Audi TTS × Porsche 718 Cayman
アウディ TTS × ポルシェ 718 ケイマン
好対照なミドルスポーツ対決! アウディ TTSとポルシェ 718 ケイマンはデジタル対アナログだった 【Playback GENROQ 2017】
エントリーの実力を測る
TTシリーズはアウディのもっともベーシックなスポーツモデル。派生タイプではなくスポーツモデルとして誕生したTTには、現状の“S”に加え、間もなく“RS”もラインナップされるが、エントリースポーツの最右翼であることは間違いない。その実力を、ライバルの718 ケイマンを交え再評価してみた。
「一線級のスポーツカーとして、TTシリーズはそろそろ真価が問われる頃合だ」
初代のアウディ TTは1990年代の半ばにデザイナーのフリーマン・トーマスが描きあげたデザインスタディであり、そこに具体的な生産計画などなかった。真横からのシルエットが左右対称に近く、古のアウトウニオンを彷彿とさせるすっきりとしたフォルムは評判が高く、スタディ通りの形状で生産がスタートしたのである。
初代TTは完成度の高いスタイリングと引き換えに高速域におけるスタビリティ不足を露呈し、デザイン先行によるクルマ造りの脆さを露呈した。TTは二代目で盤石の走行性能を身に着け、2015年にデビューを果たした三代目では初代TT由来の個性が薄らいだ代わりに、スーパースポーツであるR8にも通じる意匠を纏い存在感を強めている。
スタイル重視のスペシャリティカーではなく一線級のスポーツカーとして、アウディ TTはそろそろ真価が問われる頃合ではないだろうか。
「アウディがTTのターゲットとして定めているのはケイマン」
2.5リッター5気筒ターボユニットを搭載し400psオーバーを絞り出すアウディ TT RSは本邦デビュー直前の状態であり、我が国における現行最強は2.0リッター4気筒ターボ、286psのTTSとなる。TTSのポテンシャルを計るため、ワインディングに持ち込んだ1台はポルシェ 718 ケイマンである。
4駆と2駆、フロント横置きとミッドシップ縦置き、直列と水平対向、デュアルクラッチとマニュアル、2+2と2シーター・・・。これだけスペックが違えば、カスタマーはほとんど被らないだろうが、しかしアウディがTTのターゲットとして定めているのはケイマンである。
ケイマンはパワートレインを6気筒から4気筒に変更したことで、明らかにポテンシャルアップを果たしている。それはラップタイムや6気筒エンジンに軍配が上がる回転フィールと言った類の話ではない。エンジンの質量が減ったおかげでミッドシップスポーツカーとしての純度が高まっているし、4気筒ターボの少々ラフで高回転域を好む質感も、ドライバーのやる気を掻き立ててくれる。特にマニュアルのギヤボックスを備えた718 ケイマンは、今日では忘れ去られつつあるアナログ的なドライビングプレジャーを現代的に伝えてくれる稀有な1台だ。
「TTSのコーナリングは鋭いというよりも無表情な感覚」
ポルシェの室内は快適なドライビング空間として構成されているが、アウディ TTSのそれは空間演出が優先されている。暗い室内にスイッチ類の白い表示とメーターパネルだけが浮かび上がる。メーターパネル内の情報を切り替えられるバーチャルコクピットは、使いやすさよりもアウディ特有の質感の高さ、平滑な冷たさ、あるいは理屈臭さの演出として効いているように思う。
アウディ TTSの加速は電気モーターの加速に似て躊躇がない。サスペンションはコンフォートモードを選んでも引き締められていることがわかり、脚に呼応するシャシーも硬く、6速Sトロニックの変速にも隙がない。このため手に汗握るようなこともないのだが、その加速性能は相当なものだ。TTのスタイリングは代替わりするごとに鋭く尖ってきているが、それと同じくらい走りの感覚も鋭さを増している。
TTSのコーナリングは鋭いというよりも無表情な感覚で、ブレーキングからステアリングを微かに切り込むまではまるで曲がる気がないかのごとく直進し続けているのだが、いざ旋回を始めるとあまり外輪に荷重が掛かった感じもしないのに、オンザレールのコーナリングを見せる。フィードバックが決して豊富ではないのでいきなり限界に近寄ることはできないのだが、ポテンシャルの奥が深いのは容易に想像できる。
「718 ケイマンはアナログ・スポーツカーの完成形だ」
アウディの無表情な鋭さはまさにデジタル的で、一方の718 ケイマンは、加速の度にしっかりとリヤを沈めるし、脚のストローク感もたっぷりとあるし、クラッチのつなぎをミスるとちゃんとカックンしてしまう。路面や乗り手からの入力に対して体全体で反応し、それを伝える、もしくは抑える能力にも長けている。これぞアナログ・スポーツカーの完成形といえる。両者はスペックと同じくらい走りの性格も異なるのだ。
アウディ TTSの286psに対し、718 ケイマンは300psと最高出力に差があるが、実際にワインディングで体感してみると、シャシーのキャラクターの方がはるかに印象が強く、パワー差は看破できない。高回転域をキープしないとシャシーと調和しない718 ケイマンに対し、TTSは低回転からでも盛り返す底力に溢れている。スーパースポーツのように目が付いていかないほどの加速はしない両者だが、ボディの重みを感じさせる瞬間もほとんどないのでパワー的な不満はない。
コーナリングの違いも顕著だ。718 ケイマンはブレーキングからターンインするまで、ターンインしてからハナがエイペックスに張りつくまで、ほんの一瞬だが待ち時間を必要とする。これをTTSで追いかけていると、待ち時間の間にもスロットルを積極的に開けて718 ケイマンのテールに肉迫できる。
「スピードは両車とも拮抗するが、ユーティリティでTTSが圧倒する」
今回の箱根は山頂付近の路肩に雪が残っており、それが融け出してコーナーの中ほどに川が流れていた。そんなシーンに出くわすと、718 ケイマンでは微かに舵角を緩めて横Gを抜き、再びステアリングを切り増す動作を自然としてしまう。こうなるとクワトロシステムを持ったTTSの独断場である。サーキットであればオーバーテイクのチャンス到来である。コーナーを立ち上がったあとの直線では微かにポルシェが伸びるが、TTSのドライバーの心理に焦りは生じないだろう。
純粋なスポーツドライビングの視点から言えば718 ケイマンの方が圧倒的にピュアであることは言うまでもない。だが一方、普段使いまで含めた両者のポテンシャルを勘案すると、別の見方も生まれる。718 ケイマンの荷室容量は前後合わせて400リットルオーバー、対するTTSは約300リットルほどなのだが、もちろん使い勝手は別の話である。この2台で長距離移動をこなすのであれば、やはりTTSに軍配が上がるだろう。
使い勝手を犠牲にせず自らが煮詰めてきた技術だけでライバルのスピードに追い付いたTTSの評価は今回大いに高まった。スピードは718 ケイマンと同等、しかし使い勝手は911と同じかそれ以上、これこそアウディ TTSの正体なのである。
REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
【SPECIFICATIONS】
アウディ TTS クーペ
ボディサイズ:全長4190 全幅1830 全高1370mm
ホイールベース:2505mm
トレッド:前1565 後1545mm
車両重量:1410kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1984cc
ボア×ストローク:82.5×92.8mm
圧縮比:9.6
最高出力:210kW(286ps)/5300-6200rpm
最大トルク:380Nm(38.8kgm)/1800-5200rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後4リンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール(リム径):前245/40R18(8.5J) 後245/40R18(8.5J)
最高速度:250km/h
0-100km/h加速:4.9秒
燃料消費率:14.9km/L(JC08モード)
CO2排出量:156g/km(JC08モード)
車両本体価格:768万円
ポルシェ 718 ケイマン
ボディサイズ:全長4379 全幅1801 全高1286mm
ホイールベース:2475mm
トレッド:前1515 後1532mm
車両重量:1335kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1998cc
ボア×ストローク:91.0×76.4mm
圧縮比:9.5
最高出力:220kW(300ps)/6500rpm
最大トルク:380Nm(38.8kgm)/1950-4500rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後マクファーソンストラット
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール(リム径):前235/45ZR18(8J) 後265/45ZR18(9.5J)
最高速度:275km/h
0-100km/h加速:5.1秒
燃料消費率:7.4L/100km(EU)
CO2排出量:168g/km(EU)
車両本体価格:619万円
※GENROQ 2017年 6月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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TTはエンタメ系の見た目スポーツカーって。