日に発売された新型「カタナ」。ただし1981年から2000年まで生産されたかつての「GSX1100Sカタナ」とはコンセプトもメカニズムも異なる、まったくのニューモデルである。スズキがこのタイミングでこうしたモデルを市場に投入したのは昨今の“ネオクラシックブーム”を受けてのことだ。
過去の名車をモチーフにしたこうしたモデルを評価する際には2つの軸があると思う。
(1) は純粋なオートバイとしてのパフォーマンス。
(2) は元ネタの再現力および表現力。
スズキ KATANA(カタナ)、19年ぶりに日本市場復活へ!
ネオクラシックはそっくりそのままの“レプリカ”とは違う。すでに不動の名声を得ているオリジナルが持っていた個性や雰囲気、あるいはメカニズム的特徴を抽出し、現代のコンポーネントで巧みに再現してこそ優れたネオクラックバイクといえる。実質的にはまったくのニューモデルであっても、誰もが知る名車からの継承を謳うことで販売力を高めるというのが商品上のポイントだからである。
そういう意味において、新型カタナはこれしかないという商品企画だ。ホンダCB、ヤマハXS、カワサキZとくれば、スズキは当然カタナだ。ベースとなっているのはスーパースポーツ、GSX-R1000のコンポーネントを用いたストリートスポーツとして定評のあるGSX-S1000。リーズナブルな価格も魅力のモデルだが、新型カタナはハードウェアをほとんど共有しながら、約40万円も高い151万円という値付けがなされている。この辺りにスズキがカタナをラインナップした真意も何となく見えてくる。
(1) についてはまだ乗っていないので何とも言いようがない。ただ、基本部分がGSX-S 1000と同じらなきっと悪いはずはないだろう。
エンジンは2005~08年のGSX-R1000に採用されていた998cc水冷直列4気筒DOHC4バルブ。このエンジンはスーパースポーツ用のエンジンとしては低回転域からトルキーで扱いやすく、現在でも評価が高い。新型カタナにはGSX-S1000と同様、カムプロフィールを変更するなどしてストリート向けの出力特性にモディファイされたものが搭載されている。最高出力は109Kw(148PS)/10000rpm。しばらくオートバイから遠ざかっていた人なら驚くだろうハイパワーだ。
また、発進時や低回転走行の際に自動的にエンジン回転数の制御を行う「ローRPMアシスト」という機構を採用する。これはスムーズな発進やUターンを可能にするとともに不意のエンストを予防するシステムだ。このクラスのオートバイではいまや当たり前となったトラクションコントロールシステムも装備される。
メインフレームもGSX-S1000と同じ軽量・高剛性なアルミフレーム。GSX-R1000譲りのアルミスイングアームはスズキ初のターンシグナル付スイングアームマウントリアフェンダーを取り付けるため一部を変更している。以前、GSX-S1000に乗ったときの印象は、パワフルでありながらどの速度域でも扱いやすい、バランスの良いオートバイだった。新型カタナもそれに準じたものだと思う。
気になるのは(2)だ。発表された新型カタナを見て、正直、私はかなり違和感を持った。カッコいい、カッコ良くないといった個人的な好みの話はさておき、カタナらしさを感じなかったのだ。燃料タンクのシャープなプレスライン、くさび型のフロントカウル、半月型のフロントフェンダー、そして角型のライト……オリジナルのカタナを思わせる分かりやすいディテールは随所にあるが、全体から受ける印象があまりに違い過ぎる。
オリジナルのカタナのスタイリングの原案は工業デザイナー、ハンス・ムート率いるドイツの「ターゲットデザイン社」によるものという話はよく知られている。開発記などを読むと、オリジナルのカタナはデザイナーが描いたイメージスケッチを最大限に尊重し、デザイン先行のプロセスを経て具現されたオートバイであったことが伺える。じっさい1980年に登場したGSX1100S カタナは過去・現在のどのオートバイにも似ておらず、隅々まで徹底した理想主義が貫かれていた。そのデザインは当時のトレンドとも無縁で、あの時代に想像された未来像、いわゆる「レトロフューチャー」というべきものだった。
そのいっぽうで、メカニズムはあくまで当時のビッグバイクの潮流にならったオーソドックスなものだ。空冷エンジンに鉄フレーム、2本のサスペンション……。根幹をなすコンポーネントはベースとなったGSX1100Eと同じである。そういう点で、かつてのカタナはスポーツモデルというより“高速ツアラー”という色が濃かった。対する新型カタナは俊敏なスプリンター的プロポーションを持ち、その走りのキャラクターも異なっている。
じつはカタナのネオクラシック化というのは過去にも一度行われている。1984年に登場したGSX750Sカタナ。いわゆる3型といわれるモデルだ。当時は不評のようだったが、いま見るとリトラクタブルライトの採用などによってくさび型をさらに強調し、モノショックや角パイプダブルクレードルフレームなどの新しいメカニズムと融合させていた秀作だった。
現在の3D CG技術と高度な生産技術を駆使した、手が切れそうなほどシャープなくさび型、個人的にはそんなぶっ飛んだデザインの新型カタナを見てみたかった。
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