いまのクルマ業界、面白いことに主義主張が微妙に分かれ始めている。例えば「脱ディーゼル」に対する欧州プレミアムの動きだ。
世界的スキャンダルとなった2015年のディーゼルゲート事件以来、欧州メーカーは脱ディーゼルに舵を切ったというもっぱらの噂だった。特にVWはディーゼル代わりの電動化に必死。来年にはフル電動車のI.D.シリーズを、欧州を皮切りに発売する予定だったりもする。
しかしウラハラにVWはもちろんメルセデス、BMWなどドイツ勢は排ガス浄化性能を高めた新世代クリーンディーゼルを次々発表。VWは昨年尿素を使った浄化システムだけでなく、高圧&低圧EGRシステムも合わせた新ディーゼルエンジンを日本向けパサートやティグアンに追加搭載してきたし、メルセデス、BMWも同様。ドイツ勢はディーゼルを完全に諦めたわけではないのだ。
今後の欧州CO2規制はますます厳しくなり、パワフルな大型車を持つブランドほど燃費のいいクリーンディーゼルを手放せない。電動化を進めつつ、ディーゼルもギリギリまで使う。ある種の二枚舌作戦がそこには存在するのだ。
一方、ドイツ御三家を追撃中のボルボはより踏み込んだ脱ディーゼル戦略を展開している。もちろんこちらも90シリーズやXC60と言った大型車はディーゼルを完全に捨てきれない。
しかしそれ以下のミディアムクラス、V60以降はディーゼルを廃止。日本法人の木村隆之社長は「ディーゼル車は燃費以外にもいいところが沢山ありますが、5年後に売った時に下取りが『ゼロですよ』とか『ディーゼルだから取れません』となるのはプレミアムブランドとして絶対やってはいけないこと。だから早めにディーゼルを絞り込もうという決断に至ったのです」と言う。
代わりに打ち出したのがパワフルかつ燃費のいいPHV(プラグイン・ハイブリッド)戦略。ボルボで言うT8ツインエンジン、T6ツインエンジンの両グレードで、現在90シリーズを中心に儲けられているが、今まではベース価格プラス200万円以上とべらぼうに高かった。しかし、ここに来て価格差100万円チョイで補助金を使うと考え方次第では約15万円差のグレードを発表。それが追加発売のボルボV60T6モメンタムなのである。
去年の秋にボルボは日本待望のステーションワゴンモデル、新型V60を発売。3年前のXC90、2年前のXC60、去年のXC40と流行のSUVばかり目に付く新世代ボルボだが、ボルボと言えばやはりワゴン! 新世代プラットフォームたるSPAを使ったV60の威力は凄かった。
エレガントかつ堂々とした北欧デザインや高い品質感だけじゃない。サイズが圧倒的。全長×全幅×全高は4760×1850×1435mmで、旧型に比べ、長さは増したが横幅は削減。日本でも扱い易くなっているのだ。それと同時に肝心のラゲッジ容量は529リットルに拡大。かつての定番ボルボワゴン、V70より狭いがライバルたるメルセデスのCクラスステーションワゴン、BMW3シリーズツーリングより広い。見た目カッコ良くて幅狭め。それでいて荷室たっぷりのティピカル・ワゴンコンセプトが良かったのだ。国内でも順調に好セールスを重ねており、さらに安全装備フル装着で499万円という500万円切りの価格戦略も良かった。V60はカッコ良くて便利で安かったワケだ。
ところがこれに設定されていたPHVグレードのT8インスプリクションは829万円で、T6インスプリクションは759万円。ぶっちゃけ最低でも260万円は高いわけでそうそう売れなかった。
しかしここに来て659万円のT6モメンタムを発表。ガソリンエンジンのT5モメンタムと比べると価格差160万円だが、装備豊富なT5インスプリクションと比べると、60万円差で、45万円ほど出る補助金を入れるとわずか14万5000円差。要するに豊富な装備を取るか? クリーンでパワフルなPHVを取るか? の二者択一のところまで来ているのである。
改めてV60 T6ツインエンジンに横浜で試乗。走行用リチウムイオンバッテリーがフル充電の状態で発進したがもちろんモーター単独ゆえ超静かかつスムーズ。
ちなみに2つあるPHVモデル、T8ツインエンジンAWD、T6ツインエンジンAWDの違いはフロントに搭載している2リッターターボの出力が318psか253psかだけ。フル充電状態からはリアタイヤに直結した87psの電動モーター単独で走るので初期の電動加速はどちらも一緒。
で、一瞬車重1.9トン台だけに「87psじゃ足りないだろう」と思いきや、街中を普通に走る分にはまったく問題ない。クビを痛めそうになるテスラ・モデルSのフル加速には負けるが、アクセルを踏んだとたんにスっと出る。さすがに走り始めに最大トルクを出す電気モーターだけはある。
ところが87psだけに高速に走ると今ひとつ伸び悩む。ボルボのツインエンジンは基本EV加速を優先する「ピュアモード」、燃費を最優先する「ハイブリッドモード」、加速を最優先する「パワーモード」ほかと5つのドライブモードが選べるが、特にピュアモードでアクセルを少し踏んでいるだけだと物足りない。
だが、それなりにペダルを踏み込むとピュアモードでも途中でエンジンがかかり、340psの最大パワーを発揮。コイツが非常にきもちいい。エンジンパワーの繋がりは滑らかだし、音も悪くない。自然な2段ロケット感覚が味わえる。
一方、アクセルオフするとすっとエンジンが止まる。こちらも滑らか。そしてハイブリッドモードにすると、確かに多くエンジンがかかり、電動パワーとより一体化する。
なんというかエンジンパワーがターボのように使えるボルボなのだ。そしてピュアモードはフル充電状態から約30km走ると電気が切れてハイブリッドモードになる。この当たりは正直、60km程度走れるプリウスPHVなどと比べると賞味期限は短い。
ってなわけで勝手なる結論。T6独自の透き通った電動感覚は気持ちいいし、電池をセンターコンソールに置くボルボレイアウトのお陰で実質的に車内が狭くならないのはいい。
だが、同じ100万円なら普通は装備充実に使ってしまう気がする。T5インスプリクションの本革シートや快適装備は魅力的だからだ。
よって本気でPHVを買う人は260万円高のT6インスプリクションを買ってしまうのではないか。やはり本気で脱ディーゼルに踏み込めるのは、お金に余裕がある潔癖症のリッチマン。そういう人から始まる気がするし、それはボルボユーザーに多いのかもしれない。
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