憧れの【公道最速】は遠きにあり…
text & photo:Kouzou Ebizuka(海老塚 構造)刻々と表情を変える路面状況の中、サーキットのようなエスケープゾーンもない一般公道を全開走行で駆け抜ける、スペシャルステージ(SS)形式のラリー競技。
【公道最速】といわれるその走りには憧れるが、実際に一般公道でそんな走りをすることは法律的にも倫理的にも許されることではない。それこそラリーにエントリーでもしない限りは……。
7月14日の日曜日の早朝、筆者は山奥のワインディングを雨と濃霧のなか走り続けること約3時間、群馬県藤岡市の桜山森林公園にいた。前日の13日と本日14日の2日間にわたって、この公園内の道路を通行止めにして、SSっぽいヒルクライム走行会が行われているということを聞きつけ、取材にやって来たのだ。
【ラリーっぽい】走り 合法的に体験できる機会を
このイベントを主催するのはモータースポーツ・イベントのコンサルティングや参戦サポート、レースパーツの輸入販売などを行っているテルゾマルムラ。
代表の高橋巧氏は200戦を超すラリーにコ・ドライバーとして参戦経験を持つラリーストだ。今回のイベントは自身の経験も踏まえて「ラリーに興味を持っているクルマ好きに、ラリーっぽい走りをお手軽かつ合法的に楽しんで欲しい」との思いで企画したという。
しかしながら開催までの道のりは容易ではなかったという。桜山公園内の駐車場には【ドリフト走行禁止】の看板が立つように、周辺住民の自動車イベントへの印象は決して良いものではなかった。
2日間エントリーの方が安い
そうした中、管轄の警察や地元自治体、そしてなにより地域住民との粘り強い折衝を続け、イベントによる地元経済の活性化という共通の認識を得ることができたことによって、藤岡市観光協会の後援のもと、ようやく開催に至ったという。
そういった経緯もあり土曜日に習熟走行を行い、その晩に地元の旅館に宿泊、2日目に本番走行というスケジュールでイベントは開催された。
なお、「地元への貢献」という主旨から、日曜のみに参加する場合のエントリーフィーは高く設定されている。
深い霧と雨の中、林道を全開アタック
集合場所と聞いていた公園内の駐車場で待っていると、エントリー車両がやって来た。
てっきりランサーとインプレッサの一団とばかり予想していたところに、プジョー106にシトロエン・サクソ、アルファ147にランチア・デルタと、なぜか欧州車の比率が高めだ。
そこへ続いて入ってきたのはIMSA仕様のSA22Cマツダ・サバンナRX-7?…に見まごうスタイルのNAロードスターだった。
ブリーフィングでは一般車通行止め区間以外での交通法規の遵守や、クラッシュなどで生じた道路設備の破損などの原状回復などの弁償は各自の自己責任、あくまでも「ラリーっぽい走りを楽しむ走行会」なので、オフィシャルはタイム計測は行わないといった説明が行われた。
なお、イベント中の事故には通常の任意自動車保険は適用されないため、各自が競技用保険に加入している。
雨音の中に、エグゾーストノートが
これがサーキット・イベントならば中止であろうという霧と雨の中、筆者は道沿いの繁みからカメラを構える。
しばらくすると雨音の中にエグゾーストノートが混じり、その音がもっとも高まったと同時に、霧に霞む林道の奥にライトポッドの光が浮かび上がった。
狭い道の路肩には落葉や小石が溜まり、川のように雨水が流れているなど、かなり酷いコンディションであるにも関わらず、エントラントたちはかなりのペースでコーナーを駆け抜けていく。
節度あるアタックで、安全に楽しむ
ただし、あくまでもこれはラリー“ちっく”な走行会で、通行止めになっているとはいえ公道での走行だ。エスケープゾーンもなく、コースオフすれば崖下にまっしぐらという場所もあるため、エントラントのドライビングにも“節度”が求められる。
今回は道路の使用許可が下りたのがイベント直前だったという事情もあり、告知期間が短かったため、参加台数は決して多くなかった。
しかしながら地元の方々のおもてなしと、走り応え満点の公道での全開走行にエントラントの満足感は高かったようだ。テルゾマルムラでは今後もこのような走行会を検討しているとのことなので、さらなる盛り上がりを期待したい。
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