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“ワーゲン・バス”の復活──フォルクスワーゲンID.BUZZ試乗記

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“ワーゲン・バス”の復活──フォルクスワーゲンID.BUZZ試乗記

フォルクスワーゲンの「ID.BUZZ」に、モータージャーナリストの小川フミオがデンマークで乗った。街中で大注目だった最新ミニバンとは?

全長は約4.7m

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ミニバンに乗るのはなんとなく気がひけてしまう。そんなひとでも、これなら乗ってみたい! と、思われるのが、フォルクスワーゲンのID.BUZZ(アイディーバズ)だ。

自動車界のアイコンともいえる、タイプ2(通称:ワーゲンバス)をピュアEV化して現代によみがえらせたモデルである。2022年8月にコペンハーゲンで乗った現車の走りはよく、そして大いに目立った。見る人が「おっ!」と振り返るのだ。

ID.BUZZは、車名にあるとおり、ID. シリーズというフォルクスワーゲンのピュアEVシリーズの1台。これまでハッチバックやクロスオーバーなどのボディバリエーションが登場したID.シリーズにあって、キュートかつ実用的という個性では飛び抜けている。

フォルクスワーゲンがジャーナリスト向けに試乗機会を提供してくれたのは、2022年8月。舞台はデンマークのコペンハーゲンだった。空港そばの会場に、黄色やオレンジの塗り分けをもった車体が、ずらりと並べられていた。見るだけで楽しい気分になる。性能とか走りとかそういうことが気にならなくなるほど秀逸なデザインだ。

とはいえ、性能面も妥協はナシ。150kWの最高出力と310Nmの最大トルクを持つ電気モーターをリアに搭載した後輪駆動だ。77kWhと比較的容量の大きなバッテリーで、満充電時に423kmの航続距離を持つ。

フォルクスワーゲンでは、カリフォルニア・ヒッピー文化の象徴的存在であり、日本でもいまもファンが多いタイプ2(タイプ1はビートル)の再来といったイメージを強調する。ボディはタイプ2より拡大し、全長4712mm、全幅1985mm、全高1927~1951mm(グレードによって変わる)と、余裕あるサイズとなった。ちなみに、フォルクワーゲンのひとたちは、ID.BUZZのことを「ブッリ(Bulli)」と呼ぶ。タイプ2のときにドイツ国内でつけられたニックネームで、バスとデリバリーバンの合成語だ。

試乗したID.BUZZ Pro(乗用車版はProとサブネームが入っていた)は、5人乗り。後席用ドアは左右ともにスライド式で、電動開閉式を採用。着座位置はやや高めで、SUVに慣れているひとなら、視界のよさから、セダンよりこちらのほうを好むかもしれない。

最高速は145km/h

走りは電気自動車の常で、力強い。発進時からトルクがモリモリと出る。バッテリーをたくさん積んでいるので車重は2.4tとけっこう重いが、加速中に重さは意識させない。さすがはトルクが瞬時に立ち上がるモーター駆動だ。

ただしフォルクスワーゲンの発表によると、最高速は時速145km/hという。1モーター搭載車の限界なのだろう。将来、2モーターの全輪駆動バージョンなどが登場すれば、さらに最高速の上限が引き上げられるかもしれない。将来的な計画にはロングホイールベース版などもあるようだ。

145km/hの最高速までは加速が衰えはしない。モーターらしく、シームレスに速度が上昇していく。むかしのタイプ2とは比べようもないほど洗練された走りだ。

ステアリングはあえてやや反応を鈍くしてあるのだろう。それがなんだかいい感じの“ゆるさ”となって、ID.BUZZのキャラクターに合うように思えた。このゆるさはタイプ2に通じるものがある。

乗り心地は、前の席も後ろの席も良好。路面の凹凸で乗員が揺さぶられることはほとんどなかった。2.4tという重さも効いているはずだ。室内騒音は、フロントシートにいると、ルーフ前端を風が叩く音が少し気になったものの、路面からの音は意識されない。後席のほうが、意外なことに、落ち着いていられた。

初期受注1万台!

私はコペンハーゲンから橋を渡ってスウェーデン・マルメのほうまでドライブした。とにかく目立つ。街中や高速では周囲のひとが笑顔で見るし、停めていると、「どうですか?」と話しかけられる。皆、興味津々なのだ。

北欧の2国は、私が考えていた以上にピュアEVが多く、コペンハーゲンではフォルクスワーゲン「ID.3」がタクシーに使われていた。こうした事情もあってピュアEVや、フォルクスワーゲンのID.シリーズに関心が高いのだろう。「航続距離はどのぐらい?」と何度か訊ねられたのも印象的だった。ただ“カワイイ”と思われていない証拠だ。

「重要視したのは、パッケージング(ボディサイズに対する室内スペース)です。このクルマの開発はフォルクスワーゲンの乗用車部門でなく、商用車部門が担当していますから、念入りに煮詰められています。そこからデザインを決めました。デザインでは、見る人や乗る人の“笑顔を作ろう”と、フロントマスクやカラースキームを考えました。初期受注が1万台ですから、私たちの目論見は成功したようです」

マーケティングを担当したフォルクワーゲン・コマーシャルビークル部門のマルクス・シルドマン氏は、コペンハーゲン空港ちかくの試乗会場で、上記のように語ってくれた。

たしかに、ミニバンは便利そうだけれど、日本車はファミリーっぽくてちょっと自分に合わない気がするし、いっぽうメルセデス・ベンツ「Vクラス」じゃ大きすぎる……なんて思っているひとがいたら、ID.BUZZはぴったりかもしれない。

タイプ2をコマーシャル版として使っている人もいるから、商売用の道具として使うのもアリだろう。とにかくこのID.BUZZ、可能性は無限大だ。

新型ID.BUZZは、乗っていて楽しい気分になることまちがいない。日本への導入は「未定です」とフォルクスワーゲンジャパンの広報担当者は述べる。欲しいという声が高くなると、現実味も増すようだ。そもそも我々日本人ジャーナリストを国際試乗会に招待しているあたり、未定とはいえ、可能性はゼロじゃないように思う。

ゆえに、私は強く「欲しい」と言っておいた。

文・小川フミオ

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