その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第25回はランクル300こと、14年ぶりのフルモデルチェンジを行ったトヨタランドクルーザーです。お話を伺ったのはトヨタ自動車株式会社Mid-size Vehicle Company BR LC製品化室 主幹の井上 徳人(いのうえ・のりと)さん、クルマ開発センター 車両技術開発部 第2車両試験課 シニアエキスパートの山田 太郎(やまだ・たろう)さん、クルマ開発センター パワートレーン製品企画部 主査の生駒 卓也(いこま・たくや)さん、そして凄腕技能養成部 FDチームグループ GXの大阪 晃弘(おおさか・あきひろ)さんの4名の方々です。
信頼性、走破性の部分は譲れない
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写真左から山田さん、井上さん、生駒さん(大阪さんはインタビュー途中から参加のため写っていません)
島崎:自分で言うのもおかしいですが満を持してと申しましょうか、実はやっと試乗が叶いました。試乗車のご案内はいただいていたのですが「防犯対策としてハンドルロック、タイヤロックを付けて貸し出します」とあり、少し恐れおののいていたこともありまして。このクルマならではの対応だと思いました。そんなランクルも今年70周年を迎えたのでしたね。
井上さん:はい。今回のクルマは70年で培ってきた信頼性、耐久性、悪路走破性をしっかり継承・進化させた上で、時代に合わせて、フラッグシップらしく運転しやすく疲れない、そういう乗り味をアドオンすることを目指しました。
島崎:今はひと口にSUVといってもいろいろなタイプやクラスのモデルがありますが、その中でのランクルの立ち位置は揺るぎないように見えます。一番の強みは何ですか?
井上さん:やはり信頼性、走破性の部分は譲れない。そこが一番だと考えています。
山田さん:SUVがいっぱいある中でも、ランドクルーザーは世界的にも“本当に厳しい環境の中でも生きて帰ってこられる”が売りなんです。あえてディーゼルとガソリンで勝負しているのは、川も渡るし、とにかく過酷な中で鍛えられてきたクルマだからということもあります。
島崎:生きて帰ってこられる。もっとも大事なことですね。
山田さん:日本国内でもキャンプ場や山の中の営林所など、ランクルでなければ行けないところがたくさんあります。
島崎:昔からそういう用途で使われてきましたね。
ドライバーにも乗っている人にも優しくなった
山田さん:さらに新型では、オンロードでの快適性も今までより大幅に進化させています。
島崎:それは何かキッカケがあってのことですか?
山田さん:お客様の声でした。
井上さん:私たち自身もオーストラリアなどへ乗りに行き、運転に気を遣う、思ったような操作に対してクルマが少し遅れてくるとか、そういったことを長時間続けているとやはり疲れることがあるな、と実感していました。
山田さん:快適性といっても、ドライバーを疲れさせない、という意味もあります。
大阪さん:一番売れているのが中東、オーストラリア、ロシアなどで、本当に厳しいところで鍛え上げられて、国内でも過酷なところで活躍している、そういうクルマです。長時間走って目的地へ行くまでに疲れてしまう……そんなお客様の声もあったので、新型は快適に移動できて、ドライバーにも乗っている人にも優しくなった、そこが特徴だと思います。
島崎:仕向け地ごとに足回りなどのスペックは作り分けているのですか?
井上さん:共通でやっています。タイヤが少し違うくらいです。
日本では想像もつかないようなとんでもない路面での性能も確保
島崎:ランクルというと僕は80や100の頃に、仕事仲間のカメラマンたちが意気揚々と乗っていた時代のイメージが強くて、よく横に乗せてもらいましたが、きょう試乗して、当然時代分の進化は感じるのですが、同時に「ああ、ランクルだなぁ」と感じる安心感、世界観は変わらない気がしました。そういったことは、開発の皆さんも意識されているのですか?それとも無意識のうちにですか?
生駒さん:言葉で言い表すのは難しいですが、やはりクルマから伝わってくる安心感は継承するように性能は作り込んでいます。ランクルだったらどこにでも行ける、命を預けてもいい……そういったところを大事にしています。
井上さん:世界にある日本では想像もつかないようなとんでもない路面での性能も確保しています。その結果、街乗りでも同じような乗り味をご体感いただけているのかなぁと思います。
島崎:ディーゼルエンジンも昔と較べると、まるでハミングしているような静かさですよね。パワー感も洗練されていますが、レスポンスにしても、乗り手の身体に馴染む穏やかな間合いがいいですよね。
大阪さん:国内では久々に出したディーゼルなんですが、本当に粘りがあり、トルクフルなところは街中や首都高などでも感じやすいと思います。
島崎:昔は走れる領域が狭かったですが、今はどこでもまったくフレキシブルですね。
大阪さん:そこは進化したところです。
生駒さん:やはりATの使い方で、しっかりトルクの出ているところを自由に味わっていただくために変速を変えたり、ガソリンと違って回転数を上げずにトルクで走れるようにしてあるのが今までのディーゼルとの違いです。
スイッチや操作系が壊れない、ブラインドタッチもできるのがランクル基準
島崎:それと、ボディは非常に大柄ですが、運転しやすく、扱いやすいのは、何か秘訣があるのですか?
山田さん:車両感覚が掴みやすいよう、人間工学的に見切りなども十分に検討していますし、オフロードへ行った時にクルマの傾きがわかるように、室内の水平基調にも重点を置いています。
島崎:ああ、大事ですよね。歳を重ねてくると、普通に歩いているだけでも水平がわからなくなることがありますからね。
トヨタの皆さん:……。
大阪さん:実はTNGAの思想が入っていまして、今のトヨタ車はすべてそうですが、ドライビングポジションも、自然に座れるヒップの角度、ステアリングの角度、リラックスして足が乗せられるフットレストなども作り込んでいます。大きいクルマですが予見性があるところを重要視しています。
島崎:確かに走り始めた瞬間に、まるで自分のクルマのように馴染めました。
トヨタの皆さん:それはよかったです。
島崎:それと僕が激しく声を大にしていいなと思ったのは、インパネまわりに物理スイッチがたくさん残されていることです。センターコンソールなどパネル色が黒なので、往年のサンスイやマッキントッシュのオーディオアンプみたいで、こういう風にスイッチが並んでいるとホッとします。
山田さん:やはり直感的に操作できる、快適に走る、安心して走る、疲れないで走るということに重きを置き、配置も考えています。ただソフトスイッチを否定する訳ではなくこれからはそういう時代でもあるのでチャレンジは考えています。
生駒さん:開発中もオフロードを走行中に手がここに来るからここにスイッチがなければ駄目だ……ってやっていましたよね。かなり時間をかけて開発していましたよね。
大阪さん:ブラインドタッチができなければ……。
島崎:物理スイッチを守り抜いていただいてもまったく構いませんけれど……。
大阪さん:トヨタブランドの中でもランクルには開発陣の中でも別格のランクル基準がある。スイッチや操作系も壊れない、ブラインドタッチができるという風に。
井上さん:手袋をしていても押せるように少し大きめにしてあります。ソフトスイッチは手袋をしていては出来ませんので。
島崎:100円ショップで手袋を買ってきて自分で指先をカットすればできるかもしれませんが。
トヨタの皆さん:苦笑。
ちょっとぐらいなら壊れない
島崎:ところでランクルというと、ユーザーの方からはどんな声があるのですか?
井上さん:5大陸を走破するプロジェクトがあったのですが、どこへ行っても「新型はいつ出るんだ?どうなるんだ?次のエンジンは何なんだ?」と訊かれました。14年ぶりのマルモ(注:フルモデルチェンジのこと)ということで、やはりランクルへの期待度の大きさは肌で感じました。
生駒さん:エンジンに水、泥が入ってしまうということがあるので、ランクルではシール系を2重ではなく3重にして使うなどして壊れないようにし、お客様の期待に応えるようにしています。
大阪さん:エンジンが止まったら帰ってこられませんから。
島崎:我が家の場合、べつにそのまま帰ってこなくてもいいと家内に言われるかもしれませんが……。
トヨタの皆さん:いやいや……。
大阪さん:本物感ですね。
島崎:その意味でいうと、ずいぶんと下までボディ色で、オフロードで大丈夫かしら?とも思ったのですが。
井上さん:試乗車されたのはエアロに振ったZXグレードでしたが、標準のVXグレードでいうとアングル類(注:32度のアプローチアングルと26度のデパーチャアングル)は、最強と呼ばれた80以来、代々同じ数値を維持しています。黄金比です。凹凸の激しい岩石のあるような場所でも対応できます。ZXもオンロードに振りつつも実は24度を確保しており、中東などの砂漠レベルであれば問題ありません。
島崎:傷付けたり破損させたら残念だなぁ……、という気もしますが。
大阪さん:ちょっとぐらいなら壊れないという考え方がベースにはあります。
どこへでも行けて生きて帰ってこられる陸の王者
山田さん:オンロードとオフロードの考えで、オフロードのトップモデルはGRスポーツで、このモデルはサスペンションもオフロードに特化しています。
島崎:どう違うのですか?
山田さん:スタビを電子制御でシームレスに切り替えられるようにしてあり、オンもオフもと開発しています。もちろんメカの耐久性は徹底的にやっています。
大阪さん:泥濘地なら足を思いきり動かして走り、我慢しなくてもワインディングも走れます。切り替え感なしにシームレスにできます。それと水深700mmまで行けます。
島崎:試乗車に乗りながら、陸の何だろう……と考えていました。
大阪さん:陸の王者です。北海道の雪道を走っていても本当に安心感があり、どこへでも行けるからです。
井上さん:プラットフォームを一新しましたが、信頼性、耐久性、悪路走破性の3本柱でやり、ラダーフレームをしっかり作り、サスペンションの見直し、軽量化、低重心化もやりました。ボディパネルはドア、ボンネット、フード、ルーフをアルミにし、全体を軽量化しながらクルマの上のほうを軽くしたことで低重心化にも効きました。
島崎:スチールではなくアルミでも、修復に不都合はないですか?
井上さん:弊社サービスのメンバーとも、この形であれば修理はできるね、と話はしております。それと機能美のランクルの特徴で、横から見たアングルだけでなく、実はクルマは3次元的に動いていくので、ぶつけやすい“カド”も切り上げてあったり、ヘッドランプをできるだけ高く置きダメージを受けにくくするなど配慮しています。それとインテリアでは、先ほども話が出たとおりインパネをとにかく水平にし、クルマの傾きが直感的にわかるようにしているところは基本です。
島崎:オフロードでも自分の眩暈のせいではなく、クルマが傾いていることをしっかり把握できる……ということですね。信頼性、耐久性、悪路走破性の確保と、どこへでも行けて生きて帰ってこられるということを改めてお聞きして、それこそ今の時代のクルマとして根源的で大事な条件だな……とも感じました。いろいろなお話をお聞かせいただき、どうもありがとうございました。
(写真:島崎七生人)
※記事の内容は2021年11月時点の情報で制作しています。
※対象は、こちらのバナーから審査をしていただいた方で初回引き落としが確認取れた方。また、新規申込みの方(申込み期限は2021年12月31日まで)
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