東芝は、規格策定中の次世代無線LAN (IEEE 802.11ax) のドラフト規格に対応したアクセスポイント向け1チップICを開発した。本技術の詳細を、米国・サンフランシスコで開催される半導体回路国際会議「ISSCC2018」にて、2月14日(現地時間)に発表した。
IEEE 802.11axとは、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc)により策定が進められている無線規格。対応する周波数は2.4GHz帯および5GHz帯。端末が高密度で存在する環境において平均スループット向上を目的としている。
IoTの普及により、多数の無線LAN端末が存在する環境でも高速通信を実現することが求められている。次世代無線LAN(IEEE 802.11ax)では、アクセスポイントが端末を中央制御することで端末同士の衝突を避けて複数端末の同時通信が可能なマルチユーザ伝送技術により、現行世代と比べ通信が混在した環境においても4倍以上の高速通信を可能にする。
しかし規格に準拠した通信を行うには、回路の低雑音化が必須だった。また、多数の無線LANが混在する環境においては、お互いの通信が混ざり合い、通信の品質が劣化する(干渉)という問題があった。そこで東芝は、低雑音動作と通信の干渉を回避する技術を開発し、この問題を解決した。
一つ目の技術は、雑音による誤差を補正する回路。
無線通信を行う際は、ふたつの信号系統(同相成分と直交成分)を用いてデータを送受信する。同相成分と直交成分に異なる誤差成分が存在すると、データを正常に受信できなかった。誤差成分には、「振幅誤差」と、「位相誤差」のふたつの成分があり、従来の補正技術では、「振幅誤差」の周波数依存成分を補正することは困難だった。
そこで、新規に開発した補正技術では、「振幅誤差」と「位相誤差」を含んだ信号を受信する際にわざと同相と直交の軸を回転させ、誤差成分を「位相誤差」のみにすることで、簡単な回路で高精度な補正を実現した。
二つ目は、干渉源検出回路。
無線LANが通信を行う周波数には、電子レンジやBluetooth、監視カメラなど多数の電波が存在し、干渉の原因となっていた。そこで干渉のもととなる電波の種類を判別する回路を搭載し、従来検出が難しかった高機能な電子レンジなどの干渉源をすばやく判別することに成功した。
この技術を応用することによって、干渉源が少ない周波数を短い時間で見つけ出し、より高品質でつながりやすい無線通信を行うことができる。
東芝は、これらの技術を搭載した4x4 MIMO対応の1チップICを開発し、IEEE 802.11axに必要な送受信特性を実現した。本ICに搭載のマルチユーザ伝送による衝突回避や干渉認識は、高信頼化が求められる産業用途に必須の機能になる。
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