1955年に発表されたトヨペット・クラウンから、クラウンの歴史は66年を数える。この長い歴史のなかで、5代目クラウンの最上級グレードとして初導入されたのが「ロイヤルサルーン」だ。
クラウンといえばロイヤルというイメージが強くあったが、現行型ではグレードが刷新され、ロイヤルは廃止されてしまった。廃止の背景には、何があるのだろうか。ロイヤル廃止から見えてくる、クラウンに起きた変革と、クラウンからロイヤルが消えた功罪を考えていく。
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文/佐々木亘
写真/編集部、TOYOTA
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王冠=クラウンに相応しいグレード名「ロイヤル」
写真は先代モデルのクラウン・ロイヤル。現行型ではロイヤル/アスリートの種別が廃止されたため、クラウン・ロイヤルとしては同車が最終モデルとなった
1970年代、クルマのグレード名といえば、「デラックス」「スペシャル」「スーパー〇〇」が主流であった。クラウンでも、「スーパーサルーン」や「デラックス」といったグレード名が採用されている。
こういった時代に、5代目クラウンで初採用されたロイヤルサルーンは、クラウンという車名から生み出された、珠玉のグレード名であろう。
ロイヤルは「王室の」、「国王の」といった意味の形容詞である。サルーンはフランス語のサロンを語源とした英語で「大広間」、「広い客間」の意味だ。つまり、ロイヤルサルーンは、「国王の大広間」という意味になる。もちろん国王は、王冠(クラウン)をかぶっているわけだ。
非常にキャッチーかつ、威厳のある「ロイヤルサルーン」というグレード名は、6代目以降のクラウンでも使用される。大排気量のエンジンや広い室内、高級を肌で感じるインテリア、柔らかで快適な乗り心地を実現し、日本車の最上級に君臨し続けるクルマとなった。
マジェスタ・アスリートの登場で変わった潮目
写真はマジェスタの最終モデルとなった6代目クラウンマジェスタ。マジェスタは、通常のクラウンより大型化された最上級モデルとしての役割を担っていた
1991年、9代目クラウン登場と同時に発表されたのが、クラウンマジェスタである。クラウン・ロイヤルよりも、大きな車体と大排気量のエンジンを搭載し、実質的に最上級のクラウンとなった。さらに、11代目ではスポーツモデルのアスリートを登場させる。次第にロイヤルの影は薄くなっていった。
1990年代後半から、クラウンは伝統を重んじながらも、変革を始めた。伝統という言葉の裏には、「おじさんのクルマ」、「新鮮さがない」というネガティブな意味が含まれる。このイメージを背負ったのが、歴史の深いロイヤルだった。
この変革で、最も注力されたのは、クラウンから興味が薄れた若年層に対しての、イメージ回復である。つまるところ、ロイヤル路線からの脱却だ。
写真は、クラウン誕生60周年記念特別仕様車 アスリートS "空色edition"。14代目から、ピンク、空色や若草色のボディカラーが追加され、クラウンのイメージを大きく変えた
ロイヤルの最終系になる14代目クラウンが登場すると、アスリートを中心に、グレードを充実させ、ピンクや若草色などのボディカラーを設定する。CROWN Re BORNを掲げイメージを大きく変えた。クラウンの主役はアスリートが担うようになり、ロイヤルはクラウンのメイン路線から外れてしまう。
そして15代目で、ロイヤルの名前は消え、クラウンは新たな方向性へ舵を切る。
日本の高級車を具現化した「クラウン・ロイヤルサルーン」の価値とは
5代目クラウンで初採用されたロイヤルサルーンは、クラウンという車名から生み出された珠玉のグレードである。大排気量エンジン、高級を肌で感じるインテリアかつ広い室内を持つ
クラウンのライバルになる高級セダンといえば、メルセデスEクラス、BMW 5シリーズ、アウディA6、レクサスではGS(生産終了)などが思い浮かぶ。どのモデルも、上質な造りと、ガッシリとした走りの良さが印象的だ。スポーツセダンという言葉がよく似合う。
クラウンも、これらのライバルに近づこうと、大幅なアップデートをおこなってきた。結果として、現行の15代目クラウンでは、柔和な乗り味(ロイヤルサルーン)を一新し、「ニュルブルクリンクで鍛えた走り」を前面に押し出している。
確かに若者受けは良さそうだが、クラウンが欧州車のような乗り味になる必要があったのか、筆者は疑問に思う。
15代目クラウンから柔和な乗り味を一新し、欧州車やレクサスのような走りの出来るスポーツセダンを目指した。それにより、ロイヤル、アスリート、マジェスタが廃止された
クラウンはアウトバーンを走行するわけではないし、荒れた石畳の上を走るわけでもない。ほとんどは最高速度100km/h程度の高速道路を走り、日本の綺麗な舗装路面の上を駆ける。日本の道を、穏やかな速度域で使用するからこそ生み出された、柔らかく心地よい乗り味は、クラウンの美学だったのではなかろうか。
欧州車と乗り味で勝負する役割は、レクサスが担ってくれるはずだ。クラウンはロイヤルサルーンのように、もっと日本車然としていたほうが「らしさ」が出ると思う。足は柔らかく、ハンドリングは穏やか、ボディロールもゆったりとしているほうが、クラウンらしい。
ロイヤルを廃止したクラウンは、これまで積み上げてきたクラウンブランドを手放してしまったように感じる。同時に、クラウンからロイヤルが消えることは、日本の伝統文化が一つ消えてしまうのに近い。伝統文化は守り、受け継ぎ、残していく必要があるのではないだろうか。
欧州車とは別次元の高級を体現してきたのがクラウンだったが、ロイヤル廃止後、その独創性は薄くなった。クラウンからロイヤルがなくなり、日本のクルマ全体的にも、日本ならではの特徴が少なくなっている。
グローバル化が進み、日本の外で販売されるクルマも多い。日本市場に腰を据えて作られるクルマは、数少なくなってきた。
こういったなかでも、少なくとも日本のために作られるクラウンには、しっかりと国内を見続けて欲しいと思う。日本が培ってきたクルマ文化をなくさないように、ロイヤルがなくなった後も、クラウンには日本らしいクルマ作りを、期待したい。
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みんなのコメント
クラウンが残っているだけでも国産高級セダンにこだわるる人にはありがたいことだと思います。また、公用車としてもも欠かせない存在です。